新たな任務、始動
スパイ映画とかカッコいいっすよね。
ユリウスの違和感に気付いたのは気のせいではないと思う。
城でも学園でも、一見すれば普段通りだがやたら見てくるというか、目が合うというか。ここ数日ずっとその調子だ。
フィオーネは寒気を感じながらも平静を装う。
「何か私に言いたいことでもおありですか?」
「い、いや。別に。」
「ならそんなに見てこないで下さい。気持ち悪い。」
「…この間、ここで父上と何を話してたんだ?」
おっとまさかここでその話題が直球でくるとは思いませんでした。もしかしたら何か勘付いているかぐらいにしか思っていなかったのに。
陛下から依頼を受けたあの日、日がやっと沈んだぐらいの時間だった。ユリウスが執務室に来ようとしてもおかしくはない。しかも用意周到人払いされて近寄れないとなれば怪しむのは必然だ。
でも何故私だと思うんでしょう。
あ、ここで話をするなど私ぐらいしかいないからですかね。
「陛下からお褒めの言葉を頂きました。日頃側近としてよく勤めていると。」
「人払いをして言うような事か?それが。」
「いずれユリウス殿下にも陛下から直接お話しがあると思いますよ。」
「あったにはあったんだよ朝一で。」
「左様でございますか。」
「気にならないのか?何を言われたか。」
「何故?」
陛下から殿下へとお言葉なんて私が知らなくても一向に構わない案件です。
全く?といった感情が見事に表情に出たフィオーネを見てユリウスは笑い始める。
「本当にフィオーネは信頼できる側近だよな。」
「ありがとうございます。若干癪に触りますが褒め言葉として受け取っておきます。」
「そうしてくれ。父上からはフィオーネの事をもう少し気にしろと言われた。怪我、したんだって?」
「たいした傷ではありません。」
「嘘つけ。」
「気づかなかった人に言われたくありませんね。第1ユリウス殿下が原因ですし。」
「俺!?」
流石にそこまで陛下も話さなかったようだ。ということは横領云々も話していないだろう。
余計なことは言わないに限る。まだ傷も治りきってはいない。何かあっても対処する自信はあるが、万が一にも不安要素は残しておきたくない。何かあるなら傷が治ってから、それがフィオーネの考えだ。
「フォオーネは休みとか欲しくないのか?」
「不要ですね。」
「即答…。」
「むしろ働いてない方が疲れます。」
「まじか。」
気にかけろの方向性が若干違うユリウスの提案は一刀両断したフィオーネ。
遊んでる暇なんてありませんし。
城にいても学園にいても諜報活動は行える。
城にいる間はスヴェン伯爵家、ガードン男爵家の動き、内情を探ることが出来るし、学園にいる間はジークとヴィヴァルディの事を探ることが出来る。
数日間の調査の結果呆気なく両家は黒であることが確認できた。しかし証拠を手に入れたくとも裏帳簿的な物は両家の当主が常に持ち歩くという用心ぶり。屋敷の金庫にでも入れたておいてくれれば盗み出すことが出来るのにそうもいかない。
とりあえず、国庫の取り扱いは一時的に全て国王陛下に申し出なければ開かなくしましたし、勝手には持ち出せないので今後横領される事はないはずですが、問題は警備や扉の開閉に関わるものが金で買われていた場合ですね。
親とは別にジークとヴィヴァルディは契約を交わしているらしい。学園で度々密会している2人の会話から知った事だが簡単に言うと、ジークがユリウスと仲良くなればスヴェン伯爵家は格が上がり箔がつく。揺るがぬ地位を手に入れたのちヴィヴァルディを養子にとり、ユリウスの婚約者に推薦する。その為にヴィヴァルディはジークへの絶対的服従を誓わされている。そしてジークも裏切らないという証を残している。
実に馬鹿馬鹿しい話だ。そんなトントン拍子に話が進むはずがない。ジークはユリウスと親友にでもなった気でもいるのか、自信満々に自らの父親に出世は確実!と言い放っているらしい。愚かさ満開の一方通行だ。頭の弱いヴィヴァルディが信じるのはまだしも、まだ若い子供の言う事を鵜呑みにするスヴェン伯爵もどうかと思う。
国王陛下の許可を得て、近衛兵の信用に足る人物を何名か諜報活動に当ててもらっている。故のこの速さだ。
やっぱり流石ですよね。
数日の動きを見て、近衛隊隊長補佐を任せられていた事を誇りに思ったフィオーネはトーリに感謝の言葉を述べて盛大に引かれたのでとりあえず殴っておいた。
色々と探っていることがユリウスに分からないよう、フィオーネは細心の注意を払い日々を過ごしている。学園から戻ったフィオーネに進展の報告があったのはそれから数日たってからの事だった。
密偵として伯爵家男爵家両家に潜入していた近衛兵が、両家が時期に密会するという情報を得たのだ。明確な日付もわかったらしい。 千載一遇のチャンスか、それともフェイクか。
「やつらにフェイクを挟む頭の良さはないだろう。」
トーリと国王陛下の意見だ。
私もそう思いましたけど、万が一にもって事があるかもしれないじゃないですか。頭のキレる人物は金を積めば雇えますし。
頭がキレるかどうかを見分ける能力もなさそうだが、それは今関係ない。せっかく尻尾を掴めそうなのだ。
「近衛兵隊長及び近衛隊に告ぐ。やつらの尻尾をつかめ。そして引き摺り出してこい。」
「「「は!!!」」」
「フィオーネはその日、やつらの子息達をここへ連れてくるように。浅はかな考えを打ち砕いてやらねばならぬ。」
「わかりました。」
国庫の横領は大罪だ。国外追放で済めばいいが、最悪の場合死刑もありうる。それほどの罪を平然とやってのけるのだから大したものだ。深く考えていないのかもしれないが。
この件を目の当たりにしてユリウスは何を思うのだろうか。何も感じないのか、それとも…。
まずは来るべき日に備えなくては。
フィオーネは気を入れ直すのであった。
スパイ映画カッコいいとか言っといて、文章で表現するの著しく苦手でした。
足早に進み過ぎた感が否めません。




