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ー残暑の章 5- 神帝暦645年 8月21日 その1

「あれ? お父さんー。こんな朝早くからどこに行くのー?」


 8月21日の朝7時過ぎ。俺が自分の家の玄関で靴を履こうとしていたら、ユーリがとちょうど2階から降りてきた。そのユーリに俺が質問されたわけである。


 まったく。【欲望の団(デザイア・グループ)】の訓練広場で訓練していた時は、もっと早起きしていたくせに、いざ訓練が中止となった最近はだらけてやがんな、ユーリの奴。まあ、そんなことは置いておいてだ。質問に答えてやるか。


「ああ。なんかな? 団長がプレゼントをくれるって言ってたんだよ。ナマモノだから、早めに取りにきてくれってさ。ユーリが喜ぶモノを用意したんだってよ」


「えー!? あたしが喜ぶモノを団長が用意してくれたのー! なんだろー? やっぱり、ネックレスとか指輪とかかなー? えへへ。そんなのもらっても困るんだけどなー?」


「おいおい、ナマモノだって言ってるだろうが。なんで、貴金属に変わってんだよ。あと、団長から貴金属をもらうのはやめておけ。一度、装備したら、外せなくなりそうだからな?」


「うわあああ。そんな、ドワーフの結婚指輪(エンゲージ・リング)じゃあるまいし、そんな呪いのアイテムをプレゼントとかやめてほしいよー」


「うふふっ。ドワーフ族はブサイクな男性が多いので、浮気防止のためにも、奥さんには一度、左手の薬指にはめたら、離婚するか、死に別れになるまで絶対に外せない呪いの指輪(カース・リング)をプレゼントする風習があるみたいですわ?」


 アマノ、解説ありがとう。って、誰に解説してんだ? 朝が早いから寝ぼけて視えない妖精さんでも視えているのか?


「で? ナマモノであたしが喜ぶものって何だろー? もしかして、(モーモー)さんのお肉とかかなー?」


「うーーーん。それだと、わざわざ、ユーリの名前を出さなくても良いと思うんだよなあ ?いったい、何をくれるんだろうな? 団長は?」


「私はなんとなくですが、予想がつきますわ?」


「ん? そうなの? アマノ。いったい、ナマモノって何だと思うんだ?」


「多分ですけど、ユーリ用の使い魔だと思うのですわ?」


「えええええーーー! あたしの使い魔を団長が用意してくれたのーーー!? お父さんー! あたしも一門(クラン)の館に行くーーー!」


「ついてきたいって言うなら、別に俺は構わないけど、もし違ってても、あからさまな顔で嫌がるなよ? 団長って、アレでも傷つきやすいんだからさ?」


「そこは善処するー。じゃあ、10分ほど待っててねー? ぱぱっと着替えてくるからー!」


 ユーリがそう言い残して、パジャマ姿のまま、家の奥へと向かっていくのである。年頃の女性が10分で準備できるってのも問題がある気がするのだがなあ?


「なあ、アマノ。ユーリが何分で戻ってくると思う?」


「うふふっ。今頃、鏡の前で、寝癖のひどさに悲鳴を上げる頃ですわ? まあ、20分から30分ほど待っていれば良いのでは?」


「そうか。じゃあ、俺、新聞でも読みながら待ってようかな。アマノ、悪いんだけど、飲み物を淹れてくれるか?」


 俺はそう言いながら、靴を履くのをやめて、玄関から台所に向かうのである。


「紅茶とコーヒー、どちらにします?」


「うーーーん。コーヒーかなあ。砂糖は無しで、ミルクを少しで頼むわ」


「では、私も同じくコーヒーにするのですわ。うふふっ。やっぱり、ユーリが悲鳴を上げているのですわ?」


「きゃーーー! 髪の毛が爆発してるーーー! なんで、こんなことになってるのーーー!」


 そりゃ、寝る前に髪をちゃんとかわかさないからだよなあと俺は思うのである。


 さて、ユーリが鏡の前で格闘し、普段着に着替え終わる頃には、俺のほうもちょうど、アマノが淹れてくれたコーヒーを飲み干すこととなるわけだ。


「よっし。ユーリ。心の準備はできたか? もし、使い魔だったら、大喜びだ。(モーモー)さんのお肉だったら、大喜びだ」


「ちょっと、さすがにそれは自信ないかもー。まあ、(モーモー)さんのお肉は我が家だとご馳走だもんねー。頑張って、喜ぶ振りをするよー」


 うん。期待するだけ無駄だな。団長が使い魔を用意してくれていることを祈ろうじゃないか。


「じゃあ、ちょっと、一門(クラン)の館に行ってくるわ。昼すぎから幽霊屋敷の執事との打ち合わせだから、午前10時を回る頃には戻ってくるからな? 留守番を頼むぜ、アマノ」


