新体制
やっとこさの更新です…
色々あって忙しくなってしまったユリウスは、学園にはほとんど通えていない。しかし隙を見ては足を運ぶようにしている。以前フィオーネに自分の目で将来の人材を見極めれば良いと言われて、確かにその通りだなと感じたからだ。
ラムネス王立学園の正式な卒業年齢は18だ。国王陛下の意向でユリウスは18まで在学する事になっている。全ての科目を取得してしまい教師団から教えてもらう事はないユリウスだが、諸外国の交易や内政について最近は熱心に学んでいる。主に図書室にこもって。学園には留学生も多くいるため、彼らと関わりを持つことで彼らの祖国を知ることができる。いずれは外交にも関わってくるのだ。
真面目に取り組んだ甲斐あってか、国王陛下から外交を任されるようになってきたのはユリウスにとって大きくガッツポーズを決めたいレベルだ。気を抜くと「イェス!!!」とか口走りながら両手ガッツポーズしそうなレベル。だからと言って鼻高々になったりはしない。もうそれで痛い目は見た。
「ユリウス殿下。」
「何だ。」
「お客様です。」
「誰だ?」
「バルガン国宰相子息、サム様です。」
「通してくれ。」
「はい。」
午後学園の図書室にて休憩を兼ねた調べ物をしていた所だったが、サジに案内されてやってきたのはバルガン国宰相の次男、サム・ドラムスだ。一言で言えば、国の将来を考えよりよい未来を作るため奮闘している有能な人材だ。
「ユリウス殿下のお目にかかります。忠実な僕サムが参りました。今よろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。」
「頼まれていた祖国の文献をお持ちしました。お納めください。」
「恩にきる。」
「ユリウス殿下のお望みとあらば、お安い御用です。今日のお供はサジ様だけですか?」
「ああ。何か気になることでもあるのか?」
「いえ、フィオーネ様にも頼まれていた事があるのですが…、また後日に…あっ、でもユリウス殿下にお伝えするのでも大丈夫なのか?うーん…」
でも、うーん、どうしよう、と唸り続けるサムは本気で悩んでいるらしい。フィオーネから頼まれ事、些かその内容が気になるが、ユリウスにとってそれを前面に出すのはフィオーネの前だけに留めておきたい。
「フィオーネなら城で近衛の仕事をしている。予定が無ければこの後来るか?」
「まさか!そんな突然城にまで押しかけてはユリウス殿下のご迷惑になります!またの機会にします。」
「そうか。」
「はい。それでは、失礼いたします。」
「ああ、またな。」
図書室を去るサムの後ろ姿を見送る。
ユリウスから見てサムは、今の所裏表の無い善良な信頼できる人物だ。疑いたくは無いが、全幅の信頼を置くのは相応しく無い。
「悲しい性だな。」
「ん?何が?」
「全てを信頼できない。」
「それは立場上仕方がない事だろ?」
「それはそうなんだけどな。」
そこに少し寂しさを感じるようになったのは弱くなったということか?以前のユリウスでは考えられない心境の変化だ。しかしその変化が恐怖心を生む。今後その考えが己の決定を間違いに導いてしまうのではないか、周囲の人々、自分、サジや、特にフィオーネを…危険な状況に追い込んでしまうのではないかと。
険しくなった表情をサジは苦笑う。
「兄弟は変わったよ、良い方に。」
「そうだといいんだけどな。」
「そうだよ。表情が豊かになるのは人間味に溢れてて親しみやすい。」
「王族にその素質は必要か?」
「お父さん見ててどう思う?」
「使い分けてる。」
「じゃぁ、兄弟もそうすればいいんじゃない?出来るよ、だって俺の兄弟だもん。」
「簡単に言ってくれるな。」
ニーっと笑うサジの顔を見ていると、怒る気にもなれない。でも悪い気はしないのだからサジの役得だろう。
「はい、じゃぁコレ食べてバルガン国の資料でも見てください。残りは俺が食べとくから。」
「ふざけんな全部食べるわ。」
「ちぇー。」
笑いながら定位置に戻るサジは側近として本当に良くやってくれている。フィオーネの細やかさには負けるものの、一般的な側近に比べては頭一つ以上飛び出ているだろう。だからこそ、サジはユリウスの隣にいるのであり、兄弟と呼んでサポートしている。
それを分かっているユリウスは、フィオーネお手製の軽食をつまみつつ慢心せず、気を取り直して資料に向き合った。
