ー残暑の章35- 神帝暦645年 8月22日 その19
ふーーーん。ユーリはその伝説のスクール水着を団長に買ってくれと頼みたいくらいに欲しがっているのかあ。しっかし、ユーリも年頃の娘なんだなあ。いったい、誰にその水着姿を見せたいのやら? 父親の俺としては少し複雑な思いであったりもする。
「べ、別に、お父さんには関係ないでしょー! あたしが誰を好きだなんてー!」
「うふふっ。ツキト? あんまり年頃の娘をいじるのはやめておいたほが良いのですわ? 下手をすると1か月間ほど、口を利いてもらえなくなりますわ?」
「それは嫌だなあ。俺って、こう視えても、結構、繊細なんだよ。ユーリにお父さん、あたしのベッドで寝てたでしょーーー! 加齢臭がしみついてるよーーー! って言われて、凹むくらいなんだよなあ……」
「そ、それはお父さんがあたしのベッドで寝るのが悪いんでしょうがー。ほ、本当だったら、それだけで1カ月は口を利くつもりはないんだからねーーー!?」
ったく、なんで、自分の娘のベッドの上で寝転がっただけで、ここまで言われなきゃならんのだろうなあ? 年頃の娘を持つ世の中のお父さんたちってのは、家の中ではこんなに肩身の狭い思いをしているのかなあ?
「まあ、ツキトくんは、今年で40歳になりましたからねえ? だから加齢臭はどうしても出てくるものですよ。ユーリくんもそんなに邪険に扱わないでやってください? ニンゲン族には、どうしようもないことですから」
「ウキキッ。その点、エルフ族って加齢臭がしなさそうなのでうらやましい限りなのですよウキキッ!」
「ヒデヨシ殿。エルフ族も100歳を超えるとさすがに男連中は加齢臭が漂うことになるのだゴマー」
エルフって長命だけじゃなくて、加齢臭が漂い出す年齢も遅いんだなあ。なんか、うらやましいような悲しいような気持ちだぜ。
「ああ、ハイ・エルフの長老とか、死臭じゃないじゃないですか? これって思うような臭いを出してますもんね。でも、不思議ですよね。セナくんは140歳くらいのハイ・エルフなのに加齢臭はしませんよね?」
へえーーー。エルフ族の女性はそもそも加齢臭がしないってことか? って、ちょっと待て。
「おい。団長。なんで、団長がセナ姫の身体から加齢臭がしないって知ってんの!? それって、かなり大問題に発展するような発言なんだけど!?」
「それは先生とセナくんがかつて、そんな関係だったこともあるからに決まっているからじゃないですか? いやあ。先生、まさか、年齢140歳くらいの女性とイチャイチャする関係になるとは思ってもいませんでしたねえ?」
あかん。団長ならエルフのひとりやふたり、食べていることは予想していたが、さすがにハイ・エルフを食べてたのは思定外だった。
「ちなみに聞いておくけど、なんで、歳の差100歳もある女性とイチャイチャしてみようと思ったわけなんだ? 団長」
「そりゃ、好奇心からに決まっているじゃないですか。胸にスイカをふたつ実らせてたら、そりゃ、男なら誰でも一度はお相手つかまつるってなりませんか?」
「い、いや、そうだけどよ? でも、団長。三河のセナ姫だぞ? 前々から、団長が気難しいハイ・エルフと付き合いがあるのか不思議に思ってたんだけど、まさか、一発ヤッていたなんて、誰が想像するんだよ?」
「いえ? 一発どころじゃありませんよ? 先生も20代の時でしたし、今と違って、いちもつが親指の角度でしたからね? そりゃ、ひと晩に最低3発はヤッていましたよ?」
「いちもつが親指の角度ってどういうことー? あたしにもわかりやすく教えてよー?」
「うふふっ? ユーリに教えるにはまだまだ早い話なのですわ? まあ、結婚すれば嫌でもわかりますので、今は知らなくても良いことなのですわ?」
アマノさん。その辺、上手くごまかしておいてください。お願いします。男親が教えることじゃないからな?
