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豪腕令嬢は恋を知らない  作者: 馬輩騎
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夜会ーその3ー


「まぁ、ユリウス。本当に大きくなって。」


「母上、私はもうそんなに小さい子供ではありませんよ。」


「でもねぇ、しばらく見ない間に成長しているのは事実でしょう?」


「それはそうですが。」




苦笑いを浮かべながら頬をかくユリウスをべた褒めしているのは王妃であるナターシャだ。

留学していたという事を知っているのは、国王と王妃、そして近衛兵のトーリ含む極一部だけだ。




「ナターシャ、少し落ち着きなさい。」


「だってあなた〜。」




涙ぐむ王妃の頭を優しく撫でながら陛下もユリウスに笑顔を向ける。




「大きくなったというより逞しくなったという方が相応しいだろう?」


「そう言っていただけた方が私としても恥ずかしくはないですね。」


「私にとってはいつまでも可愛い子供ですもの!無事に帰ってきてくれて嬉しいわ!」




王妃がユリウスを抱きしめれば、ユリウスも優しく王妃を抱きしめる。




「こらこらユリウス。その役割は私のものだよ。」


「父上も相変わらずですね。」


「ハハハハハ、当たり前じゃないか!」




笑い合う3人は本当に仲の良い親子に見える。

そんな3人をフィオーネは物珍しく見つめていた。国王陛下、王妃、第二皇子の3人ではこんな姿にはならない。ユリウスだから、だろう。見たこともない穏やかそうなお二人に驚いていた。


むしろ、こちらがお二人の本来のお姿なのでしょう。微笑ましいですね。


フィオーネの隣には陛下を護衛するトーリと王妃を護衛する副隊長の1人レイバー・ヌアンがいる。長く護衛してきただけあって見慣れているのだろう。微動だにせず立っている。




「それよりユリウス、ダラスの事だが。」


「ええ、わかってます。」


「あやつの護衛を最近変えたのだが、金で買おうとしたらしくてな。そこで、スパイとして金で買われたふりをしてくれている。」


「それはそれは。」


「どうやら今日の夜会であわよくばお前を殺そうとしているらしい。近衛兵の護衛は隙間がないから大丈夫ではあろうが、お前も警戒しておきなさい。」


「もちろんそのつもりです。それにしても、私がいない間に少しは更生しているかと思ったのですが…。」


「あやつのことは既に諦めた。それなりの罰を与えねばならぬ。」


「父上。」


「心苦しいことですが、陛下と私で決めたことです。ユリウス、貴方は心配しないで。」




悲しそうな王妃の肩を陛下が支える。

ちなみにここは国王陛下の執務室。第二皇子がこの場に来ないことは誰もが知っており、かつ近衛兵が扉の外で警護している。誰も入れない。




「近衛兵隊長補佐のフィオーネさん。ユリウスの事お願いしますね。」


「はっ!お任せください。」


「うむ。トーリ、彼女は信頼できるのだろうな。」


「はい。」




顔が歪みそうになるのを辛うじて抑えたフィオーネは冷静に考える。可愛い息子がいきなり連れてきた護衛が若い女であればあまり良い顔はしないだろう。ましてや国王陛下とフィオーネは面識がほとんどないのだ。疑うのも無理はない。


結構面倒臭い仕事を引き受けてしまいました。


ちらっとユリウスの顔を見れば、フィオーネを見ながら悪い顔でニヤついている。ろくな事を考えている顔ではない。




「お時間でございます。」




侍女の声がかかり広間へと向かう。少し距離を開けて後ろからついて行く。

既に夜会は始まっており、不自然でない程度に周囲を見回せばこちらを睨みつける(主にユリウスを)第二皇子の姿も確認できた。刺客を雇っていないとも限らないと思っていたが、それらしき人物は見当たらない。


どこに隠れているとも限りません。気は張っておきましょう。


玉座に陛下と王妃が座ると同時に挨拶のため貴族の面々が列をなしてやってくる。早い段階でフィオーネの家族がやってきていた。




「国王陛下におかれましてはご健勝そうでなによりでございます。ユリウス皇子殿下、ご快復心よりお喜び申し上げます。」




自分の姉や弟達がお辞儀をするのを見ているとばっちりと目があった。

何故お前がそんなところにいる!?とでも言いたげな顔でフィオーネの顔を凝視するティエリアス公爵だが、陛下に声をかけられ向き直る。




「ティエリアス卿のご令嬢が近衛兵におるというのは聞いていたが、今日はユリウスが世話になっていてな。護衛をしてくれておる。」


「左様でございますか…。ご無礼がないといいのですが…。」


「何を言われる。無礼といえばこの私だ。警戒して失礼な態度を取ってしまったにもかかわらず、己の立場をしかと見極めておるのぅ。よい娘を持ったな。」


「もったいないお言葉でございます。」


「とても可愛らしいご令嬢だわぁ。ユリウスのお相手にくださいません?」




社交辞令もほどほどにしてください王妃さま。父が本気にするではないですか。


フィオーネの予想とは反する反応を公爵は見せた。




「それこそもったいないお言葉でございます。どうやら娘は己の道は他人には決められたくない様子でして、私の言う事などとうの昔に聞かなくなりました。娘には何も強要できないのです。」


「ハハハハハ、それもそうだな。でなければ近衛になど入らぬであろう。」




最後に父上に睨まれました。


仕事と割り切っているフィオーネにとって何故睨まれているのか理解できない。

挨拶も一区切りがつき、ユリウスはため息をついていた。護衛しているわけだからフィオーネにもがっつりその姿は見えていた。苦手だと言っていた夜会にちゃんと出て陛下と王妃の前でそのそぶりも見せないのだから立派なものだ。おまけに弟からの殺気までついてきている。




「少しお休みになられますか?」


「休めると思うか?」


「本気にしないで下さい、建前です。」




気遣うふりをすればユリウスはクスクスと笑う。

周囲にいるご令嬢が色めき立つ音がする。


本当に女子というものは整った顔立ちの人が好きなんですね。


ユリウスとフィオーネの2人セットの様子に色めき立っているとはつゆ知らず。




「フィオーネ、ダラスは何かしてくると思うか?」


「してくる気持ちは少なくともあると思います。実行できるか出来ないかは別として。」


「何故言い切れる?」


「懐に刃物を隠しているのを見たからです。」


「…よく見れたな。」


「たまたまですよ。」




わざとらしく笑顔を作って答えればユリウスは恐ろしいものでも見たかのような表情をした。






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