廃墟
アリスと佐渡は、廃墟をさ迷い続けた。
廃墟は迷宮のようだ。歩いているとすぐ行き止まりに辿り着く。
灯りなんてものは当然持っていなかった。
「出口が・・・見つからない。」
佐渡は足を止めて壁に寄りかかった。
「まるで迷宮のようですね・・・」
アリスはだいぶ疲れているみたいだ。
「この不思議な世界はいったい何なんだ・・・アリスちゃん、心当たりはないのかい?」
アリスは首を横に振った。
「いえ・・・すみません。」
「いや、アリスちゃんが謝ることじゃないよ。それより、ここからどう出るかだな。」
その時、背後から声がした。
「アリス・・・」
佐渡とアリスは背筋が凍りついた。
「だ、誰だ!?」
佐渡は振り向いた。
そこには黒猫が一匹たたずんでいた。
「アリス・・・帰ってきてしまったんだね・・・」
佐渡はアリスと黒猫の間に立った。
「君は、何者なんだ?」
猫はなんの違和感なく喋った。
「私は、チェシャ猫です。アリスの案内役とでもいうのでしょうか。ここにいるということは、ウサギには既に会ったのですね?」
「ウサギ?」
「タキシードの男で、女王陛下の執事です。」
ああ、やつか。
「チェシャ猫、俺たちは君を信用していいのか?」
チェシャ猫は表情を変えない。
「別にどちらでも構いません。私の役目は案内をすること。ついていくかはあなた方の自由です。」
佐渡はアリスを見る。
アリスは少し怯えている。
「チェシャ猫、1つ聞きたい。なぜウサギ・・・やつはアリスを狙っているんだ?」
「女王陛下が・・・アリスを求めているからです。」
「なぜ?」
「さあ?」
佐渡はムッときた。
「おまえ案内役だろ。そんなことも知らないのか?」
「知りません。」
答えはアッサリしていた。
「・・・話にならない。アリスちゃん早いとこ出口を探そう。」
佐渡が歩きかけたその時
「あの・・・チェシャ猫さん・・・ここはどこなんですか?」
アリスが口を開いた。
「ここは・・・混沌の世界。」
「混沌の世界?それは一体・・・」
「ここのことです。」
「混沌の世界っていうのはなんなんだ?」
「ここのことです。」
「・・・アリスちゃん、まだ話すことあるかい?」
アリスはちょっと困った顔をした。
「チェシャ猫さん・・・どこらへんが混沌なんですか?」
チェシャはニヤリと笑った。
「この廃墟に出口がないとことか・・・ですかね。」
「なっ!!」
佐渡はチェシャ猫の方へ向き直った。
「出口が・・・ないだと!?」
「はい。」
佐渡がチェシャ猫に掴みかかろうとした時、
廃墟に足音がこだました。
「・・・来ましたね。ウサギ・・・」
「なんだと!?チェシャ猫、逃げ道を!逃げ道を案内してくれ!!」
「わかりました・・・急ぎましょう。」
そう言うとチェシャ猫は走りだした。
アリスと佐渡はチェシャ猫の後を追った。
ウサギの足音は歩いているくらいのペースだが、段々近づいてきている。
チェシャ猫は突然止まった。
「チェシャ猫、どうした!?」
「この廃墟は混沌の世界の入り口。これより先に行けば混沌の世界、すなわち女王陛下の支配する世界。
案内役としてこれだけは言っておかなければなりません。
女王陛下の支配する世界ということは、今まで以上に追われる危険があります。
それでも進みますか?」
佐渡はアリスの顔を見た。
「アリスちゃん、どうする?俺はアリスちゃんの決定に従うよ。」
アリスはうつむき、考えた。
そして顔をあげて言った。
「行きましょう。混沌の国へ。」