あの日の自分、誉めてもいいですか?
あと少しで高校生活も終わる。
私は高橋麻友、高校三年生。彼氏いない歴十八年。そう、彼氏なんて出来たことありません。
何人か好きな人はいたけれど、告白する勇気は持ち合わせていなかった。
私なんかに告白してくれる人も少しはいたけれど、好きじゃないと付き合う気になれなくて、お断りしてしまった。
そんな訳で、ずっと彼氏無しです。
そもそも、恥ずかしくて男子と気軽に話せない。休み時間にワイワイ楽しく話している男女グループ、いいなぁと思うだけでそこには入って行けなかった。
類は友を呼ぶで、私の友達もみんな同じタイプ。それぞれ趣味を持ってて楽しい友達ばかりだけどね。
そんなある日、私は別のクラスの男子に呼び出された。彼はまさにキラキラしい男子で、それまで一言も話した事はなかった。
なんだろう。まさかシメられるんじゃ。
覚えはないけど、何か気に障ることでもしたのかもしれない。怯えながら呼び出し場所の校舎裏に行ってみた。
「高橋さん、あと半年しかないけど付き合って下さい」
えっ?まさかの告白?
いやでも好きとか言われてないし、卒業までの半年間だけ付き合ってくれってこと?
今彼女いないからとりあえずとかそんな感じ?
頭の中、グルグルしたけど、私の口から出た言葉は
「はい」
でした。
そうなんです、私も彼のこと何にも知らないけれど、あと半年くらい彼氏のいる高校生活送ってみたかった。派手な髪型に目がいって顔をよく見たことなかったけど、好みどストライクだったし。
すると彼はちょっと驚いた顔をした。
「えっ、いいの?」
やばい、これはドッキリとか罰ゲーム的なやつで、彼の仲間が大笑いしながら出てくるんでは?と私はキョロキョロ辺りを見回した。でも、誰も出てこなかった。
「いや、まさかOKされると思わなかった。ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
「じゃあ、一緒に帰ろうか」
「はい」
そんな会話で私達の交際は始まった。
彼は、よく喋る人だった。友達といる時も聞き役になる方が多い私は、話を回してくれる彼といるのは楽だった。
時々、私がポロッと言ったことをすごく面白がってくれて、そこから話が広がったりした。そうすると私も楽しくなり、話をすることが増えた。
とても目立つ外見の彼と一緒にいると、私の地味さが際立つだろうなあ、と感じていたが、彼は何も気にしていないようだった。
ある日、彼のクラスの横を通り過ぎる時に、彼が男女数人と話しているのが見えた。みんな、大笑いして
とても楽しそうだ。私と二人でいる時の彼は、あんな笑顔にならない。私は少し不安になった。
二人でいると、ふと会話が途切れることがある。何か喋らなきゃ。そう思うけれど、焦るだけで言葉が出てこない。沈黙の時間が流れるたび、つまらない奴って思われてるんじゃないかと不安になる。
「私といてもつまらないんじゃない?○○さんといる時の方が楽しそうに見えるよ」
切羽詰まった私は、こんなことを聞いてしまった。すると彼は少し悲しそうな顔をしてこう言った。
「そんなこと思わせてごめん。でも俺は沈黙の時間があっても麻友といるの嫌だと思ったことはないよ。麻友といる時の方が本当の自分って感じなんだ」
彼は私の頬にそっとキスをした。驚いて彼を見上げた私に彼は言った。
「最初は見た目だけで選んだんだけど、付き合って中身を知って、今は自信持って言える。俺は麻友が好きだ。半年だけなんて嫌だ、これからもずっと一緒にいたい」
その言葉通り、六年の交際を経て私達は明日結婚する。交際を申し込まれた時、思わず「はい」と答えた自分を、私は褒めてやりたい。隅っこにいた私を見つけてくれた彼の胸に、飛び込む勇気を持てたあの時の私を。
〜〜彼氏Side〜〜
あと半年で高校卒業だ。ずっと男友達と楽しく遊んできたけど、ここへ来てみんな彼女を作り始めた。
「お前も彼女作れよ」
そう言われてもなあ。
前に彼女がいたことはあった。だけど、部活や遊びに忙しくて放ったらかしてたら振られてしまった。それ以来彼女は作ってない。
「○○や△△はどうだ」
普段一緒にバカ話している女子達を勧められたがピンとこない。その時、ふと目に入ったのが高橋麻友だった。
彼女とは一言も話したことはない。お堅い優等生イメージの子だ。だけど、スタイルがめっちゃいい。背が高くて脚が長くてお尻が大きい、外国人みたいなんだ。こんな子と付き合えたらいいなあって思ってた。
よし、ダメで元々。思い切って申し込んでみようじゃないの。
軽く交際を申し込んでみたら、まさかのOK!あの時は驚いたね。この後どうしたらいいか焦ったもん。
それからは毎日一緒に駅まで帰った。ただそれだけ。だけど、どんどん惹かれていった。
大人しそうな子だから最初は気を遣って俺ばかり話してた。そしたら意外にも彼女は面白い子だった。打てば響くという感じ?会話が弾んでいくんだ。
スポーツが好きで、野球のルールにも詳しい。サッカー、テニス、ラグビーまで知ってる。
お笑いも好きだ。俺と笑いのツボが同じなのもちょうどよかった。
音楽は何でもござれで、好き嫌いなく聴くんだって。だから思い切って俺の趣味を打ち明けてみた。
「俺、実は昭和の曲が好きなんだ」
これは友達にも打ち明けてないんだ。だって、やっぱ今流行りの歌聴いてないとダメでしょ。そしたら彼女、
「私も好きだよ。母が昭和のアイドル好きで、父がロック好きなんだ」
俺はこの時確信した。こんなに話の合う子はいない。この子を離しちゃ駄目だって。
そんな時、彼女に突然言われた。
「私といてもつまらないんじゃない?」
俺は焦った。なぜそんな誤解が生じたんだろう。そう、彼女は以前からどうも自分の価値を低く見積もっているところがある。こんなに素敵な子なのに。
違うんだ。俺は必死に言葉を紡いだ。最後にはプロポーズのような台詞になったと思う。
すると彼女は嬉しそうに笑った。それが彼女の気持ちだと分かった。
あれから六年。遠距離恋愛も経て、ようやく明日結婚する。俺は、交際を申し込んだあの日の俺を褒めてやりたい。話したこともない彼女に申し込む勇気を持てた自分を。かけがえのない宝物を見つけた自分を。