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100 招待状

 千聡のお誕生日会から数日後。夕食後の時間に、千聡がためらいがちに話を切り出してくる。


「魔王様。実は魔王様宛に招待状が届いているのですが……」


「招待状?」


「はい。今までもパーティーや集会への招待状は届いておりましたが、魔王様のお手をわずらわせるほどの案件ではなかったので断っておりました。しかし今回の相手は大物で、しかも魔王様と一対一での面会を求めてきております」


「え、それって俺一人で誰かに会うって事? ……あんまり自信ないし、そもそも言葉通じる人?」


「いえ。もちろん配下や護衛は従えた上での一対一です。他の勢力を交えずにという意味だとご理解ください」


「ああ、なるほど……ちなみにどんな人なの?」


「今は名を『エミクーシ』と名乗っていて、この世界ではバジリスク伝承の元になった存在です。北アフリカのサハラ砂漠中央。名前の元となったエミクーシ山に居を構えており、アフリカにおける魔族勢力のトップと言ってよい存在です」


「バジリスク……ってなんだっけ? 目が合ったら死ぬ鳥だっけ?」


「それはコカトリスですね。両者を同一とする伝承もありますが、バジリスクは毒蛇どくへびです。その強い毒は吐く息が草木までも枯らしてしまい、北アフリカに広がる広大な砂漠はバジリスクの毒によるものだという話もあるくらいです」


 おおう。一応勉強したつもりだけど、まだまだ不足だな俺のモンスター知識。


「……そんな人に会って大丈夫なの?」


「毒の心配をされておられるのなら大丈夫です。たしかに体に毒を宿していますが、伝承に語られるほど強くはありません。ですが……」


「ですが?」


「エミクーシ殿はある意味毒の強い方です。気性が荒く、気に入らない相手は躊躇ちゅうちょなく潰しにかかります。脅迫きょうはく誘拐ゆうかい・暗殺と、手段を選ばずにです」


 その言葉に、潮浬がまとう空気がサッと変わる。


「もしかして、この前陛下を襲った連中の雇い主って事?」


「可能性はありますが、証拠はありません。魔王様は現在ヨーロッパで勢力を広げており、ヨーロッパ南部は伝統的にアフリカと繋がりが深いですから、その件で話をしたいと言ってきた可能性もありますし。その件で敵意を抱いている可能性もあります」


「――わかった。じゃあわたしが乗り込んで問い詰めてくる!」


 ……潮浬さんってばなんだかとてもやる気で、しかもケンカ腰だ。


「少し落ち着きなさい。来たのはあくまで『話をしたい』という招待状です。せんだっての襲撃についてはあくまで可能性で、むしろ隠蔽いんぺいにかけている手間を考えると、武闘派のエミクーシ殿らしくないとも言えます」


 そういえば前の襲撃の黒幕。千聡が調べているけど見つかってないって話だったな。


 毎日の報告で申し訳なさそうにしているので、逆にこっちの方が『なんかゴメン』という気になってくる……。



 潮浬が少し不満気に大人しくなり。それを確認した千聡の視線が俺に向く。


 正直、こんな話を振られても困るんだけど……。


「えーと……千聡はどうするのがいいと思う?」


「リスクがある以上、招待を受けるのはお勧めいたしかねます。ですが、世界征服を目指す道程ではいずれ対峙たいじしなければならない相手ですし、もし先日の襲撃がエミクーシ殿の指示によるものなら、放置しても第二第三の襲撃を招くだけですから、早期に対処するのが上策であるとは言えると思います」


「だから、わたしが行ってくるって言ってるじゃない! ホントに話がしたいのならわたしが陛下の名代みょうだいとして聞いてくるし、なにか企んでいるなら潰してくればいいんでしょ!」


 お、早くも潮浬が復活した。


 先日の襲撃で自称デートを邪魔された件を、本気で根に持っているようだ。

 ちょっと冷静さを欠いているようにも見える。


「だから落ち着きなさいと言っているでしょう。そもそも向かう先はサハラ砂漠の真ん中で、高温と乾燥が苦手な水棲魔族である貴女とは相性最悪な場所ですよ。そこで大勢の敵を相手にする事になったら、切り抜ける自信はあるのですか?」


