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ー残暑の章 1- 神帝暦645年 8月20日 その1

「おーい。ユーリ。どのクエストを受けるつもりだー?」


「うんー。報酬が金貨100枚(※日本円で1000万円)の、この石の薔薇(ロック・ローズ)をバンパイア・チョウチョウの館の庭から取ってくるってクエストなんか良いかなー? って思うのよー」


「やめとけやめとけ。今回のクエストはヒデヨシ、アマノ、俺、そして、ユーリの4人で行くんだぞ? もし、バンパイア・チョウチョウと戦闘になったら、攻撃力不足のこの徒党(パーティ)じゃどうにもならんぞ?」


 お盆進行を無事に終えたあと、バンパイア・ロードとの闘いで傷を負った俺たちはアマノとユーリが治療魔法で、身体を十分に癒したのであった。アマノの愛のこもった水の回帰(オータ・リターン)は俺の右胸の肋骨に入ったヒビを完治させるには十分すぎる効能を発揮したのである。


 そのお盆進行が終わってから5日後、俺、アマノ、ユーリ、ヒデヨシは完全に傷が癒えたこともあり、この4人で徒党(パーティ)を組み、クエストを受けるために冒険者ギルドへやってきたわけである。もちろん、それはユーリの訓練を含めてのことだ。


 お盆進行でたんまり金を儲けたっていうのに、クエストを受けることになったのは、カツイエ殿が【欲望の団(デザイア・グループ)】の訓練用広場を破壊しやがったのも原因のひとつなのだが?


「えー? 4人で割ったら、1人当たり金貨25枚なんだよー? C級冒険者のお父さんが、半年は働かなくても良いってことになるんだよー?」


「D級冒険者のユーリだったら、1年分の収入だな? しかしだ。1回のクエストで一気に稼ごうなんて欲をかこうとするのはやめておけ。年8回は少なくともクエストを受けるんだから、ええっと、1回のクエストで金貨5から7枚くらいを目安にするんだ。それが身の丈にあった仕事ってもんだ」


 この金額はもちろん、クエスト中にモンスターを討伐した分を含めての値だ。だから、クエスト自体の報酬は少なくても、出てくるモンスターの量も考慮して、クエストを受けないといけなくなるわけだ。


「うふふっ。ミツヒデさんが参加するのであれば、攻撃力も申し分なかったのですが、彼は団長のほうのクエストに連れ回されることになったのですわ?」


「ああ、ミツヒデのやつ、可哀思だよなあ。お盆進行を終えた次のクエストってのは、ちょちょいっとクリアできそうなクエストで体調を整えるものだって言うのにな? なんだっけ? 団長が今度行くクエストって?」


「ウキキッ。確か、紅き竜(レッド・ドラゴン)の尻尾を50センチメートルほど斬り取ってくるというクエストだったはずなのですウキキッ」


紅き竜(レッド・ドラゴン)を倒すんだー! すごいなー。団長はー。さすがA級冒険者だよー!」


「違う違う、ユーリ。倒したらダメなんだよ。紅き竜(レッド・ドラゴン)は尻尾を斬ると、トカゲみたいにまた生えてくるわけだ。だから、尻尾だけいただいて、それが生えてきたら、また尻尾だけいただくんだよ。(ドラゴン)の成獣は今じゃめっきり数が減っているんだ」


「うふふっ。だから、殺さずに尻尾だけいただいて、そのお肉を食べるのですわ? 倒すだけのクエストだったら、別にA級冒険者が2人も揃って行くほどのクエストにはならないのですわ?」


「うわー。紅き竜(レッド・ドラゴン)もA級冒険者から視たら、家畜とあまり変わらないんだねー。世界の恐ろしい一面を垣間見た気分だよー」


「まあ、家畜って表現はあまりよろしくない気がするが、それは置いておいてだ。ミツヒデのやつ、絶対に囮役にされるだろうな……」


「ウキキッ。最初は、わたくしがその役目をさせられそうだったのですが、ツキト殿のクエストに同行する先約があると嘘をついたのですウキキッ!」


 なるほど。だから、ヒデヨシは、実入りが少ない俺たちのクエストに同行を言い出したってことか。まあ、実力はB級冒険者に匹敵するはずなのに、わざわざ、俺たちと組む必要性がないから不思議だなあと思っていたんだよな。