その頃、王城にてフィオーネは。
「あの、いい加減にしてくれませんか?そろそろブチ切れますよ?」
「す、すまん…」
トーリのせいで残務という地獄を味わっていた。
簡単な書類処理ならまだいい。しかしトーリが残したのは近衛隊の所属に関する人事だったのだ。
毎年新しく王城には近衛兵が入ってくる。各々の適性に合わせてそのまま王城勤務にするのか、国の各所へ派遣するのかを決める。
毎年入隊試験があるのだが、まずそこにたどり着くまでが難問である。希望者を募り、素性を調べ、実力を図るためまず小さな区域で試験がある。地域によってレベルは異なるものの、その試験に合格したものが地方試験に進むことが出来る。そしてその後王城にて最終試験があるのだ。最終試験が最も難しく、何段階にもなっている。で、地方試験まで終了している訳だが、王城での最終試験まで残り3日しかない。すっかり忘れて何の準備もし始めなかった為、他の近衛隊からフィオーネの所にヘルプが来たのだ。
まず私の所にヘルプが来るのおかしくないですか?普通副隊長達にお願いするでしょう?私は今ユリウス殿下の側近もやってるんですけど。
フィオーネが近衛の執務室にやってきた時、トーリは今まさに飲みに行きます!みたいな風貌で出て行こうとしたためフィオーネの鉄拳が飛んだ次第である。
「現状、わかってらっしゃいますか?」
「えーっと……、かなりヤバい?」
「そうですね、貴方のおかげで近衛隊の面目丸潰れです。ひいては国王陛下にも迷惑がかかる事、正しく認識して下さい。」
「はい…。」
「では、さっそく取り掛かりますよ。」
やるとなれば迅速に、がフィオーネである。
まず会議室に副隊長達を召集し、役割を決める。段階毎に教官を変え、出来るだけ多くの隊員達の目に触れるようにする。多くの目は多角的に物事を見ることが出来る。つまりは近衛に相応しい人材を見つけられると言うことだ。
「ということです。隊長は使い物になりませんから副隊長の皆さん、死ぬ気で頑張りましょう。」
「「了解。」」
「お、俺は何をすれば」
「国王陛下に謝罪でもしてくればいいんじゃないですか?邪魔なんでどっか行っててください。報告書を後で提出しますので流れはそれで把握して下さい。」
「うぐっ…」
「いいですか、隊長。遊んでる暇はありませんからね。」
「はい…。」
学園から帰ったユリウスは執務室にフィオーネが居ないのを見て近衛隊の執務室へと足を伸ばした。普段この時間はユリウスの執務室で仕事をしているはず。いないということは、まだ近衛の仕事をしているか何か問題が発生したか、どちらかだ。
執務室の扉を開くと、そこは殺伐とした空気が漂う魔界とかしている。もれなくその空気にあてられたユリウスは思わず後退り扉を閉めていた。
え、何ここ。俺の知ってる近衛隊執務室じゃねぇし。
動揺するユリウスの鼻先をかすめるように扉が開く。
「っぶね!」
「え?あっ!申し訳ありませんユリウス殿下!お怪我はありませんでしたか?」
「大丈夫だ。何かあったのか?」
「えっと、わたしは急ぎますので中の隊長にお聞きください。では!!」
目にも留まらぬ速さで走り去る兵に言葉をかけることも出来ず、開け放たれた扉の中に目を向けると我が婚約者殿がテキパキと指示を出している姿が目に入ってくる。その隣で近衛隊隊長のトーリ・バンクスが必死に紙と向き合っている。何かを書き込んでいる事は分かるが、あまりの忙しそうな様子に声をかけようか迷ってしまった。
やめとくか…。
静かにこの場から立ち去ろうと執務室に背を向けた瞬間。
「ユリウス殿下?」
「忙しそうだな。邪魔にならないようにいなくなろうと思ったんだが?」
「忙しいのは忙しいですが、全てこいつのせいですからね。後でしっかり粛清させていただきますよ。それで、何か御用ですか?」
「いや、後にする。」
しっかりとトーリを指差しながら悪態をついたフィオーネに、思わず吹き出しそうになるのを堪え執務室を後にした。
この調子ではしばらく忙しいのだろう。内心ゆっくり話す時間が欲しかった訳だが、ユリウスもユリウスで今後忙しくなる事は目に見えていた。
新近衛兵達が決まれば挨拶やら何やらで自分の時間がなくなる。
あー…、フィーとの時間が欲しい…。
ユリウスのぼやきは誰にも知られる事はない。
すごい中途半端になっちまったい…




