エピローグなプロローグ
「姫ぇぇ!」
迷うことなくその瞳は、魔王に後ろ手で捕らえられている美姫に向けられていた。
「久し振りだな。ガリウス」
魔王の銀の瞳が、金髪碧眼の青年を嘲るようだ。その顔は鈍色の仮面に覆われているが、青年にはそれが誰か分かっていた。
「何故だガンダ! 学生時代親友だったお前が、何故魔王にっ!」
「血筋なんだからしょうがないだろう! ってかお前にその件話しただろが!」
「ああ、覚えてる! そういえばそうだった!」
金髪の青年・ガリウスは、顔についた泥を拭い、左足を前に、剣の切っ先を魔王に向け、構えた。
「それなら何故だ! 学年の成績が大体5位ぐらいの微妙に優秀だったお前が、何故姫をさらった!?」
「成績関係ねー!! お前なんかクラス内でも真ん中辺りで10位にすら届いてなかったのに何で勇者なんかやってんだ!!」
ガリウスは満面の笑顔。
「俺は適度に知能派で適度に脳筋なだけだ!」
「中途半端っていうんだよそれ!」
「勇者ならではの汎用型と言え!」
姫は1人取り残され、この2人仲良いな、と溜め息をついた。
「それで、何故わたくしをここへ?」
「……あ、そうだ。俺がマリアをさらったのは、魔王として世界を手にするに当たり、手始めに身近な所から落とすため……。そしてマリアを迎え、妻とし、より魔族の繁栄を」
ガリウスは魔王の話を大声で遮った。
「あーもー、長々鬱陶しい! 5文字でまとめてくれ」
「好きだからだよ! このバカ!」
魔王の腕の締まり具合に、姫は少し「アリかも」と心が揺らいだ。
「何だと!? いいか!? 王様はな、旅に出る前、姫の救出に謝礼金と姫との結婚を約束してくれたんだ!!」
姫は思わず「は?」とガリウスを睨んだが、ガリウスは気付かず続ける。
「忘れもしない! 学園の女子寮の最上階から見えた、流れるような長い栗色の髪……! 俺は一目で恋に落ちたんだ!」
その流れるような長い栗色の髪の乙女は、顔に暗い陰を落としつつ、率直に。
「ちなみにその謝礼金て、おいくらですの?」
「金貨1千万枚」
姫の顔がさらに険しくなった。
「……じゃ、その2倍出すからマリアのことから手を引け」
姫は今度は魔王を睨み付ける。
「誰がそんな要求に応じるか! 俺がここまで来たのは、姫>金だからだぁ~!」
姫はそっと魔王から離れ、ガリウスの元へと優雅に走っていった。
「あ、ちょっと? マリア?」
姫は満面の笑み。
「うれしい……! わたくしをそんな風に思っていただけるなんて……!」
「姫!」
2人は抱き合いながらワルツを踊りだし、笑いながらひとしきり戯れ
「さあ、帰りましょう! 姫!」
「ええ、勇者様!」
と、その場をスキップで去った。
「え……ええ~……?」
取り残された魔王はただただその背中を目で追うしかないほど、呆気にとられていた。