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102 罠の中へ

 サハラ砂漠最高峰である山の地下で。潮浬とリーゼは今まさに、わなとわかっている場所へ自ら乗り込もうとしている。


「――あ、ちょっと待ちなさい」


 不意に発せられた千聡の言葉に、意気揚々と飛び込む所だったリーゼが前につんのめるように体勢を崩し、悲しそうな視線を向ける。


「活躍の場を奪ったりはしませんよ」


 千聡はそう言いながら、扉のとなり。むき出しのコンクリートの壁を指でコンコンと叩き、音を確かめるように耳を澄ませる……。


「普通のコンクリートですね、厚さは50センチという所ですか。並みの銃弾は防ぐでしょうが、大型の対物ライフルや大砲に相当するサイズの武器相手には万全とは言えません。潮浬、リーゼ。間違っても魔王様に害が及ばないように、中に入ったらこちら側以外の壁を背にして戦うようにしなさい」


「了解」

「はい!」


 打てば響くような返事をして、二人は今度こそ敵が待ち伏せているだろう部屋へと向かう……。



「わたしは左から行くから、リーゼちゃんは右からね。部屋に入ったらちゃんとドアを閉めるのよ。もし流れ弾が外に飛び出して陛下に当たったら大変だから」


「わかりました、どっちが沢山倒せるか競争ですね!」


 リーゼは遠足に行く子供のようなテンションで扉をくぐり。潮浬が後に続くと、本当に扉を閉めてしまう。


「……ねぇ千聡、ホントに大丈夫なのかな? 明かり消されたりガスを噴霧されたりする可能性があるなら、せめて入り口は開けといた方がいいんじゃない?」


「視界を奪う気なら先方は自分達だけ暗視ゴーグルを装備した上で、この通路も含めて全体の照明を消す事ができるのです。それに扉を開けていて、もしガスが魔王様の元へ流れてきたら、それこそ一大事です。後顧こうこうれいがない方が、二人も安心して存分に力を振るえるでしょう」


「そう……かな?」


「はい。……魔王様、そんな事より念のため、私の影に身をお寄せください」


 そんな事かどうかは疑問だが。千聡に言われて、俺は壁-千聡-俺の配置をとる。


 ここでゴネたって困らせるだけだから素直に従うけど、好きな女の子を盾にする的な行為は、どうにも居心地が悪い。

 恋人同士はまだまだ遠いな……。


 そんな事を考えていると、千聡は足元のシバに視線を合わせるようにしゃがみ込み。例の魔族語だろう言葉でなにかを話すと、シバは一旦俺を見上げた後、一目散に来た道を戻っていく。


 ……そういえばシバって、言葉が通じるらしい。


 通じる言葉は魔族語なので俺はさっぱりだし、言葉が通じるのと言う事を聞くかは別の話なようだが。最初は自分を倒したリーゼの言う事を。次になぜか、俺の言う事も聞くようになった。


 直接言葉は通じないが、ボールを投げると取って来てくれるし、お手もお代わりも、伏せも待てもやってくれる。


 でも千聡や潮浬が相手だと断固としてお手をしないので、どうやらシバの中では、『俺・リーゼ>自分>千聡・潮浬』という序列みたいなものがあるらしい。


 一方で仲間意識も持ってくれているようで、筋の通ったお願いなら千聡の言う事も聞いてくれるそうだ。なので今のは多分、それに該当したのだろう。


「千聡、シバになに言ったの?」


「ここに来る時に通った部屋まで戻って、こちらに来ようとする者がいたら全て足止めするようにと」


「……それって大丈夫なの?」


「魔王様のご意向を体して、なるべく食い殺さないようにと言ってあります」


(いやそっちじゃなくて、シバが大丈夫かって話だったんだけど……)


 と突っ込みかけて思い出したが。そういえばシバはかわいい柴犬の外見に反して強い魔獣で、戦闘力だと俺達の中でリーゼに次ぐ二番目だと聞いた気がする。


 ちなみに三番目以降は、潮浬>千聡>天川さん>俺だと思う。


 天川さんはああ見えて弓の達人だし。毎日あの長い石段を昇り降りしているだけあって、俺よりずっと体力あるからね……。


 そんな事を考えていると、どうやら壁の向こうで進展があったらしく。リーゼの大声が響いてくる。


 魔族語なので千聡に通訳をお願いすると、『ごたくはいいから、さっさとかかって来い!』『来ないならこっちから行くぞ!』『閣下の命令で命は取らないでやるからありがたく思え!』などであるらしい。


 完全に対決モードだが。俺には聞こえなかっただけで、千聡によると相手からは交渉の打診があったらしい。


 もっとも、『お前達は捕らわれた。生きて帰りたければこちらの言う事を聞け』的な、交渉と言うより脅迫きょうはくに該当する案件らしいが。一応要求だけでも聞いてみる……なんて事はなく。問答無用で戦う気満々らしい。


 相手としては思惑通り俺達を罠の中へと誘い込み、10倍以上の数で囲んで勝った気でいたのだろうが。まさか取り付く島もなく要求を拒絶されるとは思っていなかったのだろう。なにやら困惑しているらしい。


 気持ちはよくわかる。


 俺の耳には相変わらずリーゼの大声しか聞こえてこないが、どうやら戦いの時は迫りつつあるようだ……。


 しばらくすると、突然大量の爆竹を一斉に鳴らしたようなすさまじい銃声といくつかの爆発音が壁越しに響いてきて。同時に怒号や叫び声、悲鳴らしき声が混じった音が洪水のように流れてくる。



 ……時間にして数分。もしかしたら一分くらいだったかもしれない喧騒けんそうの後。急に音がしなくなって、辺りはシンとした静寂せいじゃくに包まれた。


 一瞬俺の耳がおかしくなったのかと思ったが。軽く手を叩いてみると音が聞こえたので、本当に一気に音が消えてしまったらしい。


「――師匠、片付きましたよ!」


 突然扉が勢いよく開き、ちょっとビクッとしてしまったが。無傷のリーゼがテンション高く姿を現す。


「ご苦労でした。――魔王様、どうぞ」


「う、うん……」


 千聡にうながされ、俺も部屋の中へと足を進める。

 部屋には薄いきりのような煙と、濃い火薬の匂いが立ちこめていた……。


 目をらしてよく見ると、部屋の奥に沢山の人間が……あまり人間っぽくない人もいるので、多分魔族が。折り重なるようにして倒れている。


 辺りには銃をはじめとした沢山の武器が散らばり、ソファーやテーブルがひっくり返って、嵐の後のような惨状だ。


 そんな中でやりを手にした潮浬が、倒れている人達に目を光らせている。



 俺は千聡の後に続いて。リーゼに護衛してもらいながら、潮浬の元へと歩みを進めるのだった……。




 現時点での世界統一進行度……0.25%

・日本の魔族勢力を全て配下に

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を正式に配下に

・天川さんを仲間に


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%→

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