エピソード1
「なあ、翔太、俺、死のうかな」
「翔太、お前の葬式行って顔見たよ、死んだっていうのにさ、幸せそうな顔してたな、まぁそりゃそうか」
「俺たちブサイクはさ、生きてたってなんもいいことないんだよな、このまま生きてたってまたいじめられるだけだ、俺もうこれ以上お父さんとお母さんに心配かけたくないんだ、だからさ、俺も死んでお前のとこ行こうと思う」
「俺今ビルの屋上にいるんだ、ここに立って初めて分かったよ、ここから飛び降りることがどれだけ怖いか、でも、それでもお前はやったんだよな」
「行くよ、天国で会えることを願って」
体が痛い、それが俺が起きて1番最初に思ったことだ。
ビルの屋上から飛び降りたんだから当たり前だろうと、自分で納得した。
あたりを見回す。
俺はレンガ造りの外壁でできた建物と建物の間にある路地裏のようなところにいるらしい。
路地裏を抜けると大通りなのだろう、騒がしい声が聞こえてくる。
まあよく分からないが地獄ではなさそうだ。
ということはここは天国ということになるはず。
俺は翔太の顔を思い浮かべた。
翔太はどこにいるのだろうか。
痛みを堪えながら立ち上がろうとするが、耐えきれず、尻もちをついてしまう。
すると後ろから声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
声のする方を見る。
そこには緑色のワンピースを着た女性が立っていた。
女性の顔を見るが目をそらす。
「やばっ、可愛すぎだろ」
「へ?何ですか?」
「いや、何でもないです、すいません」
幸い聞こえてなかったようだ。
思わず声に出してしまった。
腰ぐらいまである金髪に整った容姿。
超絶美人だ。
もう一度見てみる。
改めて見ても可愛い。おまけに胸も大きい。
でもあまりの可愛さに少しネガティブな気持ちになる。
自分とは違い、彼女はいい人生を送ってきたのだろう。
本当は心の中で俺をブサイクだと罵っているのではないか?
ここにいたくない。
そう思って立ち上がろうとしたがやはり立てない。
そのうえなんか意識が遠くなっていっている気がする。
視界がぼやける。
あ、これ、やば、い、、、
目を覚ます。
俺は気を失っていたようだ。
あたりを見回すがここは路地裏ではない。
いつのまにか誰かの部屋のベッドに寝ていたようだ。
「あ!起きた!よかったー、起きないかと思いましたよー」
声のした方を向く。
寝ているすぐそばでイスに女性が座っていた。
顔をよく見る。
金髪のキレイな髪、整った容姿。
見覚えがあるな。
あ、この人、さっきの人だ。
「お体大丈夫ですか?」
「あ、はい、たぶん」
「よかったー、3日ぐらい寝てたんですよ、もう心配で心配で」
そんなに寝ていたのか。
「あの、その間あなたが看病を?」
「もちろん!放っておけるわけないじゃないですか」
驚いた。
まさかこの人が1人で3日間も。
路地裏でこの人のことを悪く言っていたことが恥ずかしくなってきた。
「ありがとうございます、あとすいません」
路地裏で悪く思っていたことを謝罪した。
「なんで謝るんですか?私がしたくて看病していたわけですし、謝ることなんてないですよ」
なぜ謝ったかはもちろん分かっていないようだった。
彼女は本当に優しい。
ただにしても優しすぎる。
なんでこんな僕にそこまで。
「なぜここまでしてくれるんですか?」
「なぜって、先ほども言いましたけど放っおけないですから、まあ、あと、強いて言うなら、私、あなたのこと、、、」
彼女の顔が少しずつ赤くなる。
元が色白なだけに、ギャップでとても赤く見える。
「や、やっぱり何でもないです!」
そう言って彼女は僕から目をそらした。
なぜかとても恥ずかしそうにしている。
彼女は何を言おうとしたのだろうか。
今はまだ聞かない方が良さそうだ。
しばしの沈黙の後、彼女が口を開いた。
もうすっかり赤みは消えていた。
「そういえばお互い自己紹介とかしてなかったですよね」
そう言って彼女は背筋を伸ばし、咳払いをする。
「私の名前はシーナ、シーナ・レイルです!あなたは?」
「あ、俺は健太って言います」
シーナ・レイル、外国人なのか?
でも彼女は日本語を使っている。
日本人としか思えないほど上手だ。
どういうことなんだろう。
「シーナさんってどこ出身なんですか?」
「私生まれも出身もここなんです!」
生まれも出身もここって、ここは天国だっていうのに。
意外とそんな冗談も言うんだな。
「いやここ天国なんだからそんなわけないでしょ!」
一応ツッコんだ。
すると彼女は不思議そうに首を傾げて、
「天国?何言ってるんですかー、ケンタさんってそういう冗談言うんですね!」
ん?
ここは天国じゃないのか?
じゃあ地獄?そうは思えないが。
「あの、ここってどこですか?」
彼女は少し驚いた顔をした。
「もしかして、頭とか打ったりしました?ここはサンゲインですよ、覚えてます?」
サンゲイン?どこだよそれ。
天国でも地獄でもなさそうではある。
じゃあどこだ?
ラノベでよくある異世界的な?
そんなわけないか。
いや、でも、もしかしたら。
「シーナさん、日本って知ってますか?」
日本語を使う相手にする質問ではないのだが。
「えっと、知らないです、食べ物ですか?」
その顔からは冗談っぽさは感じられず、本気で言っているような気がした。
「違います、あの、世界地図とか置いてないですか?」
「世界地図は持ってないですけど、たぶんあの本に」
そう言って彼女は立ち上がって、本棚から一冊の本を持って帰ってきた。
パラパラとページをめくり、半分くらいのところで止めて、俺に渡してくれた。
「ここです」
俺は受け取る。
そのページを見ると、端から端まで見たことのない地図が載っていた。
何これ、マジでここ異世界なのか?
また気を失いそうになった。