いいじゃない! 結婚なんていつでもできるんだから!
「いきなり解散ってワケわからんわ! 何年王様やってんの!」
「ごめんなさい」
金切り声の姫と、情けなく項垂れる王。同じく引っ張って来られたガリウスは、どうしていいかと傍観しつつ、その辺りの壁にもたれ掛かっていた。
「ってかこんなときにアンネはどうしたの!? 姉が帰ってきたっていうのに!」
王は言いにくそうに
「アンネは二次被害に遭うといけないから城下に隠れさせた」
「遭うわけないじゃないあんな口にするのも憚られる容姿の子が! 一体どうしたらあんな子が生まれてくるのよ! お母様が仮に外に男作ってたとして、あんな子ができる!? 一度DNA鑑定お願いしたら!?」
そしてより言いにくい「どちらにしてもお前の妹ぞ」という言葉を飲み込んだ。
「……えっと、とりあえず俺は姫と結婚できるってことでいいんすか?」
ガリウスが手を挙げておずおずと声をかけた。
「まずそれよそれ! あなた軽々しく言うけどそれがどれほど負担になるか分かってて言ってる!?」
「負担?」
「母のことは知らない? 未だに適応障害で実家に帰ったままお城に戻ってないの」
ガリウスはポンと手をたたく。
「え、でも姫が俺んとこ来るんですよね?」
空気が止まった。
「え? 違うの?」
「何を言うか! マリアはこの国の跡取り、女王として将来はこの国を……」
「それは面白いじゃない!」
突然話を遮られ、は、と王は青ざめた顔で娘の顔を見直した。
「そうよ! どのみちどんな人か見極めてから結婚するわけなんだから、とりあえず一緒に過ごせる期間が長ければ長いほどいいんじゃない!! お城での生活が彼にとって窮屈になるかもしれないなら、あたしが彼と過ごせばいいんだわ!」
と、目を輝かせる娘に対し父は
「正気かマリア! 婚前の同居なぞ許さんぞ!」
と至極全うとも言える意見をぶつけてみるも、娘は輝いていた瞳に別の光を宿し睨み付けてくる。
「あたしの許しもなしに勝手に結婚相手決めたお父様に言われたくないわ! まるで人を賞品みたいに……。そんなだからお母様に逃げられるのよ」
ころころと表情が変わる姫に、王は恨めしげに唸った。
「そうと決まれば、早速家を建てましょう! ガリウス!」
「よし! 分かった!」
「分かったじゃない! せめて結婚してから……」
なおも渋る王に、姫はピシャリと怒鳴り付けた。
「いいじゃない! 結婚なんていつでもできるんだから!」