113 文化祭と潮浬のお部屋訪問
一歩間違えば吹き飛ばされていたかもしれない文化祭当日。
俺は千聡達と一緒に校内を回ったり。クラスのフランクフルト屋の調理販売をしたりして、結構楽しく過ごしていた。
……ただ一つだけ問題があって。学校内では俺達は四人でワンセットというのと、千聡達は観賞用というのが定着しているのでいいのだが。文化祭は外から来る人も多いので、その人達には美少女三人と平凡な俺の組み合わせが奇異に見えるのと、千聡達へのアプローチがとても激しいのだ。
そりゃまぁ三人共目が覚めるような美少女だから、ある意味当然ではあるんだけどね……。
とりあえずナンパ目的の人達は、リーゼの『自分と戦って勝てたら付き合ってあげますよ!』からの瞬殺で終わるので、問題ないと言えば問題ない。
でも中には『そんな冴えない男より俺達と回ろうぜ』と自爆ワードを口にする人もいて、言い終わらないうちに潮浬に意識を刈り取られていた。
その数は午前中だけで20人を越え。とても物騒な文化祭の様相を呈している。
ちなみに千聡にとっては想定していた事態らしく。救護班と言うのか、意識を刈られた人達の収容移送班が準備されていて。意識を刈る所から回収まで五秒以内の早業で、流れ作業のように進んでいくので、騒ぎになっていないのが幸いだ。
……午後からは天川さんが出場する弓道部の実技を見に行って、見事的の真ん中に命中させるのを見て拍手をしたり。卒業生だというお笑い芸人の舞台を見に行ったりしたが。舞台の方はなんと言うか、やはり聞いた事もない人だなという感想だった。
クラスメイトの一人が、『笠井が死んだような目をして舞台を眺めている姿の方が面白い』と言っていたが。酷い話だと思いつつ、否定もできなかったのが怖い所だ。
笠井は潮浬のコンサートをやりたがっていたからね……。
ともあれ、そんなこんなで文化祭は無事に終了し。
必要なかった気がする舞台の観客整理に使われた拡声器を回収して千聡に返却し、俺達は帰路についた。
翌日は文化祭の片付け、さらにその翌日は振り替え休日となっており。その日のお昼。俺は潮浬との約束を果たすべく、部屋にお茶をご馳走になりに行く事になった……。
と言うか、よく考えたら普通に執務室で飲み食いすればいい気もしたが。潮浬にとっては俺を自室に招き入れる事が重要なのだろう。それとなく提案してみたが、聞かなかった事にされてしまった。
――そんな訳で俺は今。ニコニコ笑顔の潮浬と一緒に201号室の前にいる。
「どうぞ、陛下」
潮浬がドアを開けてくれて中に足を踏み入れるが、よく考えたら女の子の部屋に入るのとか初めてなので、ちょっと緊張する……有紗さんの部屋には入った事があるけど。あそこは脱ぎ散らかした服と酒瓶と空き缶しかなかったので、女の子の部屋としてはカウントしない。
……そういえば潮浬、ここに来る途中で一瞬だけ。奥の204号室……有紗さんの部屋に敵意のこもった鋭い視線を向けていたけど、どうやらまだ勇者との仲が改善する様子はないようだ。
この問題もそのうちなんとかしないといけないなと思いつつ、潮浬の部屋へとお邪魔する。
「……おお、なんか普通の部屋だ」
思わずそんな感想が漏れてしまった。
もし俺のでっかい写真とか貼ってあったらどうしようかと思っていたが、さすがにそこまでではなかったらしい。
ちょっと自意識過剰だったかなと。少し恥ずかしくなる。
潮浬の部屋は当然と言うか俺の部屋と同じ間取りで、入って左に台所。右にお風呂とトイレ、そのとなりに押し入れ。正面奥はベランダに出るガラス戸がある。
真ん中にテーブルが置いてある配置も俺の部屋と同じだが、違うのは俺の部屋だとベッドが置いてある左奥に、布団が敷かれている事。右手側には沢山の服がかかったハンガーラックが、ギッシリと並べられている事だ。
そしてなんか、ちょっといい匂いが……甘くて爽やかな香りがする気がする……。
だが鼻をスンスンいわせていると明らかに不審人物なので。とりあえずなにか話題をと、部屋を見回す。
「――さすが女の子の部屋だけあって、服がいっぱいあるんだね」
「はい。よろしければご覧になってみてください」
相変わらずニコニコ笑顔の潮浬に言われ。せっかくなので少し見せてもらう事になった。
……潮浬が通う中学校のであろう制服・ジャージ・ハーフパンツの体操服・スクール水着……制服はともかく、こういうのってハンガーラックに掛けるものなのだろうか?
