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インスタントレインボー  作者: 神ヶ月雨音
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六話・燈灯の契約者

二人が旅に出て早三日。エルナもようやく慣れたようで、元気いっぱい雨音に着いて歩いている。

「雨音―、あとどれくらい?」

「んー、それはわかんねえけど、このままだと予定通り明日には着くな」

「りょーかい!」

 もはや日課となった干し芋を取り出して二人で頬張りながら歩く。ここら一帯は山岳地帯で、雨音とエルナが始めて出会った時を想起させた。

「もうお前と出会って何日経った?」

「一週間ちょっとかな?」

「まだそんなもんなのか……」

「まあ、バタバタしてたからね」

「お前が言うな」

 実際、まだ一週間と少ししか経っていないとは思えないほど、二人は仲良くなった。元からそれなりに仲は良かったが。エルナは雨音をより信頼するようになった。と言うより、懐いているといったほうが正しいかもしれない。一方雨音は、最初期と比べて確かにエルナへの信頼は深まったが、心の奥底はまだ見せないようだった。いつかニックが言っていた幼馴染の話も、話すそぶりは無かった。

「なんかもう二ヶ月くらい一緒みたい」

「まあ、わかる」

 二人は時折休憩を挟みながら、着々と目的地へ向けて歩いていた。雨音の冒険譚と小説があったため、幸い話のネタには困らなかった。

 正午を過ぎた頃。昼食を食べ終わり、休憩を終了して歩き出した二人だったが、数分歩いたところで雨音が立ち止まった。

「どうしたの?」

「誰か来る」

「へ?」

 立ち止まっていると、雨音の言った通り前方から二人組みの男女がやって来た。

「まって、この気配……」

 エルナが少し驚いたようなそぶりを見せる。

「なんだ。せっかく使徒の反応がしたから来てみれば、ポンコツエルナじゃねえか」

「ポンコツじゃないもん! ひどいよエイジ!」

「ってことは、お前も契約者か」

「せや。ウチは荒崎勇姫(あらざきゆうき)。男っぽい名前やけど、れっきとした女や」

 勇姫と名乗った少女は、オレンジ色のローブと手袋を身につけている。

「ご丁寧にどうも。俺は神ヶ月雨音。しがない物書き兼冒険家だ」

「ポンコツエルナのペアってことは、もう負けた組か?」

「ポンコツじゃないし負けてないもん! フーリとは引き分けたけど!」

「威張るのお前じゃないけどな」

「フーリがか。まあ、契約者の意向だろうな」

「ふぅん。まだ生き残っとるんや」

 一瞬で勇姫の目つきが変わる。

「悪いけど、アンタには、負けてもらうで」

「どうやら、余程勝ちたいみたいだな」

「そうや。ウチは絶対勝たなあかんねん」

 勇姫の雰囲気を察して、雨音も目つきを変えた。普段は身に着けていない白のローブと手袋を着用し、臨戦態勢に入る。

「あ、着るんだそれ。いつも着てないから」

「契約者として戦うときだけって決めてるんだよ」

「やる気は、ちゃんとあるみたいやな」

「もちろん」

 雨音と勇姫がにらみ合う。

「改めて名乗ろう。我が名は神ヶ月雨音。白夢の契約者だ」

「そして私は異空の十二使徒、白夢のエルナよ」

「じゃあウチも名乗らせてもらうわ。我が名は荒崎勇姫。燈灯(とうひ)の契約者や」

「そして俺は異空の十二使徒、燈灯のエイジだ」

 雨音と勇姫の視線が絡み合い、一瞬の間のあと、勇姫が雨音目掛けて飛び掛った。

「っ!?」

 勇姫は雨音の反応速度を超えた速さで雨音に詰め寄り、右拳を振りぬいた。雨音はなんとか紙一重で避けたが、次は左足の蹴りが放たれた。反応が遅れ、雨音のわき腹に直撃する。そして出来た一瞬の隙に、勇姫の拳が雨音の鳩尾を捉えた。衝撃で後方へ吹き飛ぶ雨音を、勇姫は少しがっかりしたような目で見つめた。

「なんや、こんなもんか。これやったら、そのフーリとやらの契約者もたいしたこと無かったんやろうな」

 雨音は軽々と立ち上がり、ローブについた土を払った。

「様子見ってやつだ。お前の思ってるより、俺も怜も強いぞ」

「口だけじゃないことを祈るわ」

 勇姫がまたしても突っ込んで来る。雨音はすぐさま本を開いた。

    魔法発動:創造造形

 剣を召喚し、勇姫の攻撃を受けきった。勇姫の手袋は特殊なのか、刃を真っ向から受け止めている。

「残念、強化系の魔法で強化しとるんや。生半可な刃物は通らんよ」

「じゃあ打撃武器として使うとするかな!」

 鍔迫り合い状態から一歩退き、勇姫の体目掛けて斬撃を繰り出す。全身の衣服を強化しているようで、斬撃は通らない。雨音は顔面へ飛んできた右ストレートをかわし、右足で勇姫を蹴って引き剥がした。そして休む間もなく詰め寄り、連続で斬撃を繰り出す。雨音の出せる最高の速度での連撃を、勇姫はたやすく受けきっている。