「さて、話が横道にそれちまったな。しっかし、この伝説のスクール水着をどうしたもんかなあ? 使用権がユーリにある以上、もう、店の売り物として出しておくわけにもいかなくなるだろうしなあ?」
と俺が独白していると、店の奥に引っ込んでいたジョウさんが、木箱を抱えて、戻ってくるのである。
「お待たせしたんだデュフ、ノブナガ殿。修繕費は銀貨90枚なんだデュフ。本当は金貨1枚と言いたいところデュフけど、これからも、ぼくちんのお店を利用してくれることに期待を込めて、サービスさせてもらうんデュフ」
うお、すげえな。俺とアマノ、ユーリ、そしてヒデヨシの4人の防具の修繕費が合わせて銀貨50枚程度だっていうのに、団長の防具はその2倍の金貨1枚も請求されるってか。さっすが、A級冒険者さまが装備している防具ってのは、修繕費も高くつくもんだなあ?
「おや? そんな安くて良いんですか? 金貨2枚くらい請求されるモノだと思っていたんですが? いやあ、ジョウさんに防具の修繕を頼んだのは大正解だったのかもしれませんね?」
「期待値込みでの修繕費デュフ。これから、長くごひいきされることを思えば、最初はサービスしておくってものが商売人ってもんデュフ」
「ふむ。良いですね。その商売人魂は。これで防具作成の腕が一流一歩手前ではなく、本物の一流であったなら、良かったんですがねえ?」
「団長。そこは欲張りすぎだぜ。ジョウさんはまだ30歳なんだ。職人ってのは、どうしても技術が身につくには時間がかかるってもんだ。それだからこそ一流一歩手前なんだぜ?」
「まあ、そうですね。あんなにボロボロだった防具を改修してくれただけでもありがたいと思うべきなんでしょうね。先生としたことが、つい欲張ってしまいましたよ」
まあ、団長は欲張りなのが性に合ってるんだけどな? なんたって一門名を【欲望の団】なんてしちまうくらいだしなあ。
「ぶひひっ。ぼくちんのお店では呪い付きの防具なども、数多くそろえているんだぶひい。他の店には無い品ぞろえなんだぶひい」
いや、ジョウさん。呪い付きの防具の陳列数で他店と競い合うのは根本的に間違っている気がするぞ? いや、待てよ? ジョウさんは、常に邪悪なオーラに包まれているから、それはそれでセールスポイントとしては有りなのか!?
「ほう。それは面白そうですね? ちょっと、店内を物色して良いですかね?」
「どうぞ、どうぞなんデュフ。もちろん、ぼくちんが解説させてもらうのデュフ!」
あらら。団長が呪い付きの防具に感心を持ってしまったぞ? さあて、【欲望の団】では、団長が買った呪い付きの防具を試着させられるのは誰だろうな? とそんなことを思いながら、俺はヒデヨシのほうに顔を向けると、ヒデヨシはぷいっと俺から視線を外し、顔を横に向けてしまうのである。
こりゃ、今回も被害を受けるのはミツヒデで決定だろうな。うちの一門でそういった損な役割はミツヒデが担当と相場が決まっているもんなあ?
「ふむふむ。身に着けると魔力を吸い取られ続ける【呪いの腕輪】ですか。なかなかレアな防具を取り扱っているんですね。これをミツヒデくんにでもつけてもらって、クエストに行ってみますかね?」
はい。ミツヒデ。やっぱりお前が装着させられそうだぞ?
「でも、良いのか? 団長。そんなもんミツヒデに装備させたら、戦力ガタ落ちだろうが。ひるがえっては団長が危険な眼にあうことになるぜ?」
「ああ。これの本当の効果を知らないんですね? ツキトくんは。これって、魔力を吸い取ると同時に、この腕輪の中に魔力が溜まっていくんですよ。そして、許容量を超えた魔力を吸い込ませると、この腕輪は自壊するんですよ。そして、自壊したと同時に今まで溜まった魔力が開放されて、一時的ですが、装着者の魔力の桁が跳ね上がるんですよ」




