どうにか使用人に頼りたい姫
「はい、いらっしゃい」
初老の口髭がダンディなギルド長が、新聞から目を逸らして巻きタバコを灰皿に押し付ける。見えたのは2人組。片方は不自然に粉っぽい白髪の、背が高い男のようで、顔の下半分を布巾で隠している。目は皺でも書いたつもりなのかそれとも最近のファッションなのか、いずれにしてもキリッとした目つきと眉の形は若さしか感じない。
もう片方は貴婦人が身に付けるような長いストールを頭から被り、これまた不自然に粉っぽい髪には元の栗色が混ざっていて、占い師のつもりなのか黒い布で顔の下半分を同じように隠し、茶色っぽい地味な色合いではあるがふんわりしたスカート。こちらはこちらで目尻に皺を書いたようなメイクと、更には向かって左側の目尻の下辺りに、決して出っ張ってはいないのに大きなほくろが。
「ちょっとお尋ねしますけどね」
老婆らしい方が声をかけてきた。
「依頼を出したいんですが」
「はあ、どのような」
ギルド長は訝りながら、ペンと羊皮紙を用意する。
「住み込みで家事手伝いをお願いしたくて」
「家事手伝い……。条件は?」
「条件?」
ギルド長はため息をつきながら、
「報酬はいくら、とか期間はいつまで、とか。あとどんな人がいいとか」
「報酬? 住み込みなのに報酬要るの?」
「無期限無報酬ってこと?」
更に大きなため息。
「あのね、ここに依頼を受けに来る人もボランティアじゃないんだから、無期限無報酬ってわけにもいかないでしょ」
「足腰が悪くて2人ともここまで来るのにも大変なんじゃよ。報酬はわしらの遺産ってことでいかんかのぉ?」
「遺産て、お二方いくつ?」
「……70と68」
後ろの老人らしき男が眉をひそめた。
「ご夫婦? お子さんは?」
「おりませんですじゃ。お陰で残せるのは金だけでのう」
「ざっとおいくら?」
「えっと……」
「お家はどちら?」
畳み掛けるようなギルド長の質問に、老婆はだんだんとあわあわする。
「ハズーレ村の方じゃ」
ギルド長はにんまり笑った。
「ハズーレ村? そりゃ遠いとこから来ましたねぇ。どうやって来たんですか?」
「歩いて」
ギルド長は冷たい笑顔で声を上げて笑い出し、
「はい、演技も下手だしメイクも下手。どうぞ出口はあちらです」
と、にこやかに2人を追い出した。