はじまり
読みづらいかもですが…
ユリウス第一皇子の側近、新たな役職を与えられたフィオーネ、これまでこなしてきた仕事とは全く異なる仕事内容を覚えるのに必死だ。内容自体はすぐに頭に入るが、なにせ相手はこの国の第一皇子。失礼があってはならない立場の方だ。
国王陛下の側近のエンヴィーにこれからの事を教えてもらう。本来であればユリウスの側近に引き継ぎをしてもらうはずだが、どうやらそちらにも問題があるようだ。国王陛下からは何か言ってきたら奴にこれを見せなさいと書状を預かっている。
「以上が側近としての仕事の流れですが、何か不明瞭な所はありますか?」
「いえ、丁寧に説明してくださりありがとうございます。慣れない仕事ですので、何かとご迷惑をおかけするかもしれません。」
「フィオーネ殿でしたら大丈夫ですよ。」
「そうでしょうか。」
「はい。陛下もそう信じておられます。」
「頑張ります…。」
「ユリウス皇子は今の時間執務室におられます。側近もあると思いますが、彼は今日で事実クビです。私も共に行きましょう。」
「助かります。」
どうなることやら、ですね。
案の定ユリウスは執務室におりその隣にいるであろうと思われた側近はソファで眠っている。
「はぁ…、やはりこうなっていましたか。ユリウス皇子。」
「ん?あぁ、エンヴィーか。何か用事か?」
「ええ。この馬鹿の解雇と、新しい側近を紹介に伺いました。」
「…父上が決めたのか?」
「そうです。」
機嫌悪そうに顔をしかめるユリウスであったが、エンヴィーの背後にフィオーネを見つけて目を見開く。
「…フィオーネが側近になるのか?」
「はい。」
しばらく考えたのち、ユリウスは国王陛下の決定に同意した。
ソファで相変わらず眠っている馬鹿はエンヴィーが抱え上げて持っていった。残されたフィオーネはユリウスからの視線に戸惑いながらため息をつくのを堪え、胸に手を当て礼をしながら改めて挨拶を述べる。
「本日よりユリウス殿下に仕えさせていただきます。未熟者ゆえ至らない点あるかと存じますが、宜しくお願いいたします。」
「あぁ、宜しく頼む。ちょうどあいつにも飽きてきた所だったんだ。」
あいつとは、連れていかれた元側近の事でしょうか?
「もう傷はいいのか?」
「はい、このとおり。殿下に使えるに際しては全く支障ありません。」
「にしても、普通あそこで庇うか?あのまま切らせりゃよかったのに。」
悪びれもせず切らせればよかったなどと言ってくる。少し収まりかけていたフィオーネの苛立ちが復活しかける。
「私は騎士です。騎士としての務めを果たしたまでのことです。…ユリウス殿下こそ、何故あのような事をしたのですか?」
「わかっていてあの位置で止まったことか?」
わかっているなら話は早い。
肯定の意を示して頷く。
「あの女が誰だか知ってるか?」
ユリウスは吐き捨てるように問いかけた。
あの時フィオーネは庇うことに必死で顔はまともに見ていないし、記憶も曖昧だ。
「いえ、顔を見ていませんから。」
「ふっ。自称第一皇子の婚約者ヴィヴァルディ男爵令嬢だ。」
そこでハッとする。ヴィヴァルディ・セント・ガードン男爵令嬢と言えば、貴族の間では一言も良い噂を聞かない。ガードン男爵は己の儲けのためなら良心すら捨て去る馬鹿男だ。その娘、もちろん性格は色濃く受け継がれている。
だからといって傷つけていいわけではないけれど。
「ですが、ヴィヴァルディ男爵令嬢が傷を負えば、殿下を守ったという白がついてしまいます。それは不本意なのでは?」
「あぁ、だが、俺の元から遠ざけるには1番だろう?傷ついた女に興味はないと告げれば。」
「…それで彼女が諦めるとは思えません。」
「なんだ、知り合いか?」
「いいえ。面識もございません。ただ、あの類の女というものは厄介でございます。」
「ほぅ。」
学園に通っていた頃、フィオーネの才能に嫉妬した愚かな令嬢達が何人かいたのを思い出した。
形は違えど、同類だろう。
しかし、ユリウスのやり方は気にくわない。
「1つだけ、側近として意見させていただきます。」
「何だ?」
「ユリウス殿下の今回のやり方は間違えています。人の命を、人の血を軽んじる行動は最初は分からずとも後々表に出てくるものです。その時、誰が支持しますか?誰が付いていきたいと思いますか?少なくとも私は嫌です。」
「なんだと?」
「では質問させていただきます。王族はどのようにして生きていますか?生活の基は何ですか?」
「そんなの己の知能や才能だろう。」
「違います。」
「…」
「王族は、国民なしでは生きられないのです。国民から集められた税であなた方は暮らしているのです。この国から国民が消え、王家の人間だけになったとしたら。勤勉に働き、国を潤している国民がいて初めて、生を受けることができるのです。」
フィオーネの話を遮るようにしてユリウスは執務机を殴った。その目には怒りを宿している。
やはり、これぐらいで逆ギレしますか。
フィオーネは呆れていた。次期国王と言われている第一皇子がここまで国の成り立ちについて理解していないとは。
「誰に向かって口を聞いている。」
「ユリウス第一皇子殿下にです。」
「貴様っ」
「この言葉を聞いて激昂なさるのは殿下が低能な証拠です。」
「なっ!」
「この言葉は国王陛下が以前訓話として国民に話してくださったものです。留学中の殿下は聞いていないかもしれませんが、この言葉を侮辱するということは、陛下を侮辱するも同義。」
「…ちっ。」
何とも愉快である。頭の切れる人間を言い負かすのは。
フィオーネは満面の微笑みで次の言葉を述べた。
「これからよろしくお願いいたしますね、ユリウス殿下。」




