アリス
「彼女の様子は?」
白衣の男が尋ねた。
「ぐっすり眠ってますよ」
看護婦が答える。
「身元は判明したのか?」
「いえ・・・彼女は目を覚ましても何も言わないし、家族も見つかりません。」
・・・彼女は先週この病院に運ばれてきた。
ビルの廃墟の中で倒れていたそうだ。身元もわからない。明日精神鑑定が行われる。
見た目は高校生くらいだろうか?可愛らしい感じの娘だ。
ここはどこ?
あの人たちは誰?
私をどうする気なの?
今日もいっぱい検査された。
・・・男の人が近づいてきた。
「気分はどうだ?」
良いわけないよ。
「そろそろ君の名前を教えてくれないか?」
私の名前?
私の名前は・・・
「アリス・・・」
男は飛び上がった。
「やっと口を聞いてくれたよ!アリスちゃんだね?」
アリス・・・
私はアリス。
「アリスちゃん。君にまず簡単な質問をするから答えてほしい。」
「・・・はい。」
「君は廃墟で一体何をしてたんだい?」
「廃墟?・・・」
男は顔をしかめた。
「記憶がないのかい?」
私は頷いた。
「はい・・・ごめんなさい。」
「謝らなくていいよ。アリスちゃんは悪くないから。じゃあ・・・好きな食べ物は?」
男は微笑んだ。
「え?」
「人間スゴいもので、好きなものは忘れないことがあるんだ。それに、君のことをもっと知りたいんだ。」
「・・・なんで私に優しくしてくれるんですか?」
「君は一人ぼっち。そんな君の力になりたいんだ。」
あれ?
私・・・笑ってる?
「アリスちゃんの笑顔初めて見たよ。」
「あの・・・あなたの名前は?」
男はちょっと驚いた。
「え?俺は・・・佐渡 鏡介だ。うん、何かあったら俺を頼ってくれ。」
俺はこの時まだ知らなかった。彼女がいかに危険で不幸な少女であることを。
狂気に満ちた混沌の宴が始まろうとしていた。