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豪腕令嬢は恋を知らない  作者: 馬輩騎
20/28

隣国からのお客様ーその3ー

隣国王太子一行到着です。



いよいよ隣国の王太子一行が到着する今日、準備は滞りなく行われていた。もういつ到着しても問題ない。

今日は一日挨拶と城内の案内、及び親交を深める事に時間を充て、明日歓迎の夜会が開かれる手筈になっている。




「さて、とうとう今日になってしまったわけだが。」


「どうしたんですか父上。」


「いや、面倒…もとい気が重いと思っただけだ。」


「珍しく父上が弱気ですね。」


「ナターシャが居れば弱気にはならないんだが…。」


「ソウデシタカ。」




陛下が萎れている理由、それは最愛の妻であるナターシャ王妃が体調を崩し隣に居ないからだ。眩暈と吐気を訴え昨日から寝込んでいるのだ。今日医師に診てもらう事になっている。




「役目を投げ出したらナターシャが悲しむからとりあえず仕事はするけど。」


「父上のその素の顔を民衆にも見せればもっと支持されると思いますけど。」


「この顔は家族用だからね。家族以外には見せないよ。ちなみにトーリとレイバーとフィオーネは別。ほぼ家族みたいなもんだし、フィオーネに至っては婚約者としても今回は働いてもらうから。」


「ソウデスカ。」




2人の後ろに控えているトーリ、エンヴィー、フィオーネ、サジはため息を必死に押し殺していた。正門近くの客室で王太子一行の到着を待っているその間、ずっとこんな会話(主に陛下の愚痴と惚気)を聞かされるのかと思ったら半分意識を飛ばしてもいいのではないかとも思う。ユリウスはユリウスで受け聞き流すという技法を駆使している。時々フィオーネに飛んでくる"助けて"という目線は華麗に無視されている。




「到着なさいます。」


「そうか。では行こうか戦さ場に。」


「父上、そろそろ陛下の顔に戻った方がいいですよ。」


「もちろんだ。」




国王陛下の顔に戻ったソランとユリウス、そして護衛と側近は城の正門前の扉をあけ放ち隣国の王太子一行をお迎えする。

馬車が車寄せに停まり扉が開かれる。最初に降りてきたのは王太子、その次に王太子の手をとり婚約者、次に姫君と続く。


何というか…


何とも表現し難い感情に襲われたフィオーネだが、どうやらフィオーネだけではないらしい。ユリウス、サジ両者ともどうやら直視しないように心掛けているようだ。




「ようこそラムネス王国へ。ソラン・フォン・ラムネスだ。」


「ウイグです。我が国の急な申し出に答えてくださり感謝します。紹介します、私の婚約者ルカです。」


「お初にお目にかかります。ルカと申します。以後お見知り置きください。」




淑女の嗜みをきちんと把握しているようで、最高位の人物に対する礼を正しく行う。




「私の妹、アガです。」


「初めまして。」




ルカ嬢の後の紹介だったから際立ったのか、挨拶をしただけで礼も何もない。それどころか扇でパタパタと扇ぎながら辺りをきょろきょろと見回している。礼儀の前に王族としての教養も何もないのか、そんなイメージがついてしまう態度だ。

フィオーネはそんな妹に対して兄であるウイグ王太子がどう見ているのか気になりちらっと様子を伺う。


うーん、あれは諦めている顔ですね。ウイグ王太子は常識を理解していらっしゃるようで。


ユリウスに至っては不快感を顔に出してしまっている。そこは国王陛下を見習っていただきたい所である。




「ユリウス。」


「はい。ユリウス・フォン・ラムネスと申します。」




胸に手を当ててお辞儀をする。


流石様になってますねぇ。


失礼なことを考えているのがバレたのか誰にも分からないように睨まれたフィオーネは知らぬ顔をする。

そしてメーネ国の姫君、アガの顔。

ロックオンとはまさにこの事か。猛獣の目つきになっております。ゆっくりと交代してフィオーネの隣に立つユリウス。その隣で笑いを堪えるサジ。流石の陛下でさえ何となく笑いをこらえてそうな顔つきになっている。




「申し訳ありません。」


「自覚はあるようだな。ここで立ち話もなんだ、応接室へご案内しよう。」


「ありがとうございます。」




陛下の一言で皆歩き始めた。アガ姫は何も言わずにユリウスの隣に立とうとしたが何も言わずにユリウスがサジとフィオーネの間に立ったため苛立った顔つきになる。

応接室にて用意されたソファーに座ったのは、陛下、向かい側にウイグ王太子、その隣にルカ嬢、アガ姫は1人がけのソファーに座った。陛下の斜向かいだ。ユリウスと愉快な仲間達(2人)は側に立った状態で控えている。




