105 バジリスクの王
リーゼキックによって轟音と共に扉が吹き飛び。そのままリーゼを先頭にエミクーシさんがいる部屋へと足を踏み入れる。
……部屋はかなり広いが、物が少なくてガランとした印象だ。
向かって右に身長2メートル以上ありそうな大男が一人と、その取り巻きらしい普通サイズの男達が9人。そして左側に相対する形で、身長3メートルはありそうな超大男。
大男と超大男はどちらも爬虫類っぽいイメージで、人型だけど皮膚の一部がウロコ状になっている。
よく似ているけど、親子とかだろうか?
――そして床に、リーゼが蹴破った扉の直撃を受けたらしい人が一人。気を失って倒れている……うん、見なかった事にしよう。
部屋の全員は蹴破られた扉と俺達の姿に驚きの視線を向けているので、どうやら接近は気付かれていなかったらしい。
他人事ながら、ちょっとセキュリティが心配になる。
そんな事を考えていると、沈黙を破って千聡が言葉を発した。
『エミクーシ殿ですね? ご招待を頂いたので足を運びましたが、ずいぶんと無礼な出迎えを受けた件について。ご説明願いましょうか』
魔族語での会話を潮浬が訳してくれるが、相変わらず潮浬の通訳は感情表現まで含めてとても上手い。
千聡が静かに怒っているのがよく伝わってくる。
そしてどうやら向かって左にいる超大男がエミクーシさんであるらしく、俺達をジロリと。値踏みするように視線を向ける。
その目は鋭く刺すようで、瞳はネコのように縦長だ。毒蛇の王バジリスクの元ネタになった人だというのが、体感で理解できる眼力がある。
さすがに視線で死ぬ事はなさそうだが、動悸、寒気、冷や汗、息苦しさなどは実感できる……ハムスターとかなら視線だけで死ぬかもしれない。
――幸い俺はハムスターよりは強いのでなんとか持ちこたえ。順に視線を動かして俺達を見るエミクーシさんの反応を待つ……。
『……魔王を名乗っているのはおまえか?』
視線が一巡し。リーゼに向かって発せられたその言葉。
俺は(おお、やっぱり強い人は強い人が分かるんだな)と素直に感心したが。同時に千聡達三人が殺気立つのがわかる。
『魔王様はこちらのお方。それは配下のリーゼです』
千聡の言葉にエミクーシさんの視線が俺に向き。少し首が傾げられる……うん、わかりますよ、『こんな弱そうなやつが?』って思ったんですよね。俺も全く同感です……。
見る人が見ると俺の強さ的なものを感じられるらしいが、エミクーシさんは鈍いタイプなのか。それとも周囲で千聡達が殺気立っているからわかりにくいのか、とにかく感じていないらしい。
とはいえさすがに大勢力のボスともなると、軽々しく思った事を口に出したりはしないみたいだけど……。
『こんな弱そうなやつが頭なのか?』
……おおう、まさかの空気読めないタイプだった。
俺の中ではむしろ正当評価なのだが、千聡達からは『ピキッ』と氷にヒビが入るような音が聞こえた気がする。
翻訳してくれる潮浬の声が素になっているので、これは危ない状態だ。
「――それよりも、事情の説明をお願いしたい」
過去の経験から学習できる子である俺は、機先を制して言葉を発する。
なんとかみんなが。特に潮浬が爆発するのに間に合ったらしく、俺の言葉を魔族語に訳して伝えてくれる。
そしてその言葉に。エミクーシさんはまた首を傾げた。
『事情を説明する使いを送っただろう?』
……お、予想外の反応がきたぞ。
「リーゼ、見かけましたか?」
「えっと……早く閣下の元に戻ろうと最速で倒してたので、話とかは……」
ああなるほど。途中で何回かエンカウントした敵の中に、伝言を伝えに来た人がいたらしい。
「仕方ありませんね。敵地であってみれば、わずかでも魔王様のお傍を離れる時間を短くするのは正しい判断です」
千聡はそう言って、特に気にした様子もなく話を切る。
