101 サハラ砂漠
俺は今、エミクーシという魔族の偉い人に会いに行くべく。一面の砂の海を走るごつい車に乗っている。
場所はチャドという国の北部らしい。なんか聞いた事あるなと思ったら、首都が『ンジャメナ』で、しりとりの最終奥義に使う伝説の街だった。
……だが俺達が目指すのはその伝説の街ではなく、国の北部に広がる広大なサハラ砂漠。
そしてその奥地にある、サハラ砂漠で一番高い山らしい。
金曜日に学校が終わった後すぐに日本を発ち、千聡のプライベートジェットからヘリ、車を乗り継いでほぼ丸一日。
今回の目的地であるエミクーシ山の姿が大きく見えるようになってきた。
標高3000メートルを越えるらしく。富士山よりちょっと低いくらいの、大きな山である。
目的地を前に車を停め、最後の休憩をとる事になったが。エアコンが効いた車から一歩外に出ると熱された鉄板の上に乗せられたような、ジリジリした熱さが襲ってくる。暑いではなく、もはや熱い。
シバを保護しに行った北西アフリカの山脈はまばらにでも草や木が生えていたが、ここは見渡す限り完全に砂しかない。イメージ通りの砂漠。砂の海である。
空気がカラカラに乾いていて。千聡に貰ったクリームを塗っても顔がガサガサになって唇がヒビ割れるし、細かい砂が目や耳に。鼻に口にと入ってきてジャリジャリするし、髪の毛にも砂がついてバサバサだ。
おまけに陽射しもハンパなく強い。
子供の頃は砂漠の人がなんで頭からすっぽり布を被っているのか疑問だったが、今なら気持ちがよくわかる。
海の砂浜のイメージで水着とかになったら、死にますわこれ。
――車の中では潮浬が外に出て体を伸ばす元気もないくらいにぐったりしているが。俺の姿に気付くと『陛下、これを……』と言って、使った形跡のあるリップクリームを渡してくれた。その執念は評価したい。
一方で、リーゼとシバは車が停まるやいなや元気に外に飛び出していき。ちょっと離れた砂丘の上で元気に駆け回っている。
無敵だろうか?
……休憩を終えて車に戻り。いよいよ目的地であるエミクーシ山へと向かう。
ちなみに車は三台編成だが、大きな車なので人も荷物も一台に全部収容されている。
後の二台は予備で。砂漠の真ん中で故障するとそのまま死に繋がるから用意されているのだろう。
予備が一台ではなく二台という所に、千聡の用心深さが感じられる……。
車は次第に山を登りはじめ。辺りの景色は砂から岩へと変わっていく。
リーゼから『サハラってのはアラビア語で「砂漠」って意味で、サハラ砂漠は砂漠砂漠になるんですよ!』という豆知識を聞くが。リーゼって普段はわりとお馬鹿キャラなのに、言葉に関しては博識だよね。
以前にも、ヘリコプターの区切りが「ヘリコ・プター」だって教えてもらったし。
その点について訊いてみたら。『閣下を探して世界中を旅していたので、自然と覚えました!』だそうだ。
とりあえず『お、おう……』と返事をしておいた。
そんな事をしているうちに車は山の中腹ほどに達し、大きな岩の陰に停止する。
千聡の『到着しました』の声に車を降りると、岩の根元から地下……山中に向けて洞窟のような通路が伸びている。
「……見られてますね」
俺が体を伸ばしている間に、リーゼが周囲に視線を巡らせて言葉を発し。千聡が『そうでしょうね』と応える。
なんか早くも緊張感が張り詰めている気配だ。
潮浬は若干フラつきながらも、車を降りるや2リットルのペットボトルに満タンの水を一気にがぶ飲みして。頬を叩いて気合を入れると、愛用の槍を手に俺の傍を固めてくれる。
俺達の到着を待っていたように……と言うか待っていたのだろう。洞窟のような通路から人影が現われて、恭しく頭を下げた。
「和人様御一行ですね。どうぞこちらへ」
潮浬の通訳によるとそう言って、先頭に立って薄暗い洞窟へと進んでいく。
後をついて歩きながら、千聡が俺の耳に顔を寄せて『魔王様、お気を付けください。どうやらあまり友好的ではないようです』とささやいた。
千聡の吐息を感じて、ただでさえ暑さで火照り気味の顔が余計熱くなった気がしたが。事情を訊くと『魔王和人様御一行』と言わなかったという事は、少なくとも俺を魔王とは認めていないという事らしい。
なにやらピリピリした気配に顔の熱が冷めるのを感じながら、下に向かって伸びる階段を下っていく……。
階段は全部で200段ほどもあり。天川さん家の神社の石段ほどではないが、わりとつらかった。
階段を降り切った後は水平な通路になるが、照明が少なくて薄暗い。ちょっと嫌な感じがする道だ。
でも地上と違って涼しいので、潮浬が少し元気になってきた気がする。
一本道の通路をしばらく歩くと扉があり。それをくぐった先は、ちょっと広い部屋になっていた。
ソファーやテーブルなどがあるが、俺達と案内してくれた人以外に人影はない。
「こちらは来客の控室となっております。武器はこちらでお預かりさせて頂きます」
案内してくれた男の人。体は小柄だが筋肉質で、ちょっとワニっぽい顔をした人の言葉に、潮浬とリーゼは意外なほど素直に従い。潮浬は槍を置き、リーゼはギターケースから刀を引き抜いて、抜き身でテーブルに置く。
魔族界隈ではよくある事だったりするのだろうか?