 勇姫は雨音の攻撃を弾き、雨音の連撃の手を止めた。すさまじい蹴りで雨音の剣を弾き飛ばすと、鳩尾に一発拳を入れた。

「がっ!」

「まだまだ、ウチのほうが上やな」

    魔法発動:アタックエンハンス

 攻撃力強化魔法を自身に付与し、勇姫は連撃を繰り出した。次々と目にも留まらぬスピードで繰り出される打撃たち。それらに統一性は無く、また規則性も無い。最初はなんとか受けきっていた雨音だったが、防ぎ損ねた左足の一撃を機に防御が崩れ、しまいには全てをもろに受けてしまった。

「はぁっ!」

 最後の一撃を受け、雨音は吹き飛んだ。後方に聳え立っていた山の岩肌に叩きつけられ、地面に倒れこんだ。

「雨音!」

「勝負あったんちゃうか?」

「どうするエルナ。負けを認めるか?」

「あの様子やと、敗北宣言もできんやろうし、ウチとしても殺したくはない。どうするんや?」

「そんな……」

 地面に倒れこんだまま動かない雨音。二人の威圧に押され、エルナも小さくなる。

「負けたくない。でも、雨音が……」

「じゃあ、敗北を認めるんだな?」

 エイジが睨みつける。エルナが頷こうとしたそのとき。

「おいおいちょっと待てよ。俺はまだ負けたなんていってないぜ?」

 ボロボロながらも、雨音が立ち上がって言った。フラグの回収が早い。

「雨音!」

「まだ立てたか」

「まだやるんか? さっきのでわかったやろ。アンタの速さはウチには敵わん」

「追いつけないなら、追い越せるようにするだけさ」

    魔法発動:ソニックエンハンス

 勇姫の認識が追いつくより速く、雨音が目前に迫る。いつの間にか、右手には剣が握り直されていた。

「速いっ!?」

 雨音の斬撃が勇姫を襲う。勇姫は先ほどと同じように受け止めようとしたが、雨音の剣のほうが速かった。

「なっ!」

 刃は通らずとも、斬撃が勇にダメージを与える。雨音は休むことなく、連続で斬撃、打撃を打ち込んでいく。先ほどまでとは違う、勇姫の連撃を超える速度の連撃。

(なんで急にこんな速く……まさか! でもそんなことできるんか!?)

 先ほど雨音の使った魔法、ソニックエンハンス。本来は自分の動く速度を上昇させる強化魔法だが、雨音はそれを応用し、自身の攻撃速度の上昇に使ったのだ。勇姫が防ぎきれたとはいえ、雨音の攻撃速度は遅いわけではない。そこに速度強化の魔法を加えれば、単純な足し算で雨音の方が上回る。

 雨音の連撃は続く。先ほどまで受けたダメージを返すように、手を休めず攻撃を叩き込む。

    魔法発動:バーストエンチャント

 雨音の剣の切っ先に魔力が籠り、熱を帯びる。雨音が突きを繰り出すと、切っ先から爆発が起き、勇姫が後方に吹き飛んだ。一回限りの爆裂効果を付与する魔法だ。

「さっきまでのお返しだ」

「くっ、やるやんか……。でもウチは、負けるわけにはいかんのや。こんなところで終わるわけにはいかん」

 勇姫はまだ立ち上がる。最初に雨音が言っていたように、どうやら余程勝利への執着心が強いようだ。

「ウチは勝たなあかん。エイジのために、勝たなあかんのや!」

「勇姫、お前……」

「いくでエイジ! 次で決める!」

「ああ、わかった」

 二人の魔力が絡み合う。この感じは、雨音も知っていた。フーリと怜がやって見せた、奥義の予兆。

「「燈灯の名の下、此処に我らが勇気を示す」」

 構築された魔力が、勇姫の両の拳に宿る。純粋な攻撃力強化系か、必殺の一撃系だと雨音は推測する。

「覚悟しいや」

 勇姫は雨音目掛けて跳躍し、拳を振りかぶる。先ほどまでのダメージが噓かのようなスピードだ。

「打ち砕け!」

    『ブレイヴレオ』

 魔力の籠った勇姫の右拳が、雨音の体躯を軽々しく吹き飛ばした。


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