新体制ーその2ー
忙しさにかまけてサボるのはいけませんよね
反省…
フィオーネが文字通り眠る暇もなく、バタバタと3日の時間が過ぎた本日。ラムネス王国王城には500人弱の人が集まっていた。近衛兵になるべく試験を通過してきた者達だ。
「おぉー、結構集まってんなー。」
最終試験受験者集合場所になっている訓練場広場の上方、下からは誰にも見られない場所にトーリ達は待機していた。試験開始前、近衛隊隊長から激励をするのが恒例になっている。
「今年は随分と集まりましたね。」
「優秀な人材が多いのは良いことです。」
「いやぁ、隊長って肩書は楽じゃねぇけど楽で良いわな。」
「「隊長が言わないで下さい。」」
「隊長がやるべき仕事をフィオーネさんがやってくださったんですから。」
「誰も尊敬しませんよ?そんなんじゃ。」
「お前ら2人はよー、本当裏表ねぇよな。」
「「褒め言葉として受け取ります。」」
副隊長レイバーの補佐という形で副隊長に任命されている2人、イアン・マックスとロー・シドニスは若者特有の軽いながらも核心を突く口調でトーリを責め立てた。
トーリの言った通り、裏表のない信用に足る人物なのだ。二十代前半で副隊長に割り当てられ早数年、容姿も整っている2人は国民からも密かに人気を集めている。
「フィオーネさんはもう休んでて下さいよ。あんまり働きすぎるとユリウス殿下の世話が出来ないですよ?」
「ご心配いただきありがとうございます。でも睡魔のピークは過ぎたのでもう大丈夫です。」
「若い内に無理しすぎると後々後悔します。フィオーネさんは下がってて下さい。後の隊長の尻拭いは自分達でやりますから。」
「しかし…」
「2人がこう言ってるんだ。フィオーネはもう休め。試験がひと段落したら今度は王子の婚約者としての役割があるだろう?」
トーリの言っていることは至極まともだ。
しかし、
「「「お前がいうな。」」」
見事にハモった3人のツッコミ。
それもそのはず。事の元凶はトーリなのだから。
睡魔のピークは通り過ぎたとは言っても、体は思うように動かない。少し休もうとどこがいいか歩きながら思案中、頭上から声が降ってきた。
「フィー。」
見上げればユリウスが木の上から手を振っている。
「……」
「え、何どうした?」
「いえ、…ちょっと今頭が働かなくて…」
「レイバーから聞いたぞ。寝てないんだろ?登ってこれるか?」
「はい?」
「あのな、この木の上結構死角になってて誰にも見えねぇのよ。登ってこい。」
大人しく従ったのは本当に疲れていたからだろう。
庭園の一際大きな木、その上は太い枝が広がり、下方に葉が生い茂っているため確かに下からだと死角で見えないだろう。
伸ばされた手を素直にとって、ユリウスの隣に座る。
ちょうど良く平らになった太い枝は座り心地が良かった。
「何日寝てないんだ?」
「3日です。」
「はぁ…、近衛の試験はあいつらに任せて少し休め。」
「そうしようと思って歩いてたんですが、何処で休もうかなと…」
「ここで休めばいいんじゃないか?」
「危ないですよ。」
「俺が支えてる。」
「ですが…」
反論しようと口を開いたフィオーネの肩を抱き寄せ、ユリウスは自身の胸元に寄りかかる様にフィオーネをホールドする。
幹に寄りかかるユリウスにフィオーネが横向きに寄りかかる形だ。
「ゆ、ユリウス殿下っ」
「いいから。フィー、お前は頑張りすぎだ。」
「そんな事は…」
「そんな事あるぞ。仕事熱心なのはいいが、自分の体も少しは労ってやれ。でないと俺が心配で寝れない。」
「心配って…」
「好きな奴が無理してたら心配になるのが人の心理だろ?」
「……っ、そ、そうですか。」
不意に好きだと言われてフィオーネは動揺する。赤く染まった頬を隠すように、諦めてユリウスの胸元に寄りかかる。楽しそうに喉を鳴らす音が聞こえてくるが、そこに突っかかる程気力は残っていなかった。
伝わってくる温もりが心地いい。暖かさは急速に眠気を持ってくる。フィオーネが眠るまでそう時間はかからなかった。
「寝た、か?」
スヤスヤと寝息をたてるフィオーネを木から落ちないように且つ誰にも見られないように(フィオーネの寝顔を見ていいのは俺だけ!)しっかりと抱きしめる。
フィオーネが途中で仕事を投げ出さない性格な事はわかりきっている。だからユリウスは何も言わなかったし見守るに徹していた。近衛兵隊長もあんな性格だが隊長を任せられているだけあって隊員を見る目線は折り紙付きだ。そこに心配は無かった。だが、純粋にユリウスはフィオーネが心配だったのだ。
「まったく世話の焼ける婚約者だよ、お前は。」
ユリウスの前で決して気を抜こうとしないフィオーネだったが…
ここまで許してくれるようになったのはかなり嬉しいかもしれん。起きた時に殴られなきゃいいけどな。
ため息を吐くがユリウスの表情は穏やかだった。
新人さん達が入ってきます!!