「それは……夜なら砂漠の気温は低いから、時間を選んで会えばいいでしょう。乾燥も二・三日くらいなら……」


 潮浬はあくまで行く気みたいだが。相性最悪と聞いては、一人で行かせるのは躊躇ためらわれる。


 千聡かリーゼに一緒に行ってもらう手もあるが、千聡に『外出時には二人以上の護衛を』と言われているので、三人中二人を送り出すのは反対されるだろう。


 それに、リーゼに同行してもらってもブレーキにならない気がするし、千聡だと戦いになった場合が心配だ。敵の本拠に乗り込む訳だからね。


 ……やっぱりこの三人は、全員揃った時に一番力を発揮できる気がする。


 だったらそうさせてあげるのが、一応魔王であるらしい俺の仕事なのだろう。


 ――それに、千聡と一緒に世界征服を目指す仲間になるという目標もある。


 少しでも対等の恋人同士に近付くために。主従関係をこっそり仲間に上書きしていく遠大えんだいな計画だ。


 そのためにもここは、みんなで行くのが妥当な選択だろう。後はなるべく、仲間っぽい言い方だよね……。


「……よし。じゃあみんなでその……誰だっけ? エスタークさん?」


「エミクーシ殿です」


「そうそう、エミクーシさんの所に行ってみようよ。俺達は全員世界征服を目指す仲間なんだしさ!」


「魔王様……はい、地の果てまででもお供いたします!」


「え……うん……」


 千聡がなにやら、目をキラキラと輝かせて嬉しそうに。勢いよく頭を下げる。


 喜んでもらえて嬉しいけど……これちゃんと俺の思惑通りになっているだろうか?


 主従じゃなくて仲間を目指す計画の発案者である潮浬に視線を移すと。なんとも言えない、複雑な表情を俺に向けていた。


 これは……空回りする俺への同情と、そうさせている千聡への怒りだろうか?


 買い物に付き合ってもらった日にも、同じ理由で怒っていた気がする。


 これは良くない気配がするぞ……。


「千聡。エミクーシさんの所に行くのって、いつでもいいのかな?」


「はい。『近日中に』との事でしたので、魔王様の都合がよいタイミングでよろしいかと」


「じゃあ、今度の週末の間に行って帰ってこられるかな?」


「可能なように手配いたします」


「うん、ならそれでよろしく。……みんなも大丈夫?」


「「はい」」


 潮浬とリーゼの声が揃うが。潮浬は返事の後にスマホをいじり始める。


 これ、大丈夫と答えた後に予定を調整してないだろうか?


 ……ともあれ、潮浬の興味は千聡への怒りから旅行へ。エミクーシさんへと移ったようだ。


 その場しのぎ感は否めないが、しばらくはこれで問題ないだろう。


「じゃあ千聡、先方に予定伝えておいて」


「承知いたしました」



 そうして話がまとまり、週末はアフリカに行く事になった。


 エミクーシさんを問い詰めるつもりらしい潮浬はやる気満々。なぜかリーゼも同じくだ。


 千聡は多分、俺が『俺達は全員世界征服を目指す仲間』と言ったのがよほど嬉しかったのだろう。こちらも元気いっぱいである。


 シバも最初に出会ったアフリカにまた行けるのが嬉しいのか、それとも千聡達のテンションに影響されてか……多分後者で、尻尾しっぽを盛んにパタパタさせている。



 そして俺だけ一人微妙なテンションのまま。


『みんなが喜んでくれるならそれでいいか』と『穏便に済むといいなあ』と『千聡の認識、主従から仲間に変わってるかこれ?』という三つの感情の間を揺れ動き。


 招待の目的が本当に話をする事であるのを祈りながら、週末を待つのだった……。




 現時点での世界統一進行度……0.25%

・日本の魔族勢力を全て配下に

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を正式に配下に

・天川さんを仲間に


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『魔王様が私を仲間だとおっしゃって下さった。恐れ多い事だ。ご期待に少しでも応えられるよう、全力を尽くさねば』忠誠度上昇

※誤字報告をくださった方ありがとうございます。こっそり修正しておきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 100話達成おめでとうございます! これからも応援しています&楽しみにしています。 次は目指せ200話……ですかね?
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