BLOOD
森の景色は徐々に変わって、やがて辺りは真っ暗になってしまった。
ついに佐渡とアリスは森の中心に入りはじめていたのだ。
「あれからウサギは見ないな。」
「またいつか必ず遭遇しますからご心配なく。」
チェシャはサラッと答えた。
「あのなぁ・・・」
「声を出せば見つかりますよ。」
「もう・・・いい。」
佐渡は黙って歩きだした。
しばらく歩いてアリスがあることに気付いた。
「・・・何か聞こえませんか?」
「え?・・・」
佐渡が耳をすますと、森の奥から歌のようなものが聞こえた。
「チェシャ猫・・・あれは・・・」
「今は敵ではありません。近付いても問題はないでしょう。」
「一体なんなんだ?」
「それは会ってからのお楽しみです。」
チェシャ猫は少し足を早めた。佐渡とアリスもその後を追う。
少し歩くと、視界に2人の姿が入った。
チェシャ猫はその2人に近付いて話しかけた。
「お久しぶりですね、双子。」
「チェシャ猫様じゃないか。」
2人の者は真っ赤なタキシードを着て、真っ赤なシルクハットをかぶっていた。
「我らの領地へようこそ・・・アリスまで連れて、陛下へお供え物ですか?チェシャ猫様。」
赤いタキシードの男はとんでもないことをサラッと言った。
「チェシャ猫・・・こいつらは本当に大丈夫なのか!?」
チェシャ猫はいつもと変わらない口調で答えた。
「はい。お二人とも自己紹介を・・・」
赤いタキシードの二人の男は礼儀正しくお辞儀をした。
「ワタクシたちは双子のディムとダムでございます。暗黒の森の一角の支配者でございます。どうぞお見知りおきを・・・」
「・・・俺は佐渡鏡介だ。医者をしている。」
「えっと・・・アリスです。」
佐渡とアリスが自己紹介をするなり、ディムとダムは歌いだした。
「匂いがする匂いがする。」
「なんの匂い?」
「生臭い鉄の匂い。音がする音がする。」
「どんな音?」
「死ぬ音。裂かれる音。弾ける音。感じる感じる。」
「どんな感じ?」
そこまで歌うと双子はうつむいた。
「・・・さあ、佐渡様、アリス、逃げましょう。まもなく彼らに混沌が訪れます。」
佐渡はわけがわからなかった。しかし確実に今の状況が危険であることは感じていた。
ここから逃げなければ。
佐渡はアリスの手を取った。
「アリス、逃げるぞ!!」
その時、ついに双子が口を開いた。
「どんな・・・感じ?」
「・・・とてつもない興奮だよ!!!!」
ディムは斧、ダムはレイピアを構えた。目は充血し正気を失っている。口元には不気味な笑みを浮かべていた。
佐渡は走りだした。
「アハハハハハハハハハハ!!!!!!バラバラだあ!!!!」
佐渡とアリスはウサギの家で既に疲労が溜まっていた。
「アリス・・・頑張るんだ・・・絶対に逃げきるんだ!!!!」
「は・・・い・・・」
チェシャ猫は二人の前をひたすら走っている。
「どういうことだチェシャ猫!!やつらは大丈夫だって言ったじゃないか!!」
「それは逃げ切ってから説明します。今はとりあえず逃げ切ってください。」
佐渡の息はきれてきた。
苦しい・・・こんなところで・・・死んでたまるか!!
佐渡はアリスと手を繋いでいない方の手に拳銃を握った。
「佐渡さん・・・」
「心配するな・・・俺も絶対生きるから。」
そう言って佐渡はアリスを握る手に力を込めた。
そして佐渡はアリスの手を離し、拳銃を構えた。
「俺は・・・」
双子が佐渡の視界に入ってきた。
「ミツケタアアアアアあああああああ!!!!」
武器を構え双子は走ってきた。
「アリスを守るんだ。」
佐渡は2度引き金を引いた。
弾は見事に双子を射抜いた。
「あああああああアアアアアアハハハハはははははは!!!!」
双子は顔を歪めて、走り続けた。傷口からは血が溢れ出ている。
「バカな・・・痛みを・・・感じていないだと!?」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ねバラバラだああああああああああああああああ!!!!」
双子の手にした斧とレイピアが佐渡の体を引き裂き、貫いた。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
体に走る激痛に佐渡は悶えた。
苦しみもがく佐渡に双子はゆっくりと歩み寄った。
そして佐渡を見下ろし武器を振り上げた。
「あは、ははははは!!!!しネ・・・死ねえええ!!!!」
なんだ?・・・死なない?
佐渡は目を開けた。
双子は武器を振り上げたそのままの姿勢のまま静止した。
「来る・・・ウサギ様が来る・・・」
「来る・・・混沌のウサギ様が来る・・・」
「早く逃げないと・・・」
「殺されてしまう!!!!」
そう言って双子は森の中へ走って逃げていった。
佐渡は全身から流血していた。
「佐渡様。」
チェシャ猫とアリスが佐渡に駆け寄った。
「チェシャ・・・猫!!!!ウサギが・・・」
「喋ってはいけません。アリス、佐渡様の手を握ってください。」
「は、はい!!!」
アリスはそう言うと震えながら佐渡の手を両手で握った。
「・・・傷口が、閉じていく・・・」
佐渡の体を大きく走っていた傷口は閉じ、血も止まった。
「佐渡様、アリス。ウサギが来ます。傷口は閉じましたがまだ痛むでしょう。何とか私に着いてきてください。」
そう言ってチェシャ猫は走り出した。
「チェ、チェシャ猫!待ってくれ!アリス、行こう。」
「はい!」
佐渡とアリスはチェシャ猫の後に続いた。
すると、背後の方から聞き慣れた恐怖の足音が聞こえてきた。
「く・・・ウサギ・・・チェシャ猫!!教えてくれ!双子はなぜ襲ってきた!?なぜ俺の傷口が閉じたんだ!!!」
「佐渡様、まずは逃げることが・・・」
「構わない!!」
「・・・わかりました。」
そう言うと、チェシャ猫はゆっくりと語りだした。