ー残暑の章24- 神帝暦645年 8月22日 その8
ジョウさんが、なんでぼくちんには彼女や嫁ができないのデュフか! こんな世界、間違っているのデュフ! もし、ぼくちんが魔王なら、こんな世界、破壊してハーレムをつくってやるデュフ! と叫んではいるけれど、もし、ジョウさんが魔王になったところで、ハーレムなんか築けないと思うけどな?
「ウキキッ。ジョウさんが魔王ですか。それなら、討伐は簡単そうなのですよウキキッ!」
「そうだな。おい、ジョウさん。いっそ、今から魔王だって名乗っちまえよ。そして、俺たちに討ち取られてくれ。そしたら、俺たちは3代に渡って楽々遊んで暮らせるからよ?」
「ぶひひっ。ぼくちんが魔王になったら、恐ろしいことになるデュフよ? 伝説の防具を手に入れて、ツキト殿たち程度の攻撃ではまったく無傷になるのデュフ!」
ちっ。ジョウさんの野郎。俺に一攫千金の夢を果たさせるつもりは無いのかよ! 本当に、友達思いじゃないやつだよな、ジョウさんは。友のためなら、この命、惜しくないデュフよ! って言って、闇堕ちしやがれってんだ。
「うーーーん? お父さーん。伝説の防具ともなると、武器による攻撃も、魔法による攻撃も効き目がないようなことになるわけー?」
「そこんところ、どうなんだろうな? なあ、ジョウさん。そんな、あらゆる攻撃がまったく効かない防具なんて存在するのか?」
「ぶひひっ。防具自体に魔法の効果が発動しているモノがあるのデュフ。例えば、石の鎧や、風の断崖が自動的に発動する防具などが世の中には存在するのデュフ」
へーーー。噂程度には聞いたことがあるけど、そういう防具って、実際に存在するのかあ。
「伝説の武具ほどではないデュフけど、風の外套くらいは名前を知っているぶひいよね?」
「ああ、それなら、エルフ族がよく身に着けているやつだよな? あいつらが、【風の加護】を強く受けているのは、その風の外套のおかげとも言って過言じゃ無いやつだよな?」
「そうだデュフ。いつか、あの風の外套を手にいれて、この店で販売してみたいと思っているデュフけど、エルフ族はアレを量産する気がないのが残念なのデュフ」
「ウキキッ。ゴマさんが身に着けている外套がまさにその風の外套なのですウキキッ」
ゴマさんは、夏場でさらにジョウ・ジョウ防具店の中だって言うのに、少し薄汚れた元は緑色であったであろう外套を身に着けている。
「そうなのデュフ。エルフ族は成人である16歳になった時に、その風の外套を長老たち、ハイ・エルフに与えられると言われているのデュフ。ぼくちん、ゴマにその風の外套を譲ってくれと言っているのに、譲ってくれないのデュフ!」
「て、店長。これはエルフ族の民族衣装ってだけではないのだゴマー。それと店長も知っている通り、エルフ族以外が身につけても、風の加護は受けれないのだゴマー」
「そんなことくらい知っているのデュフ! コレクションとして、僕ちんが欲しいだけデュフ! その外套を身に着けても、満足に風の魔法を使えないゴマにとっては宝の持ち腐れデュフ! それならいっそ、僕ちんに譲るデュフ!」
そうなのである。風の外套は結局のところ、エルフ族が着ないと、その効力を発揮できないため、ニンゲン族が多く住む街においては市販されていないのだ。エルフ族の集落で風の外套は織られているのだが、自分たちが身に着けるモノに限られているっていうのが現状なわけだ。
「せっかく、魔法効果のある防具が存在しても、ニンゲン族が装備して、効力が発揮するモノって、限られているよなあ」
「そうデュフね。武器や防具に魔法補助のための紋様を施して、戦闘力を上げる類のモノはニンゲン族でも扱えるデュフけど、そもそもとして、【加護】が働くような魔法の武具となると、本当に限定的になってしまうのデュフ」
「うふふっ。ニンゲン族は魔法を使うために、魔力回路と言われているものをこじ開けてもらわないといけませんのですわ? エルフ族やドワーフ族はそんなことをしなくても、風や土の魔法は産まれながらに使えると言われているのですわ?」
「なんだか、それって不公平だよねー? ニンゲン族は魔法を1系統、使いこなすために金貨30枚(※日本円で約300万円)も取られちゃうもんねー?」