案内の人はなにか言いたそうに千聡のカバンにも目を向けたが。すでに十分な成果を得たと思ったのか、『では奥へどうぞ』と言って、さらに先の扉を開く。
扉の先にはまだ通路が続いていて。俺の前を千聡とリーゼ、後ろを潮浬とシバが固めた体制で、先へと進んでいく。
「……師匠、前方に殺気が53。距離は200メートル前後です」
不意にリーゼが、小声で千聡にささやいた。
わりと衝撃的な発言が飛び出した気がするが。千聡は小さく頷き、潮浬に意味ありげな視線を送っただけで、足を止める事はない。
俺は不穏な空気を感じながらも、半ば開き直って千聡についていく。
どのみちこんな砂漠の真ん中で一人になったら野垂れ死ぬしかないんだから、全部千聡に預けようの精神だ。
……そのまましばらく。多分150メートルくらい歩いていくと、また扉に突き当たった。
「どうぞこちらへ。主人がお会いになります」
頑丈そうな扉を開き。案内の男はその脇に立ったまま、俺達を中へ進めようとする。
……が。千聡はそこで足を止め、部屋には入ろうとはせずに案内の男に視線を向ける。
「貴方が先に立って部屋の中まで案内し、主人に紹介するのが礼儀ではありませんか?」
「そ、それは……」
千聡の言葉に、男は微妙に視線を逸らして口ごもる。
相変わらず潮浬の通訳は上手で、口調に滲む気まずい感じまで巧みに表現されている。
明らかに部屋に入りたくないといった様子だ。
なにかあるのかなと思って千聡の肩越しにのぞいてみるが、開いた扉から見える部屋の中に、特に変わった様子はない。
明るくて奥行きがあって、広くて豪華な応接間といった感じである。
だが案内の男は答えに詰まり。明らかに挙動が不審になってしばらく目を泳がせていると思ったら、突然後方に向かって走り出した。
「――捕えてきますか?」
リーゼが平坦な声で言うが。千聡は興味なさそうに視線を前方に向ける。
「放っておきなさい。それよりこの先の部屋、おそらく武装した敵が待ち受けているでしょう。貴女の読みだと53人。部屋に入った瞬間灯りが消えて真っ暗になる可能性や、催涙ガスなどが噴霧される可能性もあります。潮浬と二人で制圧できますか?」
「任せてください! 余裕です!」
「わたし一人でもいいくらいだけどね」
かなり物騒な会話が平然と交わされ。リーゼは自慢気に胸を張って、今すぐにでも乗り込みそうな勢いだ。そして潮浬もそれを肯定する。
「ちょっと待って。二人共武器置いてきちゃったし、50人相手とかいくらなんでも無茶なんじゃない? それに、真っ暗になったら同士討ちとかしちゃわない?」
「感じる気配からして強い相手はいませんから、大丈夫ですよ!」
「視界なんてなくても気配で大体わかりますし、毒が撒かれても効く前に片付ければいいだけです。……雑魚をたかだか50人かそこら集めて、武器を奪っただけで勝てる気でいるなんて。ずいぶんと舐められたものよね、ねぇリーゼちゃん」
「ホントですね!」
……なんなんだろう、この圧倒的自信?
とはいえ千聡もいけると思っているようだし。この地下通路は涼しいので、潮浬の元気も回復している。
そういえば最初、潮浬は一人で乗り込む気でいたんだったな……。
――止めようにもなにか代案がある訳でもないし。本当に敵がいるのなら、行かなくてもいずれ向こうから来るのだろう。
罠に飛び込むようで不安はあるが。本人達が大丈夫だと言っているし、ここは任せるのが妥当なのだろう。
頭の中でそう結論を出し。『……二人共気を付けて行ってきてね』と声をかけると、潮浬もリーゼも嬉しそうな笑顔を浮かべて『『お任せください!』』と声をそろえる。
それでも不安を消せない俺が見守る中。二人は意気揚々と扉をくぐり。罠と分かっている場所へと飛び込んでいくのだった……。
現時点での世界統一進行度……0.25%
・日本の魔族勢力を全て配下に
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を正式に配下に
・天川さんを仲間に
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『弱った潮浬への対応も。気がはやるリーゼに一声かけて間を取るのも的確にやってくださり、しかも効果は絶大。特に潮浬への対応は私ではこうはいかない。やはり魔王様はなくてはならない、我々の扇の要たる存在だ』忠誠度上昇




