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豪腕令嬢は恋を知らない  作者: 馬輩騎
11/28

王立ラムネス学園

学園編が始まりますがその前に少しだけユリウスの才能を垣間見れたらと思います。

ユリウスの側近となったフィオーネには新たに部屋を与えられた。今までの宿舎ではなく、より王族に近い位置の部屋だ。

制服もなくなり、側近として動きやすくきちんとした服装をしている。今までは決まった制服を着ればいいだけだったが、今ではフィオーネ自身が服を選び身につけなければならない。


正直言って非常に面倒です。


側近になって少しずつ面倒事が増えている気がするフィオーネだった。






朝早く起きてまずすることは、本日のユリウスの予定の確認だ。第一皇子としての務めは多岐にわたるが、仮病を言い訳に留学していたユリウスにはそんなに公務も執務もあまりない。よって1日の大半を暇しているのである。

いつものごとくドレスではなくスラックスにシャツetsに袖を通したフィオーネは国王陛下に呼ばれていたため急いでいた。朝食もそこそこに国王の執務室へと向かう。




「おぉ、来たかフィオーネ。」


「遅くなり申し訳ございません。」


「よい。突然呼んだのは私だからな。」




陛下の隣にはティエリアス公爵もいる。


一体何のお話でしょうか。




「ユリウスだが、王立ラムネス学園へ通わせようかと思っていてな。」


「学園へ、ですか?」


「フィオーネにとっては母校と言えような。留学していたとはいえ、この国の教育を受けないわけにはいかぬ。」


「はい。」


「明日から通わせる予定だ。フィオーネも側近として付いて行ってくれ。」


「わかりました。」




心配そうにしている公爵に困ったように笑みを返し、執務室を後にした。

そろそろユリウスも起きる時間だ。明日から学園に通うとなると、今日中に明日以降の用事を済ませておかなければならない。

ユリウスの自室へ向かうとメイドが困ったように扉の前に立っていた。




「何かありましたか?」


「フィオーネ様。あの、内鍵がかかっておりまして、扉が開かないのです。」


「わかりました。危ないですから下がっていてください。」


「はい。」




メイドが後ろへ下がったことを確認し、扉へ回し蹴りを決める。ガコン!と音を立てて扉が外れ、内側に倒れた。部屋の中、ベッドの中から目を丸くしたユリウスがこちらを見ているが気にしない。




「では、ユリウス殿下の朝の用意を。」


「「はい。」」




メイド2人が中へ入り、ユリウスの服など身なりを整えていく。着替え終えると同時に朝食が運ばれてきた。

朝食を取りながらユリウスはため息をついた。




「フィオーネ、お前には限度というものがないのか?」


「殿下には恥というものがないのですか?」




質問に質問で返せば図星を突かれたのかユリウスは黙り込む。まるで子供のような嫌がらせをしてくるのだから、フィオーネが扉を蹴破るぐらい許せというものだ。




「本日の予定ですが」


「どうせやることなどそんなにないだろう?」


「明日より王立ラムネス学園に通われる事になりましたので、本日中に明日以降のご予定を片付けなければいけません。」


「…また父上か…?」


「国王陛下がお決めになった事です。」


「…はぁ。」


「今まで好き勝手してきたのですから仕方がない事だと思いますけど。」


「そこ、貴族はほとんど通っているだろう?」


「そうですね。」


「…はぁ…。」




頭を振りながらため息をつくユリウスは珍しく本気で嫌そうだ。




「ご友人はいらっしゃらないのですか?」


「いる。だが行くのはめんどい。」


「我慢してください。」




嫌そうな顔をしながらも朝食を摂り続けるユリウスに今日の予定を告げていく。




「午後それだと予定が空くな。」


「そうですね。およそ2時ごろには終了するかと。」


「じゃぁその後は裏庭でのんびりさせてもらう。」


「わかりました。」




予定さえ終えてくれればそれでいい。あとは後ろで見守っていればいいだけの簡単なお仕事。




ユリウスが帰国後国王陛下から任されているのは主に城内の管理だ。といっても騎士達は管轄ではないためもっぱら確認事項ばかりになってくるのだが。たまに訓練と称して騎士と試合っているが、嫌味な事に腕も立つため城内でユリウスに勝てるのは限られた人のみだ。一度フィオーネも試合に誘われたが断った。主人に手はあげられないといっておいた。


