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112 ちょっとした聞き間違い

 金曜の夜に日本を発って月曜の朝に戻ってくるという、週末をフルに使ったアフリカ行を終え。俺はまたいつもの日常に……普通とはちょっと違う日常へと戻ってきた。



 季節は秋を迎えて学校では文化祭の準備が始まっており、俺達のクラスはフランクフルト屋をやる事になった。


 簡単で無難な選択だと思う。


 ちなみにうちのクラスからは潮浬の大ファンである笠井が文化祭実行委員に立候補し。『特別ゲストに若槻潮浬を呼ぶ!』と息巻いていたが。『無理に決まってるだろ』と0.1秒で却下されたらしく、凹んでいた。


 そりゃまぁ、高校の文化祭に人気アイドルを呼ぶとか。そもそも無謀だよね。


 潮浬本人は『陛下がお望みなら来ますよ』と言っていたが。それはそれで大騒ぎになりそうな気がするので、笠井には悪いが遠慮しておいた。


 結局イベントのゲストは何年か前の卒業生らしい、聞いた事のないお笑い芸人が来る事になったそうで。まぁ、順当な所だと思う。


 俺は千聡達と四人で、四組ある当日の店番の内二組目をやる事になった。



 そんな訳で気楽に構えていた、文化祭一週間前の夕食後。笠井からメッセージが送られてきた。


『なぁ和人、拡声器持ってない? 備品が足りないんだ』


 ……こいつはなんで、一高校生に過ぎない俺が私物で拡声器なんか持っていると思ったのだろうか?


 即座に『持ってる訳ないだろ』と返信しかけて……ふと手が止まった。


「……ねぇ千聡。拡声器って持ってる?」


「現在は所持しておりませんが、当てはありますからご所望とあれば調達する事は可能です」


 うん。もしかしたらと思ったが、さすがの千聡でも持っていないようだ。


 わざわざ買ってもらうのも悪いので、やっぱり『持ってないよ』と返信しようとして。また手が止まる。


 千聡がじっと。なにかを期待するような目で俺を見ているのだ。


 これは……(お役に立ちたいのでお命じください)かな? 最近大分千聡達の考えている事が分かるようになってきた気がする。


 う~ん……断ってしょんぼりさせるのもかわいそうだよね。


「じゃあ、悪いけど調達お願いできるかな?」


「はい、お任せくださいませ!」


 おおう……なんか子犬のように尻尾しっぽがパタパタ振られているのが見えるようだ。


 千聡は嬉しそうに、スマホをポチポチしはじめる。どうやら通販で買うらしい。


 ――と、千聡が不意に顔を上げた。


「魔王様。威力はどのくらいがよろしいでしょうか?」


 威力……? ああ、音量の事か。


「小さめでいいと思うよ」


「はい。では、5キロトンくらいでよろしいでしょうか?」


 5キロトン? 聞いた事のない単位だけど、音量の単位だろうか? トーンとか音っぽいし。


「えっと……うん。多分そのくらいでいいと思うよ」


「承知しました。ご用意する期限などはありますでしょうか?」


「あ、そうだ。文化祭で使うから、それまでにお願いしたいんだけど」


「――文化祭でご使用になるのですか?」


「うん」


「…………承知しました。魔王様のなさる事であれば、私ごときが口を挟む道理もありません。喜んで片棒を担がせて頂きますし、期日に間に合わせましょう」


「う、うん……?」


 なんか千聡の様子が急に硬くなった気がするなと思っていると。となりで話を聞いていた潮浬が、ちょっと呆れた様子で口を挟んでくる。


「千聡。アホな事やらかす前に、もう一度陛下に何を調達するのか確認しておいた方がいいわよ」


「え――あの、魔王様……恐れながら、ご用意するのは核兵器でよろしいですよね?」


 …………は?


 今なんか、シャレにならない名前を聞いた気がする。


「いやいや、拡声器だよ! 声を大きくするやつ」


「――あ! っ、申し訳ございません。あろう事か、魔王様のお言葉を聞き間違うとは……」


 千聡は弾かれたように床にひざまずき、土下座ポーズを取る。


 ……て言うか、拡声器と核兵器を聞き間違えるのも大概だけど、それで話が普通に進んでいたのが恐ろしい。


 まず千聡が核兵器を用意できる事にびっくりだし。それよりも、文化祭で使う流れに反対しなかった事が恐ろしい。魔王への信頼度か忠誠度か知らないけど、高すぎるだろう。


 ……いやまぁ。適当に返事した俺も悪いけどさ。


「千聡。この先俺がなんか間違った事をしそうになった時は、止めてくれると嬉しいかな」


「……はい。私ごときが魔王様の深慮遠望しんりょえんぼうを量れるなどとは思えませんが、非才の身ながら違和感を覚えた時には無礼を承知で確認を取るように致します……」


 弱々しい声でそう言って。土下座ポーズのまま、ひたいが床につくまで頭を下げる千聡。


 ……夕食後の平和な一時ひとときの、たわいもない会話だったはずが。危うく世界史に残るような大事件を起こしかけたかと思うと、背筋が冷たくなる。



 ……とりあえず笠井に『拡声器調達できそう』と連絡した俺は、潮浬に向き直る。


「潮浬、気付いてくれてありがとう。助かったよ」


「陛下のお役に立てたのならなによりです。……もしご褒美をいただけるのなら、先日美味しいお茶とクッキーを入手しましたので。今度私の部屋にお茶を飲みに来て下さいませんか?」


 ……人気アイドルである潮浬の部屋に呼ばれてお茶とか。本来ならこっちがご褒美案件だ。……なのだが、相手はあの潮浬である。


 正直恐怖感しかないが、助けてもらった手前断りにくい。


 こういう時に頼りになる千聡も今は落ち込んで凹み中だし。潮浬ってこういうの仕掛けてくるタイミング、ホントに上手いよね。


「……お茶を飲むだけだよね?」


「おしゃべりをしたりゲームをしたりはするかもしれませんが、陛下の意に沿わない事は決して致しません」


 ……言い方が微妙に気になる。俺が同意すれば色々するし、多分そのアプローチもあるって事だよね?


「…………わかった。でも、変な事はしないからね」


「――本当ですか! ありがとうございます陛下!」


 とても嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、飛び上がらんばかりに喜ぶ潮浬。


 無邪気なその姿は天使みたいで本当にかわいくて。笠井をはじめ多くの人をとりこにするのがよくわかる。



 ――だが、俺は潮浬が天使の笑顔の裏に悪魔……でもないけど、淫魔……は失礼だし、なんて言っていいか分からないけど、とにかく危険な素顔を隠している事を知っている。


 俺は精神力を鍛えるために。天川さん家の神社で修行とかさせてもらえないかなと、そんな事を真剣に考えるのだった……。




 現時点での世界統一進行度……3.47%

・日本の魔族勢力を全て配下に

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を正式に配下に

・天川さんを仲間に

・アフリカ全土の魔族を配下に(まだやや不安定)


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『魔王様のお言葉を聞き間違うというありえない失態を犯してしまったのに、お許し頂いたばかりか、助言までおおせつかってしまった。全身全霊をかけてこのご恩に報いなくては』忠誠度上昇

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