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豪腕令嬢は恋を知らない  作者: 馬輩騎
23/28

隣国からのお客様ー収束ー

次の話はいそいそと移行するための繋ぎのような話になってしまいました。




「謝らねばならない事がたくさんあるのだが…。」




執務室へ満面の笑みを浮かべてやってきた国王陛下だったが、直様暗い表情に変わる。謝罪される事など考えれば山程あると思うのだが、国王自らが謝罪を行う事は基本的に認められない。フィオーネからしてみれば謝罪を受け入れる事で本格的に婚約者として立場をはっきりさせなければならなくなるのは御免被りたい訳だが、断ってしまってもいいのかと悩む自分もいた。何故悩んでいるのか、自分でも理解できない。次期国王の婚約者など、これほどまでに面倒な立ち位置はないだろう。公爵令嬢という立場上、将来の国母となり得てしまうのは致し方がないが、それを了承するかはまた別問題である。それなのに。


何故私は婚約者という立場を退きたいと心の底からは願っていないのでしょう…。


少なくともユリウスの隣にいる事に、居心地の悪さは感じていなかった。




「アガの事だが、軟禁している。もうフィオーネに害は為せないだろう。…今回の事でまたフィオーネに傷を負わせてしまった…本当に申し訳ない…。」


「いえ私の事は気になさらないでください。もとより近衛兵の1人です。これぐらいで弱気になる事などありません。」


「なんとも頼もしいな。して、どうティエリアス公爵に謝罪すればいいと思う?」




そんな泣きそうな目で見られても…。


今にも泣き出しそうな雰囲気の陛下に何かいう事など出来ず。そもそも娘第一主義のティエリアス公爵がフィオーネの言葉を聞いたとして陛下に怒りをぶつけないとは限らない。




「私に聞かれましても…父の事は陛下の方がよくご存じでございましょう。」


「うん、殴られる未来が見えるんだ。」


「父上…。」




あまりの嘆きっぷりにユリウスも若干引いている。




「まぁ、それはおいおい殴られるとして。」


「殴られていいんですね。」


「フィオーネには確認せねばならぬ事がある。」




ユリウスのつっこみを無視して陛下はフィオーネに向き直る。




「フィオーネ・イザナ・ティエリアス公爵令嬢、今後ユリウスの婚約者として正式に迎え入れたいと我々は思っている。フィオーネの意思を確認したい。この申し出、何か異論はあるか?」




またしても突然そうやって私の予想を覆す陛下のお言葉にはうんざりですが…。逆らってはならないと思いますが、ここはあえて少しだけ逆らわせていただきます。




「私は傷物令嬢です。ユリウス殿下の婚約者には相応しくないのではありませんか?」




フィオーネの自虐を否定しようとしたユリウスの言葉を片手で遮り、ゆっくりと息を吐いて陛下は言葉を紡ぐ。




「傷物令嬢ではないだろう?むしろ責任は私たちにあるのだから。」


「…、少し、考えさせていただけませんか?」


「よかろう。」




頭を下げれば快く受け入れてくれる陛下に笑みを向け小さく謝罪する。

自分の気持ちがわからない以上、答えを出す事など出来るはずもない。曖昧な答えはしたくない。

ちらりとユリウスの顔を見れば不安そうな表情を浮かべている。


何を不安に思うのでしょう、私より年上の癖に。




「では、またな。色良い返事を期待しているぞ。」




立ち上がった陛下にあわせてフィオーネも立ち上がる。執務室から出て行った陛下の後を追い、ユリウスも今日は下がるのかと思いきや、ソファーに座ったまま動かない。




「で、なんて呼んでくれるんだ?」


「え、そこに話が戻るんですか?もういいじゃないですか。私も今日はもう疲れました、下がらせてください。」




逃げるような言い方になってしまった自覚はある。そしてユリウスは意図もあっさりその逃げを捕まえる。




「呼んでくれたら下がってよし。」


「何故そこまでこだわるんですか?」


「俺がフィオーネを好きだから。」


「は?」


「好きだから名前で呼ばれたい、距離を近づけたい。本当の婚約者として俺を見てほしい。」


「なっ…」




一気に顔に熱が集まったのを見られたくなくてユリウスから顔を背ける。何故こんなに心臓が早く動くのか。




「フィー。」


「っ!?」




今まで愛称で呼ばれる事なんて、ほとんどなかった。ましてや異性に呼ばれるなんて…。

そんなものに興味もなかった。そのはずなのに、ユリウスから呼ばれた名前が耳に心地よく響く。フィオーネを動揺させる。さっきから胸が苦しい。顔が熱い。


こんなの、知らない!




「…ふっ、まぁ、今日はいいや。フィーのそんな顔初めて見たし。」




クスクス笑いながらフィオーネの髪をすくう。

顔を真っ赤にしたフィオーネが恨めしそうに睨むと一瞬視界から消えた。

額に柔らかい何かが触れる。チュッと小さい音を立てて再び視界にユリウスの顔をとらえる。




「おやすみ、フィー。」




ユリウスが出て行った執務室で、フィオーネはしばらく地蔵のように固まっていた。頭の処理が 追いつかない。




この日からユリウスの求愛が始まったのである。




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