ゆめの女の子
ゆめでずっといっしょだった女の子が、いつのまにかいなくなってしまったんだ……。あの子、はねがはえていたのに、とばないで、ずっとぼくといっしょに、あるいてくれていたの……。だのに、もうどこにもいない。むかし、いっしょにいよう、ずっといっしょにいようって言った仔猫が、おおきなすいそうのなかに落ちて、ふたがしまってひらかなくなったことがあった。ぼくはいくらすいそうをたたいても、たたいても、どうにもならない。仔猫はすいそうのいちばんしたにしずんで、うごかなくなった。赤や白や黄色のきんぎょが、しらん顔して泳いでいたっけ。きれいだった。ぼくはじっとじっとうごかずにいて、すいそうをながめていて、きんぎょはぼんやりと夜にうかぶあかりのようだったな。あのときからぼくはゆめをさまよっているような気がする。仔猫、たしかおすだったかめすだったか。ぼくにはわからない。ただいつしか、ゆめでぼくをはげましてくれる女の子がいるようになった。まわりには、いくつもあかりがともって、めまぐるしく色がかわってぼくをのみこもうとしたこともあった。女の子はいちどぼくにかぎをくれたことがあったけど、ぼくはその使いかたがおもいあたらないでいた。かぎのさきっぽはナイフの切っ先のようにするどくて、ぼくはそれで女の子を傷つけるべきかどうかまよった。ほんとうに使いかたがわからなかったのだもの。ゆめのなかはくらいけど、たしかにうっすらぴんくいろをしていた。ぼくはぴんくがしろくかげっている一点に、かぎをすててしまった。女の子はやさしくほほえんでいた。おおきなきんぎょの死骸がいっぴき、そらをながれていった。あめだまのにおいがした。それから、ゆめの女の子がいなくなった。