断罪とユリウスの決意
だいぶ遅くなってしまった上に駆け足です。
決戦の日ならぬ、スヴェン伯爵家ガードン男爵家断罪の日。情報通り両家は伯爵家の小さな別宅で密会していた。そこには国庫の収められた金庫の警護までいる、ということは金で買われた同士だろう。そこに突入した近衛兵一行。秒で捕らえられた関係者達は城へと連行される。
「くっ!何故だ!!何故この場所がわかった!!」
「わ、わたしは関係ない!全てこいつが!!」
「あー、もうどっちでもいい。とりあえず城へ連行する。大人しくしてねぇと腕とか足とか折れちゃうかもな。」
「「ひっ!!」」
トーリに凄まれて悲鳴をあげる。計画は順調に進んでいた。
フィオーネの元に両家当主拘束の一報が入ってから少しして、ジークとヴィヴァルディがユリウスの元へとやってきた。2人揃って何を企んでいるのやら。その企みが全て無駄に終わる時、どんな顔をするのか、少し楽しくなってきたフィオーネだ。
「ユリウス!今日この後少し時間あるかな。」
「はぁ?」
「大事な話があるんだ。」
あからさまに不機嫌な顔をしたユリウスがフィオーネの顔を見る。
この機会!これは是非利用させていただきますよ!
助けろと目で訴えてくるユリウスなど知らぬ存ぜぬとばかりにフィオーネは微笑みを浮かべ、黙りこくったユリウスの代わりに2人に答える。
「でしたら王宮に招きユリウス殿下の執務室で会われては?」
「はっ?!おいフィオーネ!?」
「お言葉ながら本日のこの後の予定は昨日の内に片付けてしまわれました。ご友人を大切にするのも第一皇子として大切なお役目です。」
微笑みを崩さないフィオーネを見て何かしらを察したユリウスは、大人しく賛成する事にした。
「はぁ、じゃぁこのまま俺の馬車で行けばいいか。それでも構わないか?」
「うん!」
ぱぁっ!と表情が明るくなる2人。
この後何が待ち受けているかも知らないで…。
結論から言うと。
伯爵、男爵の称号剥奪と賠償金の支払いと両当主の幽閉。この3つが決定事項。そして国王陛下から追加の沙汰が下される。すでに拘束された両家の当主と、ユリウスと共に城にやってきたジークとヴィヴァルディの4人は謁見の間へと通された。ユリウスとフィオーネは国王陛下後方の見えない所で様子を伺っている。
死角とはまさにこの事、陛下からも見えないし4人からも見えない。護衛のトーリや側近のエンヴィーからは見えているがそれは問題ではない。
「実はあの時執務室の近くに居たんだ。」
ユリウスからの衝撃でもないカミングアウトを受け、フィオーネの判断でこのやり取りを聞き今後に生かしてもらおうとやってきたのだ。陛下からはジークとヴィヴァルディを連れてきたらユリウスと共に下がれと言われていたが、そこはまぁ、臨機応変に。
ユリウス殿下の側近としては殿下に早く成長してほしいですし。
というわけだ。
何が何だかわからないという顔をしている子供達2人。そんな2人を尻目に陛下が口を開く。
「さて、此度の一件、どう説明してくれる?」
「誤解でございます陛下!!」
「誤解とな。この後に及んでまだそのような戯言を申すか!!」
「ひっ!!」
ガードン男爵が小さく悲鳴をあげる。陛下の鋭い眼光に二の句が告げなくなったのである。
「スヴェン伯爵、何か物申すことはあるか?」
「私は騙されたのです。このガードン男爵と金庫の護衛の者に!」
「ほう。してどのように?」
「バレなければ今よりも裕福な生活が出来ると。」
「なっ!嘘だ!!陛下!騙されたのは私です陛下!娘をユリウス皇子の婚約者に駆り立ててやるから協力しろと言ってきたのです!!」
「われもそんなに鬼ではない。正直に話せば減罰してやろうかと考えいたのだ。ちなみに金庫の護衛には死罪を言い渡しておる。その後事の顛末を聞いたが、総てはスヴェン伯爵、貴殿が言い出したそうではないか。」