「うふふっ。いってらっしゃいなのですわ? でも、どれくらいの大きさの使い魔なのでしょうね? 大型犬だと、室内飼いをするには、我が家は手狭なのですわ?」


「まあ、大きくても柴犬(シヴァ・イヌ)くらいの中型犬じゃねえの? 俺としては、小型犬の方がありがたいんだけどなあ?」


「お父さんー。早く行こうよー。あたしは使い魔をもらえるなら、犬でも猫でも鳩でもかまわないよー?」


 鳩はすでに我が家に、まるちゃんと言うくそ生意気な、アマノの言うことしか聞かない野郎が居るから、俺としては犬か猫が良いのだが? ああ、でも、猫は家を傷ませるって言うよなあ。ミツヒデの奥さんの使い魔が水の猫(オータ・キャット)だけど、障子を穴だらけにして、軽く殺意が湧くのでございますって言ってたな、そういや。


 そんなことを思っていると、ユーリに背中をぐいぐい押されて、俺は無理やり台所から追い出されることになる。そんなに急がなくても団長と使い魔は逃げも隠れもしないとおもうんだけどなあ?


 さて、我が家から【欲望の団(デザイア・グループ)】の館は歩いて20分といったところである。今の時間は朝7時半であり、いつものユーリの訓練開始時間より1時間は早い出勤である。


 道すがら、ジョギングする近所の若夫婦や、家の前で水巻きをしているおばあちゃんに朝の挨拶をしつつ、さらにユーリにせっつかれつつ、館へと歩く俺である。


「ああ、ツキトくん。早めに取りにきてくれとは言っていましたけど、まさか朝の8時前に来るなんて、予想すらしてなかったですよ?」


 そう団長が、一門(クラン)の館にやってきた俺とユーリを玄関(エントランス)・ホールで出迎えてくれるのである。


「ああ、ナマモノって聞いてたからよ。あと、昼から、今度受けるクエストの打ち合わせが入っててさ。じゃあ、なるべく朝早いほうが良いかなって」


「ミツヒデくんから報告を受けているので、少しだけそのクエストの内容は知っていますけど、何やら、また面倒くさそうなことに首をつっこむんですねえ?」


「団長に言われる筋合いは無いと思うんだけどなあ? ミツヒデが泣いていたぞ? 絶対に僕は、紅き竜(レッド・ドラゴン)の囮にされてしまうのでございますううう! ってさ」


(ドラゴン)族は光モノが好きですからねえ? ミツヒデくんのおでこを視たら、喜んで狙うと思うんですよ?」


「おい、団長。ミツヒデの髪の毛については、放っておいてやれ。30歳手前であの生え際の後退っぷりは、視てて可哀思でしかないからな?」


「ミツヒデさんって、いっそ全てを諦めて、スキンヘッドにすれば良いのにねー?」


 ユーリがトドメの一撃になるであろう一言を口走る。ミツヒデは団長以上に神経が細かいんだから、頼むから、ミツヒデ本人の前で言ってやるんじゃねえぞ?


「そのまま、出家しないことを祈るけどな? さて、その話題は避けようぜ? なあ、団長。ナマモノって、食べるほうのことなの?」


「うーーーん。頑張って調理すれば、食べれないことはないでしょうけど、先生としては使い魔として役立ててほしいのですが?」


「うあーーー! アマノさんの言っていた通り、本当に使い魔だったーーー! 嬉しいーーー!」


 ユーリがその場で万歳を3回繰り返すほどの大喜びぶりだ。俺もユーリがここまで喜んでくれるとなると、こっちまで気分が良くなってしまう。


「はははっ。良かったな、ユーリ。しっかし、団長はさすがにハーレムを築き上げているだけあって、女性のハートを掴むコツは知ってるなあ? だけど、うちの娘を団長のハーレムに入れようなんてするんじゃねえぞ?」


「そこは、ユーリくんのおっぱいがもう少し成長したあとに考えますよ。さて、応接間の方で待ってくれますかね? 先生、部屋に戻って、使い魔を持ってきますので」


 団長はそう言うと、玄関先から館の奥の方へと歩いて向かっていくのであった。ユーリは笑みを満面にうかべて、大喜びである。


 そんなユーリを連れて、俺は館の応接間へと向かうのである。しっかし、ここのソファーは座り心地が良いよなあ。ふかふかで座っているだけで眠りそうになるわ。ふわあああ。


 ユーリがソファーに座りながらも、そわそわと身を動かし、わくわくしぱなっしである。あれ? そういや、使い魔って言っても、どんな動物かを団長に聞き忘れてたな? まあ、良いか。犬でも猫でも、ユーリなら大切にするだろうしな。


 そうこう考えていると、団長が檻を片手に持ってやってくる。あれっ? なんか、あの檻、妙に小さくないか? あれ? あれれ?


「さて、お待たせしました。ユーリくんの使い魔として、この子をプレゼントしますよ? いやあ。こいつを手に入れるには苦労しましたよ……。じゃじゃーーーん! 【ネズミのこっしろーくん】です!」

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