新たな立ち位置ーその2ー
「お母様、そんなに急がなくても。」
「だって今日しか時間ないんだもの!!明日は王妃様にお呼ばれしてるからお出かけできないのよー!」
「それは仕方がないじゃないですか。」
フィオーネと母マリアは約束した通り買い物に来ていた。新しくドレスを作るだのアクセサリーも作るだの、断るのも一苦労だ。
「もう…、何だったら買わせてくれるのよ。」
「買っていただかなくていいのです、お母様。こうして一緒に買い物をしているだけで、私は幸せですもの。」
「普段からそういう可愛い格好をしてくれてもいいのよ?」
「これでは仕事が出来ません。」
「騎士なんて辞めちゃってもいいのよ?」
「絶対に嫌です。」
にこやかに答えればマリアは唇を尖らせながら文句を言ってくる。愛情からの事だと思うと有難い事なのだろう。フィオーネがクスクス笑っていると両頬をつねられた。まったくこの子は〜!と怒ったように言うマリアに、懐かしさを覚える。
小さい頃もよくこうして怒られてましたっけ。
「じゃぁ王都に新しく出来た雑貨屋さんに行きましょう!色々と置いてあって見ているだけでも可愛いのよ。」
「そうですね。」
マリアの指示に従って馬車は道を進む。雑貨屋に着いてみるとそれなりにお客で賑わっているが落ち着いた雰囲気もあり、フィオーネも居やすい空間が広がっていた。
「どう?」
「いい雰囲気ですね。」
「じゃぁ少し見てみましょっか。」
店内をぐるっと一周見て回る。
フィオーネは髪留めのところに目を止めた。
「何か気に入ったものでもあった?」
「お母様、この髪留め素敵じゃないですか?」
フィオーネが手に取ったのはリーフを形どった髪留めだ。普段髪を一つにまとめているフィオーネはもちろん髪留めもよく使っているのだが、バレッタになっているこれはとても使いやすそう且つシンプルで、好みドンピシャだったのだ。
「そうね、フィオーネにぴったりだわ!せっかくだし、私に買わせてね?あと2つくらい選んでちょーだいな。」
「…じゃぁ、お言葉に甘えます。」
控えめにしかし嬉しそうに微笑むフィオーネに、買い物客が目を奪われていたなんて事は本人は気づきもしない。
「これにします。」
残りの2つを選んだフィオーネは、マリアの我儘に甘え、買ってもらうことにした。
色んなところをうろついたからか少しフィオーネの傷が痛み始め、帰路につくことにする。
「本当はお茶もしたかったのだけれど、こればっかりはしょうがないものね。…跡が残らないといいんだけど。」
「残っても誰にも見られませんし、私は気にしていないんです。」
「駄目よ?女の子なんだから、将来の事も考えるとやっぱり傷は綺麗に消えた方がいいわ。」
マリアの心配そうな顔を見てしまったら、フィオーネは本当のことを言えなかった。
かなり深かったこの傷、跡は確実に残るだろう。フィオーネ自身は気にしていないが、やはり周りはそうではない。国王も気にするほどである。それほどまでに年頃の令嬢は、何かと結婚する上で条件がたくさんあるのである。
公爵家へ帰ってきた後、フィオーネはマリアに買ってもらった髪留めを受け取り、自室に下がった。あまり動いていなかったせいで体力の低下が激しい。少し買い物をしただけで疲れてしまう。
「もう少し動いても痛くなくなったら、訓練を再開しないと。」
「あまり焦らないで下さいませね。」
「ありがとうエレン。」
お辞儀をして立ち去る侍女のエレン。
やっぱり1人になると落ち着きますね。
普段宿舎では1人で何事もこなしているフィオーネだ。実家、とはいえ慣れてしまった生活と違うことをするのは何かと気を遣う。
ドレスから動きやすい格好へと着替え、ベッドに向けてダイブする。ピリッと背中が痛んだが気にしない。傷は塞がっている。あとは自分の体力を元に戻すだけ。
それが結構難しいんですよねー。
不貞寝してしまおうかと思ったが、今ここで寝てしまっては何も変わらない。起き上がってソファで読書をする事にした。ユリウスから回ってきた期待の続編だ。
ふと、ユリウスのことを考える。
殿下は、何故あの時あのような行動をとったのでしょう。あそこでもし令嬢が傷を負っていたら…?ダラス第二皇子は投獄されていたはずですが…あの時、ユリウス殿下は気づいていて、ダラス殿下を見た後も令嬢を守ろうとはされなかった…。
何故?という疑問が頭の中をぐるぐると回る。フィオーネが介入すべき事柄ではないことは理解していた。でも、自分は被害者なのだ。
…考えても無駄…ですね。
思考を放棄して本のページをめくる。
フィオーネはその内容に引き込まれていった。
しばらくの時が過ぎ、フィオーネは王城勤務へと復帰する事になった。早々に訓練を再開していたためもう以前と同じように動ける。
「もう少しこまめに帰ってきてもいいのよ?」
「お母様、それは私の一存ではなんとも言えませんし。」
「お姉様、今度は僕から会いに行きますね!」
「フフ、またねライル。」
「しっかりと勤めを果たしなさい、フィオーネ。」
「はい、お父様。では行ってまいります。」
颯爽と馬に跨り、王城へと走り出す。
王城では近衛隊隊長のトーリからフィオーネの帰城が報告されて、国王陛下、王妃が首を長くして待っていた。これからのユリウスの成長はフィオーネに掛かっている。そう2人は確信していたのだ。
そんな事になっているとはつゆ知らず、フィオーネは久し振りに仕事ができるという事実に胸を踊らせ、いっそう早く馬を走らせたのだった。
ここまでほのぼの編!
もうすでに読んでくださっている方がいる喜びと驚きにテンション爆上がりです!
ありがとうございます!!




