ー残暑の章28- 神帝暦645年 8月22日 その12
「ふと思ったんだけどさ? 魔法の武器や防具は作れないけど、なんで、魔法の道具は作れるわけなんだ? その辺り、ジョウさんは解説可能なのか?」
「難しいことを聞いてくるデュフね? ぼくちんは防具には詳しいデュフけど、魔法の道具については詳しくないと言ったばかりデュフよ? さわり程度にしか解説できないデュフけど、それでも良いデュフか?」
ジョウさんがめずらしく申し訳なさそうな感じで、俺に言ってくるのである。
「ああ、構わないぜ? 今まで、あんまり気にしたことはなかったんだけど、もののついでだから教えてくれよ?」
「うふふっ。ツキトは、歴史関係に興味はあっても、レアな武器や防具、それに道具に関してはあまり興味がなさそうなのですわ?」
「アマノ。まあ、好きこそものの上手なれってやつだよ、そこは。歴史を学ぶってことは、戦術や戦略を考えるうえでも役立つんだよ。俺がC級冒険者でありながら、団長みたいなA級冒険者のクエストに連れ回されても、なんとか生き残れているのは、その知識、いや、知恵って呼ぶべきだな。その知恵のおかげってわけだよ」
「お父さんは自分や徒党が使っている武器や防具やよく使う道具にだけしか、興味ないもんねー? だから、お父さんに、この武器ってどうなのー? って聞いても、知らん! そんなの団長に聞け! で話が終わっちゃうもんねー?」
「そりゃ、徒党の使う得物に関して詳しくなっておかなきゃならないのは当たり前の話だけど、役に立つかどうかわからん知識なんて、頭の中に入れるだけ無駄ってもんだ。なあ、ヒデヨシ?」
「ウキキッ。普通は徒党が使う得物と防具の質と、それぞれの闘い方だけ知っていれば、事足りる話ですウキキッ。A級冒険者のようなニンゲンをやめているクラスでもなければ、大体、似たような闘い方になるのですウキキッ!」
「ふーーーん。出来るなら、武器や防具に関する知識を詰め込めるだけ詰め込んでおいたほうが、モンスターとの闘いが楽になると思うんだけどなー?」
ユーリが不思議だなー? って顔つきでそうひとり呟くのである。というわけで、俺は補足説明をすることにしたわけだ。
「えっとだな。槍なら、叩く、突く、横に払うじゃんか? まあ、たまにぶん投げる馬鹿もいるんだけどさ? そんな自分の手から武器を手放すような馬鹿な闘い方をする奴は死んでもらって良いんだけど、そう言った論外な奴以外は基本に忠実な闘い方をするんだよ。ニンゲン、訓練で出来ない動きを本番で出来るわけがないからな?」
「うふふっ。ですから、基本さえ押さえておけばいいのですわ? あと、皆が皆、自分の考えている通りの動きが出来るわけでもないのですわ? そこにはそのひと本人の性格や癖といったものがありますわ?」
「槍ならもっとこういった闘い方が出来るとかっていう知識を仕入れたところで、実際に徒党を組んだニンゲンが、そんな動きを出来るわけじゃないわけだ。もっとわかりやすく言うと、団長が出来ることを誰しもが出来るわけじゃないから、団長の動きを覚えるだけ無駄ってことだ」
「なるほどー。ニンゲンをやめている団長の動きなんて、お父さんが出来るわけがないもんねー? 団長を基準にしてたら、うまく徒党が回らなくなっちゃうってことだねー?」
「そういうこと。だから、今現在、組んでいる徒党の武器とそいつらの性格というか、闘い方を知ったほうが良いわけよ。知識を身につけるのは悪いことじゃないけれど、それを生かせる知恵がなけりゃ、無駄ってことだ」
ユーリが俺とアマノの解説にふむふむ、なるほどーと頷いている。今の説明だけで十分に俺の言いたいことが伝えきれているかが、少し心配だが、若いユーリならそれほど心配する必要はないのかもしれないなあ?
「じゃあ、あたしは、お父さんや、アマノさん。そして、ヒデヨシさんの闘い方をしっかり覚えて、活かせるように知恵を絞ればいいわけだねー?」
「そういうことだ。今持っている徒党としての力を把握して、活かす。もし、ユーリが徒党の司令塔になるようなことになったら、大事なことになるから、しっかり今から意識しておくんだぞ?」
うん、わかったー! とユーリが元気に返事をするわけである。よしよし、良い娘だ。だが、お前が徒党の司令塔になれるかどうかは、俺は保証しかねるがな?