「改めて感謝を。我が国の不躾な申し出に答えていただいただけでなくこうして招いてくださった事、心から感謝します。」


「我が国としても、隣国であるメーネ国との友好は望ましい事と考えている。そんなに畏まらなくてよい。ところで早々で悪いのだが、滞在はどの程度を考えているのか?」


「そうですね、色々と学ばせていただきたいこともありますので少なくとも2週間はこちらに滞在させていただければと思っています。閉鎖的な国ですので、外の文化に触れる良い機会になればと。」


「そうか。長旅で疲れたであろう、今日はゆっくりと休むといい。」


「そうさせてもらいます。」




隅に控えていた侍女達が王太子一行を客室へと案内していった。去り際にアガ姫はユリウスに微笑みかけていたが、等のユリウスは目も合わせていない。後ろに控えたフィオーネを睨んだのは間違いない。

というわけで陛下の執務室にて緊急会議が開かれている。




「まずは今後についてだが、予定通り明日から接待というか相手をしてもらうことになる。」


「警備体制はどうしましょう。あちらから護衛と言える人材は付いてきていないように思われますが。」


「うむ、トーリの言う通りだね。どうやらメーネ国内での王族の価値は本当に低いらしいね。近衛から相応しい人数をあてられるかい?」


「問題ありません。」


「で、ユリウスなんだけど。」


「はい。」


「アガ姫、どう思う?」


「恐怖。」




サジとフィオーネの吹き出しがハモった。ユリウスには睨まれるが可笑しい事に変わりはない。




「確かに、ユリウス殿下にロックオンしたのは分かりましたね。」


「それが分かるから恐怖。父上も気をつけてくださいよ、あれは化け物だ。」


「こらこらユリウス、仮にも一国の姫君にそんな事は言ってはいけないよ?」


「笑顔で言われても説得力ゼロですよ。それに言いますが、お世辞にも美人とはいいがたい容姿ですよ?!どこからあの自信が出てくるのが知りたいぐらいですよ!!」




どうやら出会いだけでユリウス的にはギブアップ寸前のようだ。




「明日の夜会で婚約者がいると分かるだろう?そうしたら大丈夫じゃないのか?フィオーネはどう思う?」


「あの手のタイプは中々折れないとは思いますが。」


「女性同士としてどう思う?」


「私は好きません。自信過剰な上に自意識過剰に思います。」


「フィオーネも結構言うね。まぁ、成るように成るだろうし、フィオーネは仮にも近衛でユリウスの側近且つ婚約者だから守ってくれるよね?」


「ふさわしければそのように。」




ユリウスが子犬のような瞳でフィオーネを見つめる。ここ最近のユリウスはフィオーネの目から見ても努力しており成長が著しい。仕える身としては助けない道理はない。




「クスクス、ユリウスも疲れたみたいだし今日はこれで解散にしようか。明日からまた頑張ってくれ。」




ユリウスは自分の執務室に戻ってからも嫌だ嫌だと文句を言っていた。




「具合悪いってことにして篭ってようかな。」


「兄弟、それはいくらなんでも分かり易すぎる。」


「だってよぉ…。」


「とりあえずこれでも飲んで落ち着いてください。甘さ控えめのココアです。」


「おー。」


「フィオーネって本当気がきくよね。兄弟の要望を聞かずとも出してくるもんね。」


「側近として当然の事をしているだけですよ?」


「俺には出来ないもん。」


「サジにはもともと期待してねぇよ。」


「酷い!!」


「父上だってサジには隣国についての教育メインって事でわかってるさ。」


「それはそうなんだけどさぁ、面と向かって言われると傷つくぞ?」


「それはそうと、極力1人にはならないで下さい。もちろん私達もユリウス殿下から離れないようにはしますが、私は近衛の仕事もありますし。」


「ん?近衛の仕事?」


「隊長だけで今回の資料が片付くとは思えませんから。隊長からも人選だの警備の配置だの色々と依頼が来てますし。」


「あの人は自分の仕事ちゃんとしてんの?」




サジの指摘にフィオーネは素直に答える。




「極端に要領が悪いんです、あの人は。」


「「なるほど。」」




直ぐに納得されるのも如何なものかと思うのは気のせいではないだろう。

明日からの忙しさを考えて頭が痛くなるフィオーネだった。







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