108 古(いにしえ)の戦いの作法
リーゼとエミクーシさんの戦いが始まって、どのくらい経っただろうか?
スマホを取り出して時間を見る余裕もないほど、俺は戦いに釘付けになっていた。
……最初は互角に思えた戦いの様子が変わり始めたのは、リーゼが打ち込んだ刀とエミクーシさんの盾がぶつかり。刀が折れ砕けた所からだったと思う。
ちなみに折れた刀がまっすぐ俺の方に飛んできて、一瞬血の気が引いた。
潮浬が槍で弾いてくれ。後ろの壁に刺さって事なきを得たが、同時に千聡もスッと手を出し、シバも身構えたので。もし潮浬が弾いてくれなかったら、千聡やシバに当たっていたのかも知れない。
そう考えると、背筋が寒くなる。
一方戦いの方は……なぜか武器を失ったリーゼが押しはじめていた。
エミクーシさんが守勢に回る場面が増え。何度もリーゼの攻撃を受け続けた盾は、ついに完全に割れ砕けて投げ捨てられた。
鉄棍棒はリーゼの拳と正面からまともにぶつかってへし折られ。鎧は何か所も破損してボロボロだ。息も上がってきている。
対するリーゼは、ブーツこそキックの衝撃で破れてしまって裸足だが。体には傷一つないし、呼吸にも余裕がある。
「……ねぇ潮浬。リーゼ、なんか刀をなくしてからの方が強くなってない?」
「そうですね。本来の戦い方に近付いたからでしょう」
「本来の戦い方?」
「はい。リーゼちゃんは元々己が肉体のみを武器とし、本能に任せた戦い方をするタイプで、そういう戦い方をする時が一番強いのです。武器を使った戦いは、無理やり型にはめたものなのですよ」
「なんで型にはめたの?」
「手懐ける一環としてです。仲間になった頃のリーゼちゃんはそれはもう、手がつけられないほど尖っていたのですよ。自分を倒した陛下にだけは懐いていましたが、他の相手には文字通り、狂犬のようでした。それで、調教の手段として剣を教えたのです」
「調教?」
「はい。――あ、この場合の調教はわたしが陛下にして欲しいやつではなくて、猛獣を飼い慣らす方の調教ですよ。まずは戦いイコール殺し合いではないんだよという所から始まって、真っ直ぐ相手の命を取りに行く以外の戦い方や、手加減という言葉の意味などを順次教えたのです」
「……潮浬の特殊な趣味は置いておいて、剣を使ったら余計危ないんじゃないの?」
「リーゼちゃんの打撃の方がよほど危ないですよ。剣は練習用に柔らかい物を使えば、致命傷は避けられますから」
ああなるほど。グーパンチよりもハリセンの方が痛くないようなものか。
その理解で合っているかどうかは知らないが、俺は改めて戦っているリーゼを見る。
なるほど言われてみれば、刀を使っていた時よりも動きが滑らかだ。
そういえば一番最初の一撃も、刀を持っているのに回し蹴りから入っていたな……。
そんな事を考えて納得していると、部屋の中心でリーゼとエミクーシさんが激しくぶつかり。俺の所までその風圧が届く。
一旦距離をとって体勢を立て直す二人を見て、潮浬が口を開いた。
「戦機が熟してきましたね。そろそろ決着がつきそうです」
そしてその言葉通り。力を溜めるように一呼吸置いたリーゼとエミクーシさんは、すでに武器もないので渾身の力を拳に込めて床を蹴る――。
部屋の空気を揺らす凄まじい音と共に、二人の拳が中央でぶつかり合う……なんか、バトル漫画とかで見かける光景だ。
そんな事を思っていると、エミクーシさんの体がグラリと傾き……それでも一度踏み留まって、最後の力を振り絞った頭突きを繰り出す。
――迎え撃ったリーゼと互いの額がぶつかり。エミクーシさんは反動で大きく仰け反って、仰向けに倒れ……そのまま動かなくなった。
「決着ですね」
潮浬がそう言い。エミクーシさんの部下達が顔色を変えて走り寄る。
『来るな!』
――が、予想外に強く大きなエミクーシさんの声に、全員が足を止めた。
気を失った訳ではなかったらしい。わずかに首だけを動かして、言葉を続ける。
『一騎討ちの約束だ、手出しは許さんぞ。……はは、おまえ強いな。伝承に語られる戦士達のように、純粋で誇り高く。そして楽しい戦いであった……この時代にこのような機会に恵まれた事、望外の喜びだ、礼を言うぞ』
エミクーシさんは満足そうにそう言うと、笑顔を浮かべたまま静かに目を閉じる……。
どうやら、戦いはリーゼの勝利に終わったらしい。
ホッと息をついて、体から緊張と力が抜けていくのがわかる。……が、次の瞬間周囲の緊張が全く解けていない事に気付き、慌てて気を取り直す。
部屋の中央に視線を戻すと、リーゼがゆっくりと。大の字になって横たわるエミクーシさんに向かって歩み寄る所だった。
その向こうではエミクーシさんの部下達が動揺を露わに主を見つめ、目に涙を浮かべている人もいる。
あれ、これって……
「――リーゼ、ストップ!」
とっさに声を張り上げると。エミクーシさんの脇に立って右手を持ち上げつつあったリーゼの動きが、ピタリと止まった。
……そしてエミクーシさんが、抗議のこもった視線を俺に向ける。
『なぜ止めた!』
いや、そりゃ止めるだろう。これはどう見ても、エミクーシさんの死をもって決着にする流れじゃないか。
それはエミクーシさんにとっては本懐なのかもしれないし。一騎討ちという戦い方における一つの作法なのかもしれない。
だが俺にとっては、寝覚めが悪い事この上ない。そもそも一騎討ちを提案したのは俺なのだ。それが原因で人が……人じゃないかもしれないけど、とりあえず誰かが死ぬのは、到底受け入れがたい。
エミクーシさんから殺意のこもった視線を向けられながら、それでも俺は自分の主張を通すべく。決意を硬く持って言葉を発するのだった……。
現時点での世界統一進行度……0.25%
・日本の魔族勢力を全て配下に
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を正式に配下に
・天川さんを仲間に
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『完璧に想定通りに。理想的な形で事が運んでいる。さすがは魔王様が立てた策だ』忠誠度上昇




