103 不可解な待ち伏せ
戦いが終わった部屋で。槍を手に気を失った人達を見張っている潮浬の元へ行き、合流を果たす。
……ん、あれ?
「ねぇ潮浬。槍は控え室に置いて来たんじゃなかったっけ?」
「はい、これは敵が持っていたものです。せっかくわたしに槍を手放させたのに、その前にノコノコ槍を持って現れるなんてなに考えていたんでしょうね? とりあえず真っ先に倒して、ありがたく利用させてもらいましたが」
「――ああ、そういえばいつもの槍とちょっと違うね。なんか……安物っぽい?」
「覚えていてもらえて光栄です。そしてさすが陛下、お目が高い。これは安物ですね。思いきり振るったら折れてしまいそうで、気を使いました」
潮浬はそう言って嬉しそうに、顔をほころばせる。
……少しの間を置いて、部屋を見回していた千聡が話の切れ目を確認したように口を開く。
「52人しかいませんね。リーゼは53人の気配がすると言っていましたが、一人取り逃がしましたか?」
「うん。リーダー格っぽい一人が、いち早くそこの扉から奥に逃げた。追いかけようかと思ったけど、陛下の傍を離れるのは嫌……リスクがあるなと思ったから、そのままにしておいた」
今、思いっきり本音漏れたよね?
「それは良い判断です。一人逃がした所で後でなんとでもなりますが、もし魔王様と護衛を引き離す策略だったりしたら、それこそ一大事ですからね」
「――ちなみに52人中、自分が31人倒しましたよ!」
いつもは黙っている事が多いリーゼが、ここぞとばかりにドヤ顔で自己主張を挟んでくる。
「それはご苦労でした。褒賞は追って……魔王様、一言褒めてやってくださいませんか?」
「え、うん。リーゼ、お疲れ様……」
そう言葉を発すると、嬉しそうな表情を浮かべたリーゼが俺の足元にペタンと座り。じっとこちらを見上げてくる……。
……これはあれだ。シバとボール遊びをしていて、投げたボールを拾ってきた時のポーズだ。……ええと、褒めるってそういう事?
「――よーしよしよし、いい子いい子。えらいぞリーゼ」
とりあえずシバにやるように、頭をワシャワシャと撫でてみる。
違ったらどうしようかと思ったが、満面の笑みを浮かべて気持ち良さそうにしているので、どうやら正解だったらしい。
そういえばシバと遊んでいる時。褒められるシバを羨ましそうに見ていたし、なんなら犬側で参加してきた事もあった気がする。
正解を引いた事に安堵していると、気付いたらとなりに潮浬も座っていた。……うんまぁ、潮浬も頑張ってくれたもんね……。
潮浬とリーゼの二人を撫でた後。俺は千聡に向き直る。
「これからどうするの?」
待ち伏せを撃退したとはいえ、ここはまだ敵地のど真ん中なのだ。
おまけにリーダ格の一人は逃亡したらしい。
「選択肢としては、『逃げた一人を追う』『ここの主であるエミクーシ殿を探して話を聞く』『一旦日本へ戻って相手の出方を見る』といった所でしょうか」
「なるほど……」
俺としては三つ目の日本に帰る選択肢がいいが、それだと潮浬が納得しないだろう。
自称デートを邪魔されたの、相当根に持っている様子だからね。
そしてエミクーシさんが襲撃を命じた黒幕なのかどうか。せっかくここまで来たんだから、確認したい気もしないではない。
このまま帰っても、問題はなにも解決しないしね……。
「じゃあ、エミクーシさんを探しに行こうか。……ていうか、逃げた一人がエミクーシさんである可能性は?」
「それはないと思います。少なくとも、一撃も交えず逃げるような人ではありません」
「そっか……じゃあ、この先のどこかにいるのかな? 探す当てはある?」
「ここに来るのは初めてですが、内部構造については事前に情報を集めてあります。完璧とは言えませんが、いくつか可能性が高い場所は絞り込めると思います」
「おお、さすが千聡。頼りになるね。じゃあ案内してくれる?」
「――はい! ではこちらへどうぞ」
潮浬とリーゼを褒めたので、公平を期すために千聡も褒めておこうと思ったのだが、思ったよりストレートな反応が返ってきた。声がいつもより一音高い。
そして本人は平静を装っているつもりなのだろうが、顔がちょっとニヤけていてとてもかわいい。
そんな千聡を見て和みながら、奥の扉をくぐり。先へと進んでいく。
……歩きながら、千聡が潮浬に声をかけた。
「戦った感じはどうでしたか?」
「う~ん、正直弱かったわね。普通の人間の数倍から、強いのでも10倍くらいの戦闘力だったし。待ち伏せにしては準備も全然だったわね」
「なにも策を講じていなかったのですか?」
「うん、全く。武器を取り上げて大勢で囲んで、それだけだったわね。明かりを消したりガスを流したりもなかったし、相手は姿を現さずに小さな穴から弾だけ撃ってくる想定もしてたけど、なにもなかった」
「それは妙ですね。エミクーシ殿は武闘派ですが無能ではなく、むしろ狡猾な人物だと認識しているのですが」
「それは知らないけど、とりあえず待ち伏せはグダグダだったわよ。入り口が閉まるや奥からゾロゾロ出てきて、降参しろって言うだけ。頭おかしいのかと思ったわ。おまけに、せっかくわたしから槍を取り上げたのに、槍を持って出てくるアホまでいる始末。こっちの情報全然掴んでなかったんでしょうね。わたしが槍得意とか」
「ふむ……わざわざ呼び出してそれは、あまりにお粗末ですね」
「そうね。よほどの馬鹿が計画したか、あるいはそのつもりはなかったのに、急に方針を変えたかでしょうね……わたしとしては面白くない状況だけど」
「後者だとしたら、先日の襲撃の黒幕は別。前者だとしたら、尻尾を掴めないほど巧みな偽装ができたのは不自然ですからね」
「…………」
なんか潮浬って、意外と分析とかもできるよね。
知力が、千聡>潮浬>リーゼ
戦闘力が、リーゼ>潮浬>千聡
といった所だろうか?
そしてなにやら、潮浬が根に持っている先日の自称デートを邪魔した襲撃犯の黒幕は、別にいる可能性が高いらしい。
問題解決までの道のりが遠くなった気配に。俺は頭を抱えながら千聡の後を付いて歩くのだった……。
現時点での世界統一進行度……0.25%
・日本の魔族勢力を全て配下に
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を正式に配下に
・天川さんを仲間に
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『魔王様から頼りにして頂けるなんて、光栄の極み。身に余る幸福だ……』忠誠度上昇