「そ、それはっ…」
「貴殿には失望した。よって死罪を言い渡す。伯爵号の剥奪と妻子への国外追放ならびに賠償金の支払いを命じる。」
「陛下!!妻や子供は関係ありません!!」
「貴殿の命令でそこの2人がユリウスに近付いていたことは既に調べが付いている。」
「ですが!全ては私の責任です!どうか!妻や子供だけで賠償金を支払うなど無理です!!」
「黙れ!!」
「っ!」
「貴様は国に対しそれだけのことをしたのだ!!…本来であれば皆殺しでも良い所を貴様だけで許したのだ。ありがたく思うのだな。」
「…っ、…はい…。」
「連れて行け!」
スヴェン元伯爵が連れていかれ残されたガードン男爵は震え上がっていた。死罪を恐れているのか。
「男爵。」
「は、はひ!」
「貴殿の処罰を申し渡す。男爵号の剥奪と国外追放ならびに賠償金の支払い。明日までにこの国から出ていくといい。」
「わ、わかりました。」
うなだれた元男爵は見るも無惨だ。近衛兵によって抱えられ連れていかれる姿はなんとも形容しがたい。
フィオーネの前で一部始終を見守るユリウスの表情は後ろからではわからないが、真剣な雰囲気は醸し出している。
さて、謁見の間に残されたジークとヴィヴァルディだが、何が何だかわからないという表情をしている。目の前で自分の親が裁かれた事も理解できていなさそうだ。そんな2人を陛下はため息をつきながら見やる。
「そこの2人、こちらへ。」
エンヴィーに声をかけられ恐る恐る陛下の前へ跪く2人。
「今の話、聞いていたな。」
「は、はい。」
「子供だからと容赦してもらえるとでも思っているのか?」
「!!」
「この国に害なすのであれば、子供といえど容赦はせん。この2人を連れて行け。」
何も言えない2人を近衛兵が連れて行く。
とりあえずは一件落着だろうか。国王陛下の盛大な溜息がその場に響き渡る。
ユリウスは振り返るとそのままその場を後にした。フィオーネも後ろに続く。
腹立たしい、ユリウスの心の内は自分への怒りに支配されていた。城や国の事について今まで気にしていたつもりだった。だが、自分の身近な所で犯罪が犯されていたにもかかわらず気づく事が出来なかった。密かに拳を握りして怒りをコントロールしようとする。
「(くそッ…)」
悔しかった。フィオーネは知っていたしこの件で動いていたのに自分は…。
フィオーネに言われたことが頭の中をぐるぐる回る。
『王族は国民なしでは生きられないのです。』
『この言葉を聞いて激昂なさるのは殿下が低能な証拠です。』
その通りだ。何が第一皇子だ。国の成り立ちを知らず、国民を気にかけているふりをし、己の権力に縋る。やっていることは断罪されたあいつらと一緒だ。
ヴィヴァルディをフィオーネがかばった時、余計な事を、とユリウスは心の中で悪態をついた。しかしあの時ヴィヴァルディが傷を負っていたら。ここまでスムーズに事は進まなかっただろう。ユリウスは今更ながら気付いた。己が第一皇子として致命的に無能であると。
「フッ…とんだ馬鹿野朗だ。」
後ろを歩くフィオーネは何も言わない。それがありがたかった。今声をかけられれば情けなく泣いてしまうかもしれない。
ユリウスは空を見上げると大きくため息をついた。これからやらねばならない事は山程ある。無駄にしていた時間を取り戻さなくては。
「これから忙しくなりますね。」
「…そうだな。」
こんなに頼もしい側近がいるだろうか。言葉にせずとも汲み取ってくれるとはまさにこの事だ。
新たな決意を胸に、ユリウスは歩き始めた。
何とか一区切り、という所でしょうか。
これからのユリウスの成長が楽しみです!