『事情は伝わっていませんので、改めて説明をお願いします』
その言葉にエミクーシさんが答えてくれた話を要約すると、おおむね次のような内容だった。
『元々は話をするために呼んだ』
『話の内容は、互いの勢力圏の境界について。それと取引の話』
『だが部下の一人が。具体的には息子でナンバー2の人が、ここに向かう俺達が少人数だという情報に欲を出し。脅してお金を巻き上げようとした』
という事だったらしい。
その息子でナンバー2の人がさっきまで怒られていた大柄な人らしいので。この話を信じるなら、エミクーシさん自体は友好的な相手という事だ。
ちょっと緊張が和らいだ所で、千聡が問いを発する。
『先日我々の魔王様が襲撃を受けました。心当たりはありますか?』
『いや、俺は知らんな』
そう答えてエミクーシさんは息子さんに視線を送るが、息子さんも首をブンブン横に振っているので知らないのだろう。
嘘をついている可能性もあるが。俺が見た限りでは本当の事を言っているようだし、千聡と潮浬も同じ感触を抱いているらしい。
うん、これなら話は穏便に済みそうだ。
『わかりました。ではそちらからの謝罪をもって待ち伏せの件は水に流し、当初予定されていた話をしましょう』
千聡が俺の希望通り、穏便にまとめるべく話を進めてくれる。
『それはできんな』
……あれ?
エミクーシさんの言葉。一瞬潮浬の誤訳かと思ったが、千聡の表情も厳しいので間違いではないらしい。
『謝罪するのは嫌だと?』
『いや、約束を違えたのはこちらが悪い。謝罪はするし、そちらが望むなら息子の首も差し出そう』
その言葉にとなりで息子さんが青褪めているが、イマイチ話がわからない。
『ではなにがお気に召さないのです?』
『たとえ意図しないものであっても、すでに戦端は開かれた。武人が一度抜いた剣は、一度も敵と交えずして鞘には納まらんのだ。この上は、剣で雌雄を決するしかあるまい』
…………うん。イマイチなに言っているのかわらない。
魔族の流儀みたいなものかとも思ったが、千聡も(なに言ってんだこいつ?)みたいな表情をしているし、潮浬も同じくだ。
唯一リーゼだけが『わかるわかる』とでも言うように頷いているので、気が合うのかもしれない。
そしてリーゼと同じタイプだとすると、理屈よりも感情や感覚で動くタイプなのだろう。
リーゼは千聡が手綱を握っているから暴走しないけど、エミクーシさんを制御する人は誰もいないのだ。
『一つ伺いたいのですが。戦うのならなぜさっさと攻撃してこないのですか?』
『こちらに非があるのに、そんな事できる訳がないだろう。今は一旦本拠へ戻り、戦いの準備を整えてこい。そして堂々と相まみえようではないか』
堂々と胸を張って言い放つエミクーシさん。
千聡は狡猾な人だという情報を得ていたらしいが、なんだかすごく愚直な人に思えてきた。
もっとも、ちょっと話しただけなので本質は分からないけどね。
……そしてこれは、どうしたらいいんだろう?
準備をすると言って日本に帰って、そのまま放置……とかはダメだよね? それこそ刺客どころか、本人が乗り込んできそうだ。
となると……。
俺は考えを巡らせ。やがて一つの結論に至って口を開くのだった……。
現時点での世界統一進行度……0.25%
・日本の魔族勢力を全て配下に
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を正式に配下に
・天川さんを仲間に
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『戦うとなれば勝利の目算は立てられるが、魔王様はなるべく穏便にとお望みだ。先の不手際を挽回するためにも、参謀としてなるべく穏便に勝つ方法を考え。魔王様のお役に立たないと……』忠誠度上昇




