新たな立ち位置ーその3ー
公爵家は王都にある。そのため城に行くのに馬を走らせてしまえばほんの数十分程度で着いてしまうのだ。
無事に城に着いたフィオーネは、国王陛下に帰城の挨拶をしに行こうと歩みを進めるも、トーリに会い引き止められる。
「よう!久しぶりだな。もう傷はいいのか?」
「隊長、ただいま帰城いたしました。傷はもうすっかり。仕事にもなんの支障もありません。」
「そうか。また宜しく頼む。これから陛下に会いに行くんだろう?」
「そうですけど、何か?」
「俺も行く。ちょっと呼ばれててな。」
「私が居てもよろしいんですか?内密の話では?」
「いや、たぶんお前の事だと思うぞ。」
「は?」
眉間に皺を寄せるフィオーネにトーリは苦笑する。そんな顔するなと肩を叩き先に歩き始める。
後ろについて陛下の待つ玉座へと通される。
正式な挨拶をするのは玉座と決まっている。
陛下の前まで行き、跪いて挨拶の言葉を述べる。
「近衛隊隊長補佐フィオーネ・イザナ・ティエリアス只今帰城いたしました。」
「うむ、よく戻ってきてくれた。怪我の具合はどうなのだ?」
「はい、回復しております。お気遣い痛み入ります。」
「それはなによりだ。ところで、戻ってきてそうそうにはなるが、フィオーネ、そなたに詫びをしたい。」
これか!フィオーネは父シーネスが言っていた事を思い出した。まさか本当に行ってくるとは思っていなかったフィオーネは、言葉につまる。
「そなたは何を望む?可能な限り叶えよう。」
「あの、陛下。失礼だとは承知で申し上げます。陛下のお心は嬉しいのです。ですが、私はそのようなものは求めておりません。」
「では何を求めておるのだ?」
「何も。」
「何もじゃと?」
「はい、陛下。」
沈黙がその場を包む。フィオーネが何も望まないとは思っていなかったのだろう。陛下からの提案を拒否するなどあってはならない事、しかしフィオーネには何も望むものがないのだ。
「本当に何も望まぬのか。」
「私は何不自由なく生活できております。これ以上何かを望めば、それは贅沢になりましょう。」
「……フフフ、フハハハハハ!」
豪快に笑うのは国王陛下だ。
トーリ、フィオーネ、そして陛下の側近達も驚いて目を見開き固まってしまっている。
「実に面白い娘だフィオーネよ。普通の令嬢であれば色んなものを望むであろう。最悪、皇子の妃の座も願うかもしれぬところを、そなたは贅沢だと言ってのけるとは。流石はティエリアス公爵の娘だ。」
「陛下…。」
どう反応すればいいのか分からず、フィオーネは曖昧な顔をする。
「では、本題と行こうか。その前にここでは気が休まるまい、執務室へ行こう。」
で、執務室に移動して。
「フィオーネ、そなたに頼みたい事がある。」
「何でございましょうか。」
「きっとあやつの本性に気づいているそなたは、嫌だと言うかもしれないが。ユリウスの側近になって欲しいのだ。」
What!?!?!?
「は?え?あの、どういう事ですか?」
訳が分からなすぎて理解できないでいるフィオーネ。
「無理は承知の上だ。そなたが傷を負ったあの時、ユリウスの本性に気付いたであろう?あやつは人の命に関心をあまり持たぬ。王族としてあまり良い事とは言えぬ。人に心を許す事はまず無い。しかし、そなたなら、あやつに寄り添えるかもしれん。更生させることができるかもしれん。」
「私は何も出来ません。」
「ただ、側近としてあやつの側にいるだけでよい。…引き受けてはくれぬか。」
ユリウス殿下の側近?!陛下は本気で言っている。私が側近になどなった所で現状は変わらない気がしますが…。
国王陛下の頼みを断る事など出来はしない。
「…わかりました…。」
「おお!そうか!感謝するフィオーネ。ついては配置換えになる。トーリにはすでにこの旨伝えていたのでな、後で聞くがいい。」
「はっ!」
これまた気が重い仕事を引き受けてしまった。