「うふふっ。徒党の司令塔という仕事は、団長が抜きんでているために、団長に任せっきりなのですわ? ユーリにお鉢が回ってくることなんてあるんでしょうか?」
「そこが難しいところだよなあ? あと、徒党の司令塔に任せられるニンゲンって、自然と、ああ、このひとに任せるべきだなって、思ってしまうもんだしな?」
「ウキキッ。あれって不思議ですよね? そのひと個人の戦闘力とか関係なく、このひとの言うことなら従えるって思ってしまうんですよね? ウキキッ!」
「うふふっ。【欲望の団】ならば、団長、カツイエさん。その次に来るのがツキトなのですわ? ミツヒデさんは頼りなく思えてしまって、司令塔として頼る気にならないのですわ?」
ミツヒデは腕は確かなのに、臆病者ゆえに、たまに戦闘中にしり込みすることがあるんだよな。だから、ミツヒデと徒党を組んだとしても、団長や俺はミツヒデの消極的すぎる案を頭ごなしに却下することが多い。
アマノもそんなミツヒデと徒党をたびたび組んでいるために、ミツヒデに司令塔という大事な立場を任せる気にはなれないんだろうな。しかし、だからといって、消極的な案ってのは悪いわけではないのだ。ミツヒデのは消極的すぎるのがいけないのである。
「あれれー? もしかして、お父さんって意外と有能だったりするのー? あたし、意外だよー?」
「俺も何故、司令塔を任せられるのか不思議なんだよな? 俺ってC級冒険者なんだけど、B級冒険者から、司令塔を預けられるんだよなあ?」
「ウキキッ。やはり、団長と長年付き合ってきたおかげというモノではないですか? ウキキッ。あんなニンゲンの基準とかけ離れている人物と徒党を組んで破たんしないだけの統率力がツキト殿にはあるからですよウキキッ!」
こいつらの、この俺に対する謎の高評価はいったい何なんだろうな? 俺はただ単に、お鉢が回ってきたから、仕方なく引き受けているだけなんだがなあ?
「いやいや。俺が団長と徒党を組むときは、団長に指令塔を任せてんだぜ? まあ、司令塔のくせに団長は切り込み隊長をやらかすから、俺に一時的にその役目が回ってくる時もあるんだけどさあ?」
「うふふっ。団長は信頼できるツキトがいるからこそ、そういった行為に及ぶことができるのですわ? 本当に一度で良いから、ツキトはB級冒険者試験を受けてみればいいのかと思うのですが?」
「ウキキッ。微妙なところなのです。基本的に冒険者のランク付け試験はC級以上ともなると、個人の実力を問われる試験内容なので、統率力があるとかないとか関係ないところが痛いところなのですウキキッ!」
まあ、別に統率力が試験内容に関わろうが、俺はB級冒険者試験を受ける気自体、無いんだけどな?
「俺の話はまあ、この辺で終わっておこうぜ? それよりもジョウさんに魔法の防具と魔法の道具に関しての話を聞こうぜ?」
「ぶひひっ。どうせなら、話が横道にそれて、そのまま忘れてほしいところだったデュフ。では、簡単にデュフけど、解説を始めるんだデュフ。そもそもとして、魔法の武器や防具を作るテクノロジーは、今の世には失われているという話は先ほどしたデュフよね?」
ああ、そうだったな。だけど、それだと、魔法の道具も同様にそういった技術が失われていて当然のはずなんだよな?
「魔法の道具の制作過程には、魔法結晶が関わってくるのデュフ。大きな意味では、冷蔵庫も除湿器も魔法の道具なのデュフよ。魔法結晶は魔力を貯めこむことができるのデュフ。なので、魔法の道具にはその魔法結晶を埋め込んだりしたりなどの細工をするわけなのデュフ。しかしながら、魔法結晶は生成自体は簡単なのデュフけど、加工が難しく、今の技術段階では鎧などの防具には仕込めないというわけなのデュフ」
なるほどなあ。じゃあ、魔法の武具ってのは、そもそも、魔法結晶をどうにかして作るものではなくて、まったく違う技術で作られているってことになるわけなのか?