そんな疑問と妙な恥ずかしさが襲ってくるが、潮浬が横に立って『どれかお気に召すものはありますか?』などと言いながら、さらに服を見せてくれる。
浴衣・白衣・巫女服・メイド服・ナース服・チャイナドレス・バニースーツ・今はもう使われていないはずの古いタイプの体操着・布面積が明らかに少ない水着・クイーンじゃない方の女王様が着ていそうな光沢がある服・どう見ても肝心な部分が隠れない気がする、服かどうかも怪しいもの…………うん、このラインナップ明らかにおかしいよね?
「ねぇ潮浬。これって仕事で使う衣装かなにか?」
「そんな訳ないではありませんか。わたしは陛下以外の男に肌を晒すのなんて嫌ですから、衣装はロングドレスや着物など。首から上と手首から先以外はすべて覆うものしか着ませんよ」
……うん、そうだよね。
テレビで観る潮浬はいつもそんな格好だし、船のパーティーの時も布面積が多いドレスを着ていた。
「じゃあこの服はなに?」
「全部わたしの私物ですよ。いつか陛下と本懐を遂げる時に、服装もバリエーションがあった方が捗るかなと思いまして、色々準備してあるのです」
「…………」
「他にも小道具として、メガネやウイッグ。ピアスや刺青シールなんかも幅広く取り揃えていますよ、ご覧になりますか? それとも試しに使ってみますか? なにかお気に召した服があれば着てみますよ!」
「――い、いや。大丈夫……」
ある意味、俺の写真なんかよりよっぽどヤバイ物が置いてあった。
目をキラキラ輝かせて詰め寄ってくる潮浬から逃れるように、部屋の左側へと移動し。なんとか話を変えようと視線を巡らせる……。
「――あ、そういえば潮浬ってベッド使ってないんだね。布団派なの?」
強引な話題の転換に。潮浬はちょっと残念そうな表情を浮かべながらも、ちゃんと答えてくれる。
「寝台に特別のこだわりはありませんが、この下は陛下の部屋ですからね。少しでも陛下に近いほうがいいに決まっているので、ベッドは邪魔です」
……うん。俺の部屋のベッドと全く同じ場所に布団が敷いてある時点で、ちょっとそんな気はしてたよね。
俺が遠い目になっている間に、潮浬は言葉を続ける。
「あ、でも陛下が一緒に寝てくださる時にベッドがいいという事であれば。今すぐにでも導入しますよ!」
「……いや、お好みでいいんじゃないかな」
なんとかそう答え、俺はさらに逃げ場を。
別の話題を求めて視線を動かす……。
女の子っぽいおしゃれな小物や、ぬいぐるみなんかは置いてないんだな……ん、あれは?
目についたのは、布団の脇に置いてある場違い感著しいバケツ。
そしてそこにギッシリ詰まっている拳大の石だった。
「潮浬、あの石はなんであんな所に置いてあるの?」
「あれはですね、寝ているわたしに突然陛下が覆い被さってきて。吐息がかかるくらいに顔を近づけて、『潮浬、俺の子供を産んでくれ』『――はい陛下、喜んで! うれしい……夢みたいです……』ってなって、本当に夢だった時にやり場のない怒りをぶつけて叩き割るための石ですね」
「……それってどのくらい需要あるの?」
「ここ最近は週に五回ほどでしょうか。ちなみにこのバケツで六杯目です」
……なんかこの部屋、存在するもの全てが重たすぎる。
「――え、ええと……そうだ、そろそろお茶をご馳走になろうかな。そのために来たんだし」
「そうですね。では少々お待ちください」
もうこうなったら開き直ろう。無難な会話はあきらめて、強引に予定を消化する方向に舵を切る。
俺がテーブル近くのクッションに腰を下ろすと、潮浬はいそいそと台所に出向き。鼻歌交じりでお茶を淹れはじめる。
……よく見るとこのテーブル、なんか見覚えがあるな。
たしか千聡への誕生日プレゼント選びに付き合ってもらった日。ついでに行った家具屋で買ったものだ。
さらによく見ると潮浬が使っているヤカンやティーポット。俺の周囲にあるクッションやじゅうたんなんかも、思いっきり見覚えがある。
そういえば、『今ある家具は全部捨てて、俺と一緒に選んだものだけで統一する』とか言っていたな……。
……改めて考えてみると、かなりサイコパスな発想だ。
俺は周囲全てからプレッシャーを受けるような緊張感の中。口が渇くのを感じて、わりと本気でお茶を心待ちにするのだった……。
現時点での世界統一進行度……3.47%
・日本の魔族勢力を全て配下に
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を正式に配下に
・天川さんを仲間に
・アフリカ全土の魔族を配下に(まだやや不安定)
千聡の主人公に対する忠誠度……100%→




