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豪腕令嬢は恋を知らない  作者: 馬輩騎
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夜会ーその4ー




「何ですかその顔は。」


「お前、笑えるんだな。」


「殿下、ご無礼を承知で言わせていただきますが、ぶん殴りますよ。」




その内にユリウスは社交も俺の仕事だからなーと言ってダンスをするため歩いて行った。ダンスの邪魔にならずかつ観察できる場所へ移動しフィオーネは気を張り詰めた。

ユリウスが令嬢の誘いに応じてダンスをするのを見て、ダラスがニヤつきダンスを始めたからだ。懐をしっかりと確認していく姿まで見れた。

トーリに目配せするとトーリも見ていたのだろう。陛下にそっと話しかけている。


何かするそぶりを見せたら何も出来ない内に叩いてやる。


ふと視線を感じて周囲を見るとユリウスと目があった。その視線からは何もするなと言われているかのようだった。

何故ーー?

自分の身が危険にさらされるというのに、ユリウスはその視線でフィオーネを牽制したのだ。


まぁ、何かやらかしてから捕まえた方が色んな手間が省けますね。暗器も色々仕込んでますし。


フィオーネが疑いを持って見守っていると、ダラスは少しずつ踊る相手を変えながらユリウスに近づいて行った。そして背を向けおもむろに懐に手を伸ばし刃物を取り出すのと、ユリウスが令嬢をダラス側にしてダンスをやめるのと、タイミングが合ってしまった。

そのままダラスは振り向き、短剣を振りかざし振り下ろす途中でダラスはそこにいるのがユリウスではないことに気づいた。そしてその時には手遅れだった。




ーーザシュッーー


「キャーーー!!フィオーネ様!!!」


「ぅっ…、」


「取り押さえろ!!」




既に走り出していたフィオーネが令嬢を庇い背中に傷を負った。痛みに顔を歪めながらトーリが指示を出しダラスが捕縛されていることを確認し令嬢に向き直る。




「お怪我はありませんか?」


「私よりもフィオーネ様が!!」


「私は大丈夫です。」




かなり深く刃が入ったようで、着ている制服にどんどん血が滲んで行く。

フィオーネは気づいていた。ユリウスはわざと令嬢を盾にしたのだ。人の命を軽んじている。フィオーネを憤らせるには十分過ぎる状況だった。




「フィオーネ!医務室に行くぞ。連れて行ってもらえ。後のことは任せろ。」


「隊長、後はよろしくお願いします。」




数人の部下が来ていたが、自分で歩いて広間を出て行った。部下には戻るよう伝え医務室へ向かい、医務室へ一歩入った所でフィオーネの意識は途切れた。















フィオーネが意識を手放し医師達が焦りながら手当てをしていたその頃、夜会会場である広間では、陛下により本日の夜会を終了とする旨が伝えられていた。ダラスは捕縛され牢へと連れて行かれた。トーリの指揮の元迅速な回収も行われ、スパイのフリをしていた近衛兵によりダラスに協力していた貴族も洗いざらい投獄された。




「皆、我が身内のした事で迷惑をかけてしまい申し訳無い。すまない。追って事の詳細を報告する。ティエリアス卿は残ってくれ。」




陛下に呼ばれた公爵は共に執務室へと移動する。王妃、そしてユリウスも一緒だ。

執務室に着き、扉が閉まると同時に陛下が頭を下げる。




「ティエリアス卿、すまぬ。貴殿の大事な娘に傷をつけてしまった。」


「頭をお上げください陛下。もとより、近衛隊に入る事を許した時に覚悟はできております。」


「しかしだな、我らが身内がした事だ。詫びはせねばならぬ。」




公爵は困り果ててしまった。陛下から詫びをと言われても、フィオーネは職務を全うしただけなのだ。可愛い娘を傷物にしてくれやがってと思ってはいるが、近衛隊を除隊することをフィオーネは望まないだろう。それよりも今は一刻も早くフィオーネの元へ行き、無事を確認したいのだ。




「では、フィオーネ本人へその言葉をお伝えください。本人の望むようにしてやってくださいますか?」


「卿はそれでよいのか?」


「こう見えてあの子の父親です。あの子の事は何となくですがわかります。」


「わかった。落ち着いたら私からフィオーネ隊長補佐には直接伝えよう。」


「ありがとうございます。」


「もう医務室に行って良いぞ。」


「失礼します!!!」




慌ただしく出て行く公爵を見て国王であるソラン・ファン・ラムネスはそれは深いため息をついた。何かやらかすとは思っていたが、まさか本気で兄を殺しにかかってくるとは。タイミングが悪く、令嬢が刺される所だった。フィオーネが守ってくれなければどうなっていたことか。




「はぁ…、どうしたものか…。」


「あなた…。」


「ユリウス、お前ももう下がりなさい。本当は夜会など出たくなかったのだろう?」


「…気づいてたんですか。」


「父を侮るな。」




ソランは胸に抱く疑念を振り払いたかった。

ユリウスはあの時ダラスの動きに気づいていた。気づいていながらあえて踊っていた令嬢をあの位置で止めた。

だとするならば、ユリウスは……。




「ソラン…。」




ユリウスの出て行った執務室でナターシャがソランの腕をさする。その手を握り締めナターシャの顔を見上げる。




「ナターシャ、こんなにも息子"達"が信用できないとは、私は親失格だろうか。」


「そんな事はないわ、ソラン。」


「しかし、考えたくなくとも、疑念しか浮かばないのだ。」


「貴方は一国の王よ。王がすべてを信じていては国は滅びるわ。それに……。」


「それに?」


「王族は国民が居なくては生きていけない、という事を、あの子達はまだ理解できていない気がするの。」




ナターシャのその言葉にソランは彼女も同じ疑念を抱いている事を感じ取る。




「……これから、だな。」


「ええ、そうね。」


「私を助けてくれナターシャ。君なしではこの大仕事を終えられない。」


「もちろん。私はいつでも貴方のそばにいるわ。」




月の光が雲に隠れ、暗い夜となった。

この雲が晴れるか、晴れないか。ソランは己に降りかかる重責に押しつぶされそうになる。そんな彼をいつも支えてくれるのは妻のナターシャだ。

どこで何を間違えた。

愛情を持って育てていた。

教育も受けさせていた。

自然にも触れさせていた。

共に多くの時間を過ごしていた。

それでも、2人の息子達は道を誤ってしまっている。




「…今は祈るしかないな…。」




陛下の重く沈んだ声が響く事なく闇夜に消えた。






夜会編終了です。

いろいろ駆け足になりすぎた気もしますが、これ以上上手く広げられる自信がなく…。


おいおい少しずつ広げていきたいと思います!

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