もし勝ってしまった場合、とても面倒な事になるのは目に見えていますしね。




「今城内ではどんな動きがある?」


「はい。昨年修繕工事は終了しておりますが、定期的に改装、メンテナンスが必要な場所は適宜業者が入っております。現在は城の西側にあります大聖堂を行なっております。」


「ふむ。身元の確認がとれている業者か?」


「はい。」


「そうか。後で見に行く。それから?」


「大人数のまとまった出入りはそれだけですね。他は宝石商や仕立屋、鍛冶屋などが定期的に出入りしております。お抱えの商人達ですのでこちらも身元ははっきりしております。」


「今日来る商人はいるか?」


「鍛冶屋です。騎士団の武具の新調が何件か入っているようです。もうそろそろ来る時間ではないかと。」


「一度会っておきたい。」


「かしこまりました。商人には知らせずにおきますか?」


「そうだな。その方がいいだろう。」




前もって報せを出せば、もしろくでもない鍛冶屋だった場合繕う時間を与えてしまう事になる。それはできれば避けたい。ユリウスの考えを読み取りフィオーネは動いていく。

鍛冶屋が来る事になっているのは騎士団の所。職人を呼ぶのはトーリの仕事だ。トーリの元へ行くのが手っ取り早いだろう。そうフィオーネは考え近衛兵の執務室へとユリウスを誘導する。

執務室へ入るとちょうど鍛冶屋が来たところで、お茶を飲みながら寛いでいた。




「邪魔をするぞ。すこし貴殿と話がしたい。構わないか?」




ユリウスから声をかけられ驚いている鍛冶屋だったがすぐに平静を取り戻し笑顔で頷く。




「もちろんでございます、ユリウス第一皇子殿下。お目にかかれて光栄でございます。」




ユリウスの眉がピクリと動く。


この鍛冶屋に何か感じ取りましたかね。確かに笑顔が胡散臭いですが。


トーリに何事かとフィオーネは問われ、ユリウスの意向を伝える。実はこの鍛冶屋に頼むのは今日が2回目らしく、おかかえの鍛冶屋ではないらしい。店主が体調を崩してしまったため一時的に違う職人を探したそうだ。




「いつからこの仕事を?」


「もう十数年になりましょうか。まだまだ未熟者でございます。」


「1日にどれほどの武具を打っているんだ?」


「日により注文状況は違いますから。」


「多い時は大変だろう。1人でやっているのか?」


「いえ、弟子が何人かいます。ですが、成長途中でして…。」




一見、世間話をしているように見えるが、違う。鍛治職人というのは年数を重ね一人前になればなるほど受け答えが決まってくる。ユリウスは受け答えから信頼できる人物かどうかを見ているのだ。




「貴重な話が聞けた。感謝する。」




ユリウスが手を差し出して握手を求める。嬉しそうに手を握り返す鍛治職人だが、徐々に顔をしかめていく。手を離そうとしてもユリウスが手を離さないからだ。




「ユリウス第一皇子殿下?」


「よく白々しく知ったように受け答えができたものだな。感心してしまう。」


「な、何をおっしゃっているのです?」


「貴様、鍛治職人ではないな。」


「お、おっしゃっている意味がよく、わかりません。」


「十数年間武具を打っていると言ったな。では、豆も何もないこの手はなんだ?1日の注文状況で打つ数は変わるとも言っていたな。一流の鍛治職人は1日に打てる数量を把握している。日により変動などありはしない。」


「そ、それはっ」




どんどん青くなっていく偽の鍛冶屋。ユリウスの後ろに控えているフィオーネの隣で聞いていたトーリは、拳を握りしめていた。




「その胸にある証書は闇売人の証書であろう?粗悪な武具を高値で売ろうとでも思ったか?都合よくそんなものを城の騎士団が買うとでも?」


「ひ、ひっ!」


「この者を捕らえろ。」


「はっ!」




ユリウスの指示に従いトーリが部下に指示を出す。ぎゃんぎゃん騒ぎ立てる売人は両脇を抱えられて部屋から出て行った。

トーリはユリウスに頭を下げる。




「ユリウス殿下、ありがとうございます。あのような者を城に招いてしまったのは私の落ち度です。申し訳ございません。」


「いや、間に合ってよかった。いつもの鍛冶屋に使いを出そう。」


「確かご子息が何人かいたはずです。以前店主とともに城に来たこともありますから、いざとなればご子息が来れるのではないでしょうか。」


「ユリウス殿下。感謝してもしきれません。」


「騎士としての大義を果たしてさえくれれば、これぐらいお安い御用だ。」




こうしてきちんと仕事をしていれば、少しはまともな人に見えるのに。普段力を抜きすぎているんですよユリウス殿下は。





一個解決笑

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