114 潮浬とお茶会
「どうぞ、陛下」
ここは俺だけ緊張感に満ちた潮浬の部屋。
部屋の主である潮浬がゴキゲンな様子で、ティーカップに注いだお茶とお皿にきれいに盛り付けたクッキーを出してくれる。
これは……紅茶だろうか? すごくいい香りが漂ってくる。……飲んでも大丈夫だよね?
ちょっと不安が生じてティーカップを眺めていると、空気を察したらしく。潮浬が言葉を発する。
「そんなに警戒なさらなくても、変な薬などは入れておりませんよ。陛下を薬で無理やりどうこうしたら千聡と殺し合いになるでしょうから、やるなら陛下を連れて万全の逃亡準備を整えてからか、先にあの子を亡き者にしてからです。今は陛下に選んでもらった家具に囲まれたこの部屋が気に入っていますから、他所に移る気はありません」
……なんだろう。すこぶる物騒な話だが、妙な説得力がある。
色々気になる点はあったが、とりあせず今は置いておく事にして。緊張で口が渇いているのもあって、ティーカップを持って口に運ぶ……。
「――あ、ホントに美味しい」
思わず素直な声が出てしまい。それを聞いた潮浬が嬉しそうな微笑を浮かべる。
「お気に召していただけてなによりです。よろしければクッキーもどうぞ」
勧められるままにお皿に手を伸ばすが、こちらも絶品で。様々な形をしたクッキーはどれも、味・香り・歯ざわりともに素晴らしい品だった。さすがは潮浬オススメの一品である。
「よろしければもっとありますよ」
潮浬はそう言って、缶から新しいクッキーを取り出して並べてくれる。
気になったので缶を見せてもらったが。アルファベットっぽいけど微妙に違う気もする、よく分からない文字が書かれていて。全然読めなかった。
ただ一ヶ所。日付らしい数字が二つ書かれていて、五日前と一ヶ月くらい先が表記されている。
多分製造年月日と賞味期限だと思うが、潮浬から『美味しいクッキーが手に入ったので』とお誘いを受けたのは、10日くらい前だった気がする……。
今日のためにわざわざ新しい物を取り寄せてくれたのか。あるいは美味しいクッキーは俺を誘うための口実で、来るのが決まってから用意したのか……。
どちらもありそうだけど、まぁ美味しいからどっちでも良いかなと思いながらお茶とクッキーを楽しんでいると、潮浬がお茶のお代わりを注いでくれる。
なんか至れり尽くせりだ。
潮浬本人は熱いのが苦手だからだろう。氷を入れたアイスティーを用意していて、それを少しずつ飲みながら。嬉しそうに俺を見つめている……。
クッキーを10枚以上食べ。お茶も二杯飲み干した所で、俺は『本当に美味しかったよ。ごちそうさま』と口にする。
……これで解散ならなんの問題もないのだが。当然と言うべきか、そう簡単に事態は進まない。
「では陛下、なにかゲームでもしましょうか」
潮浬はそう言って、俺を引き止めにかかる。
多分だけど、ここからが本番だ。
「いいけど、なにするの?」
「そうですね……ではジャンケンをして、わたしが勝ったら陛下の子を産ませていただく。陛下が勝ったらわたしの初めてを捧げるとかどうでしょうか?」
……うん。そういうの来そうな気はしていたけど、思いっきりストレートなの来たな。
「それ、どっちが勝ってもやる事同じじゃない?」
「そんな事ありませんよ。陛下が勝った場合は初めてを捧げるだけですから、必ずしも子を授かる所まで行くとは限りません。どこまで行けるか、わたしの魅力と技量が問われます」
なるほど、言われてみれば少し違うな……って納得する所じゃない。確かにちょっと違って、潮浬にとっては大きな違いなのかもしれないが。俺にとってはほとんど同じだ。
「えっと……ゲームと賞品の重さが釣り合っていない気がするんだけど?」
「では三回勝負にしましょうか?」
なるほど、それならゲームの重さが三倍に……なるか?
て言うかそもそも、仮に一万回勝負で一万倍になったとしても全然釣り合わないと思う。
「そうじゃなくてもうちょっとこうさ、気楽にできるゲームにしない?」
「ジャンケンはとても気軽にできるゲームだと思いますが?」
……うんそうだね。俺の言い方が悪かった。
「もうちょっと賞品軽くしない?」
「軽くですか? ……ではわたしが勝ったら二人でカラオケに行って」
「うん」
「そこで『ちょっと試しに一回ヤらせてよ、先っちょ入れるだけでいいからさ』みたいな感じで行為に及ぶとか?」
「……いやそれ、ノリが軽くなっただけでやる事変わってないよね? カラオケボックスの店員さんに怒られるよ」
「そこは事前に話を通して。しかるべき対価を払うなり、貸切にしたりすれば良いのでは?」
……それは確かにそうかもしれないが、潮浬って正論をぶつけてくる所が微妙にズレてるよね。
「て言うか潮浬はまだ中学生だし、アイドルの仕事だってあるじゃない」
「それは今関係ないではありませんか」
「それはそうだけどさ…………って、いやいや! 今一番関係あるよ!」
危うく潮浬のペースに乗せられる所だった。
だが潮浬は、真剣な目を俺に向けたまま言葉を発する。
「ではわたしが成人して、仕事もやめたら陛下の子供を産ませていただけますか?」
「え……それは……」
「ほら、関係ないではありませんか。……今は難しい話は一旦置いておいて、とりあえずヤってから考えましょう」
「――ちょ、待った待った!」
潮浬の言う事は無茶苦茶なようでいて、意外と反論が難しいのが困り所だ。
テーブルのこちら側に回り込んで体を寄せてくる潮浬の肩を掴み。なんとか押し留めて、とりあえず一旦座ってもらう。
むしろ俺の方が理屈ではなく無理やりに。強引に事を運んでいる気がして心が痛むが、それでも無理なものは無理なのだ。
潮浬は残念そうにテーブルの反対側に戻ると。しばらく考えて言葉を発する。
「なにかをできない理由というのは、それを取り除けばできるようになる物です。ですから今日の事で、わたしの年齢や職業は問題ではない事がわかりましたね。するとやはり千聡の件……陛下の恋愛感の問題ですか……」
そう言ってさらに考え込む様子を見せる……って、あれ?
潮浬の職業はともかく、なんか年齢も問題ではないみたいな流れになっているけど、俺的には思いっきり問題だったはずだ。だって13歳だよ? 中学生だよ?
だがなぜか。ごく自然な流れで、そこは問題ではないみたいな空気にされてしまっている。
……これは最初から潮浬の作戦だったのだろうか? もしかして俺は、外堀を一つ埋められてしまったのだろうか?
背中に冷たいものを感じるが、潮浬は一つ成果を得た事で気を良くしたのか、今日は見逃してくれる気になったらしい。それ以上俺に迫るのはやめて、『もう一杯お茶を淹れましょう』と言って席を立った。
……あとは俺が夕食の準備をはじめる時間まで。普通に学校での話や、こないだのアフリカ行きは暑くて大変だったねみたいな。平和な雑談を続ける。
まるで嵐の前の静けさのように。噴火する瞬間を待つ火山のように。
不気味なほど穏やかな時間が過ぎていくのであった……。
現時点での世界統一進行度……3.47%
・日本の魔族勢力を全て配下に
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を正式に配下に
・天川さんを仲間に
・アフリカ全土の魔族を配下に(まだやや不安定)
千聡の主人公に対する忠誠度……100%→




