用心もいいけど度が過ぎたセキュリティも危険
「ええい、マリアはまだ見つからんのかっ!」
王の怒号が玉座の間に響く。
「あの馬鹿娘、何が『新天地を探してまいります』だ!」
ガリウスとマリアは、謝礼金を使って、お城からやや離れた農村に質素な家を建て、家と不相応なほど豪華なソファとシャンデリア、金があしらわれたカーペットに白檀の棚、桐のタンスに囲まれていた。
「はあー、やっぱ王宮の暮らしは違うんだなぁ」
王との「どちらが結婚して入るのか」話もすっかり頭から離れているガリウスが、息を呑んで豪華な家具類に目を奪われる。
「そうよ。ここであなたと暮らせるなんて、嬉しく思いますわ」
およそ嫁に来ると思い難いはずだが、マリアは満足げにかつにこやか。
「そうだな、マリア」
「まだ早い!!」
突然マリアはガリウスをひっぱたき、胸ぐらを掴んだ。
「あなた、まだあたしら結婚したわけじゃないでしょうが! 一時的に一緒に顔を合わせるようにして慣れていこうとしてるだけ! いい? まだあたしのことは姫と呼びなさい馴れ馴れしい!」
「……すんません。ついもう結婚したつもりになって調子に乗ってました」
マリアは顔を赤らめ、まあ! と驚き
「ガリウスったらそれほどまでにわたくしのことを? でもいけませんわ。結婚するまではお部屋は別々。決してお入りにはならないで」
マリアは、いつの間にかわざとらしいピンク色に染め上げたドアから入る。中から見えた家具は全てピンク色で、天蓋付きのベッドが見えた気がした。
「本当に入ってはダメよ」
と言いつつ扉を閉めると、ガチャガチャガチャガチャといくつもの鍵のかかる音が鳴り、ふうと一息ついたようだ。
「鍵をかけたからもう入れなくてよ」
「うん、確かに厳重そうだ。これなら魔王もさらえない」
ガリウスはさらっと外に出て、窓から回ってみると、マリアの部屋にはカーテンが。よく見るとカーテンの周りがナイフで留めてあるらしく、壁を突き抜けている。
「何の呪いだよ……」
ガリウスは呆れて中に戻り、普通ならまず見ないはずの高級ソファの座り心地を楽しんでいた。
そのまま眠りかけたところへ、またマリアの部屋でガチャガチャが始まった。
「ガリウス開けて~!」
「なんすか!?」
「お花を、お花を摘みに行きたいの! でも鍵の番号がどれがどれか忘れちゃったのよ!」
はあ、とガリウスは頭を掻き、
「花ぐらい俺取ってきますよ。どうせ農村だし、どっかに花農家あるでしょ。譲ってもらえば……」
マリアに怒鳴られた。
「そうじゃなくて! お手洗いよお手洗い!! ご不浄!」
ガリウスは手を叩いて
「ああ、トイレな。えっと、扉破っていいの? 補修できないけど」
「それはダメよ! この鍵をなんとかしてちょうだい!」
とんだ無理難題に一時思考停止。
「いや、入れないのに鍵をどうにもできねっす」
「入るのもダメ!」
どうしろと。ガリウスはまた頭を掻き出した。
「あ、それじゃ窓から出ては?」
「そうね!」
マリアは窓に駆け込み、何やらガタガタし始めたようだが
「ナイフが抜けないっ!!」
「一体どうやって差し込んだんすか!? もうじゃ、窓割りますから姫は下がって!」
返事がない。
「姫? 姫!?」
「ガリウス……」
ゆっくりと呼びかけられ、ガリウスはほっとした。
「香水と……掃除道具あったかしら……?」
一瞬ガリウスは意味が分からなかったが、次第に青ざめて口を押さえた。