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豪腕令嬢は恋を知らない  作者: 馬輩騎
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王立ラムネス学園ーその2ー



偽鍛治職人をいなしたあと、大聖堂にやってきたユリウスは統制のとれた現場に満足気に微笑んだ。どうやら改装に入っている業者は信用に足る様子。

一体どこで人を見抜く力を養ってきたのかフィオーネは不思議に思ったが、身分を隠して留学したりするぐらいだ。そのくらいは朝飯前といってもいいかもしれない。

ユリウスに気づいた責任者が小走りでこちらへ向かってくる。




「ユリウス第一皇子殿下!お会いできて光栄です。挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。」


「堅苦しいのはいい。現場を見にきただけだからな。順調か?」


「はい。何事も滞りなく。」


「そうか、よろしく頼む。」


「はい!」




大聖堂からユリウスの執務室へと歩いている途中、窓から城の広大な庭が見える。そこには色とりどりの花々、木々から始まり、ティータイムを楽しむ東屋、生垣で作られた迷路のような小道(上から見ると素敵な模様になっている)、噴水、その他いろんなものが存在しており何時間いても飽きないであろう作りになっている。

フィオーネはそんな庭を見ているのが結構好きなわけだが、歩きながら見ていた為、ユリウスが立ち止まったのが分からず背中にぶつかってしまった。




「ぅっ…、すいません。」


「何を余所見してたんだ?」


「少し庭を。よく手入れが行き届いていますよね。」


「そりゃぁな。」




したたかに鼻を打ち付けてしまい、鼻をさすりながらフィオーネは答える。

フィオーネの身長は一般女性よりも高めだ。にもかかわらずユリウスの背中に鼻があたるとは、ユリウスも高身長だということか。


なんだか癪に触りますね。


ユリウスの容姿の完璧さがフィオーネにはウザかった。側近として傍に居なければならないということは、よってくる女性達も間近に見なければならないということで。

実際ここ数日で黄色い声を何度聞いたことか。




「おい、今俺に対して失礼な事を考えているだろう。」


「は?気のせいですよ。」


「…。」




側近となったからには職務を全うするつもりだが、ユリウスに対して気を使うから使わないかは別物だ。王族ゆえに最初は気を使っていたが、数日でほとんど気を使わなくなっていた。




「この後の予定は?」


「執務のみです。申請書類等たまっております。」


「わかった。軽く食うものを用意してくれ。食いながら見る。」


「かしこまりました。」




ユリウスの執務室には隣に備え付けの小さなキッチンがある。そこで軽食を作ったり紅茶を入れたりと自由に出来るわけだ。

何故だか知らないが、朝食、夕食はしっかりシェフが作った奴を食すくせに、昼食は軽食ですますのだ。そして何故か軽食を作るのは側近の務めらしい。


まぁ、私はある程度なら料理も出来ますし、美味しい紅茶が飲みたい一心で一時期研究してましたからお安い御用ですけど。


執務室の机には山積みにされた書類が置いてある。全て国王陛下きらユリウスへ横流しされたものだ。『ユリウスなら大丈夫だよね!』という陛下の心の声が聞こえる気がする。

書類の山を見て溜息をつくユリウスだがすぐに片付け始めるところは流石と言っていい。後回しにしないのだから、そこはまともだ。


というか、あの一件以外まともな所しか見ていない気がします。朝の悪ふざけはおいておいて。


椅子に座り書類を仕分けしているユリウスをみやり、フィオーネは軽食を作るためとなりの部屋へと向かう。扉で区切られていないため何か不審な物音がすればすぐにわかるようにはなっている。

今日の軽食は片手で持てるサイズの小さめサンドウィッチだ。眠気覚ましのコーヒーも用意する。執務机の邪魔にならない所に置けば勝手に食べる。

さて、ここからのフィオーネの仕事は簡単。1.ユリウスを見守る。2.ユリウス宛の書類の仕分け。3.ユリウスから頼まれる事をこなす。4.適宜飲み物も補給。以上。

その他今日は特質して何か用事があるわけではない。

側近の机も置いてあるわけだが、そこにユリウス宛の書類が山積みになっている。大半がデートの誘いだとかうちの娘嫁にどうですか的な内容だ。相当おモテになる。一方政策面に関してもユリウス殿下の意見が聞きたいだの、多方面でおモテになる。


皆さんこの人は性格に難ありですよー?

人の命軽んじてますよー?


声を大にして叫んでやりたいが、我が祖国が落ちぶれる姿など見たくはないのでお口にチャック。

ユリウスからはくだらない内容のものは破棄してよいと言われているため遠慮なく破り捨てる。軽いストレス発散になっているのはここだけの秘密だ。

書類の仕分けはすぐに終わってしまう。あとはユリウスに一度目を通してもらえばいいだけだ。

フィオーネはゆっくりとユリウスの方へ目を向ける。山は確実に減っているようだ。そろそろコーヒーが冷めてしまった頃だろう。温かいものに淹れなおそうか。

立ち上がってコーヒーを淹れ直し、ユリウスの近くに置いておく。




「…、フィオーネ。」


「はい。」


「終わんねぇ。」


「頑張ってください。」


「…お前は終わったとか言わねぇよな?」


「終わりましたよ。」


「…。」




素直に答えたらだまっちゃいました。


午後はゆっくりしたいと言っていた。しかし書類の山が片付く気配はあまりない。確実に減ってはいるが、それでもまだまだ残っている。手伝えるものも限られているし、フィオーネにはどうすることもできない。とりあえず甘いものでも用意しようかと隣の部屋からフィオーネ特製あっさりチーズタルトを持ってくる。




「少し休憩されては?適度な休息は業務を早めます。」


「そうだな。それは?」


「チーズタルトです。召し上がりますか?」


「あぁ。」




他の汚れない一口サイズ。フィオーネの気配りだ。まぁ、それに気づくユリウスではないけども。




「フィオーネは、何で騎士になんてなろうと思ったんだ?」


「何ですかいきなり。」


「興味。」


「何故と言われても…、刺繍やお茶会よりも自分にむいてると思ったから、ですかね。」


「クスクス、確かにな。」


「失礼ですね。」




拗ねるように顔を背けるフィオーネを物珍しそうにユリウスが眺める。どこか人と距離をとっているような硬い印象だったフィオーネの人間味溢れる表情は、誰しもを虜にする。




「そんな可愛い顔も出来たんだな。」


「何気色悪いこと言ってるんですか。ほら、休憩はお終いです。」




照れを隠すかのように早口に告げれば笑いながら再び書類に向き合う。




結局その日の午後は執務漬けで、ユリウスに本を読む時間は無かった。

明日から学園生活が始まる。






さて、一体どうなることやら。









グダグダですみません。とにかく眠い。

次から学園生活がスタートします。

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