ユーリの言う通り、金銭面では不公平って言えば不公平だけど、ちょっと違うんだよなあ。
「ウキキッ。本当におかしな話なのです。自分の身に備わる魔力自体はエルフ族やドワーフ族にはニンゲン族は劣ることはないのですウキキッ。それにエルフ族やドワーフ族に産まれたからといって、魔力が恐ろしいほど高いといったこともないのですウキキッ」
「うふふっ。その生きる証拠がゴマさんなのですわ? ゴマさんはエルフ族ですが、風の魔力はE級程度しかないのですわ?」
「そうなんだゴマー。自分は頭も悪いし、魔力も低いんだゴマー。だから、エルフの集落に居づらいから、故郷から出てきたんだゴマー」
この辺り、本当に不思議なんだよな。ニンゲン族だってそもそもとして、魔力を持っているんだ。だけど、ニンゲン族は魔法を使うためには、魔力回路とやらを開かねばならない。エルフ族やドワーフ族だって、広い意味ではヒト型種族なんだよ。だが、彼らはそんなことをしなくても、彼らの特徴である風と土の魔法は魔力回路うんぬん関係なく使うことができるんだよな。
「誤解のないように言っておくデュフけど、ニンゲン族の言う魔力検査と魔力回路の開放とは違い、ドワーフ族はドワーフ族で儀式があるデュフよ? その儀式をしないと、うまく土の魔法を使いこなせないのデュフ」
「エルフ族にもドワーフ族のように幼い頃に儀式をやっているのだゴマー。まあ、でも、精霊たちと交流を結ぶための儀式なのだゴマー」
ジョウさんやゴマさんの言うことを補足すると、ドワーフ族は土の精霊と、エルフ族は風の精霊と交流を結ぶ。それは【儀式】と呼ばれている。その【儀式】を行い、精霊との繋がりを強固にするってのがわかりやすい言い方なのだろうか?
「お父さんー? 精霊が魔法を発動するのに関わっているってのは訓練のときの座学では聞いたけど、原理としてはどうなっているのー?」
「うーーーん。そこは魔術師サロンの偉い魔導士にでもご高説を垂れてもらわないといけなくなるんだが?」
「うふふっ。ユーリ? 自分の身に魔力が備わっているからといって、魔法が発動するわけではないのですわ? それこそ、精霊と呼ばれるモノたちの手助けによって、何もないところから、水や火が生まれるわけなのですわ? いわば、精霊は魔法の素となる存在なのですわ?」
「なるほどー。確かに、あたし自身、魔法を使っているけど、なんで、何もない空間から水が具現化されたりするのか、てんでわからなかったけど、それは精霊さんたち自身だったわけだねー?」
「俺も何故、精霊が水や火に変わるかまではわからん。でも、大事なのはその根本じゃない。俺たちにとって、有益に働くかどうかってことだ」
普段、生活しているモノにとって、例えばだ。1足す1が2になることは知っていても、どうして、1足す1が2になるのか? その原理を知る必要など、どこにもない。そんなことはお偉い魔術師サロンの魔導士たちが研究をすれば良い。
俺たち庶民は、1足す1が2になる事実を利用して、モノを数えたりできりゃ、それだけで事足りるのだ。
「ぶひひっ。魔法の武具などは、その精霊自体が宿っていると言われているのデュフ。それ故、その武具を身に着けているモノたちに【加護】を与えるようなのデュフ」
「そういや、ジョウさん自身は魔法の防具を作れたりしないわけなのか?」
「それは無理デュフね。魔法の防具を作るためのテクノロジー自体が、今の世ではロストしているのデュフ。例外として、風の外套はエルフ族が作っているデュフけど、何故、エルフがその外套を装着することで、エルフの特徴である【風の加護】を強化できるのか。その原理はよくわかっていないみたいデュフよ?」
「その外套の織り方自体は今の世でもエルフ族には伝わっているのだゴマー。でも、他の種族がその織り方を知っているからといって、エルフ族以外がその外套を織ったところで、【風の加護】の強化は発動されないみたいなのだゴマー」
ふーーーん。なるほどねえ? できれば、ジョウさんに魔法の効果がある鎧を作ってもらおうと思ったけど、そもそも無理ってことか。まあ、ジョウさんがそんなモノ、作れたところで、制作を頼み込むための金を俺が持っているわけじゃないんだけどな?