「で? ヒデヨシは、1人当たり金貨5枚程度のクエストで本当に良いのか? まあ、それ以上を頼まれても困るんだけどさ?」


「ウキキッ。バンパイア・ロードの撃退でふところは暖かいから、クエストの報酬は特に気にしていないですよ? ウキキッ」


 ありがたい話だぜ。今回のクエストだけでなく、結局、バンパイア・ロードを撃退した時の報酬は仲良く5等分ってことで、ひとりアタマ金貨80枚だもんな。B級冒険者2人にC級2人、そしてD級1人となれば、ユーリが大きく配分的には不利になるはずだったのにさ?


「ミツヒデとヒデヨシには感謝しないとな。本当なら、ユーリの取り分なんて、スズメの涙だったかもしれないのにさ?」


「ウキキッ。頑張った分だけ、それに見合った配分をもらえるのが【欲望の団(デザイア・グループ)】の決まりなのですウキキッ。みんながみんな、自分の持てる力を全て出し切ったのです。それで、配分が不均等なら、わたくしはミツヒデ殿をとっちめていたところですよウキキッ!」


「うふふっ。ミツヒデさんは、貧乏性ですが、けち臭いことは言わない方なのですわ? ヒデヨシさんはミツヒデさんのことがあまり好きではないのですか?」


「いえ、そんなことはないですよ? ウキキッ。ただ、将来的にライバル関係となるので意識してしまうだけですウキキッ」


 ヒデヨシが無事にB級冒険者に上がれれば、ミツヒデと冒険者位階(ランク)が並ぶことになるんだよな。もし、ヒデヨシが【欲望の団(デザイア・グループ)】から逃げ出さなければ、今頃、ふたり仲良くうちの一門(クラン)の幹部だったかもしれないし。ヒデヨシとしては、ミツヒデに対して意識する部分が多々あるんだろうなあ?


「ミツヒデさんとヒデヨシさんはライバルと言うよりは、親友になれそうな気がするんだけどなー? 団長に等しく苦労をかけられそうって意味でー」


 ユーリの言いにヒデヨシがうぐっ! と言葉を詰まらせている。ユーリ、ひとつ勘違いしているぞ? 団長に苦労させられているのは【欲望の団(デザイア・グループ)】全員だ!


「うふふっ。これなんかどうですか? ペットショップで売りに出す用の火の犬(ファー・ドッグ)水の猫(オータ・キャット)を5匹ずつほど捕まえてくるクエストなのですわ?」


「お? 良いんじゃね? ついでにユーリの使い魔になりそうなの、もとっ捕まえてこようぜ? そう考えれば一石二鳥じゃねえか?」


「うおーーー! ついに、あたしにも使い魔を飼っても良いってお許しが出たってことだねー? うーーーん、どっちを使い魔にしようかなー?」


 ユーリがにんまりとした笑顔を顔に浮かべている。近い将来、自分の使い魔となるワンちゃんや猫ちゃんに心が浮き立っているのが手に取るようにわかるぜ。だが、そんなユーリに水を差すかのようにヒデヨシが一言告げるのであった。


「ウキキッ。これって、報酬が金貨10枚なのですが、クエストに行く費用を考えると、ひとりアタマ金貨2枚程度の配分になってしまいますよ? D級冒険者のみで受けるようなクエストですよ? ウキキッ」


 俺たちのクエストについてくるからには報酬はそれほどじゃなくても良いと言いつつ、さすがにひとりアタマ金貨2枚だと、ヒデヨシは嫌かあ。うーーーん、仕方ないなあ。


「ついでに近くに寄って、割りと簡単にこなせるクエストも同時に受ければいいんじゃね? んと、水の猫(オータ・キャット)は、びわ湖(ビワッコ)周辺だろ? んで、火の犬(ファー・ドッグ)は、東の関ヶ原(セッキ・ガハーラ)か。関ヶ原(セッキ・ガハーラ)方面のクエストでちょうど良さそうな他のクエストが無いか探してみようぜ?」


「じゃあ、このクエストの紙は、あたしが剥がして持っておくねー? 他の徒党(パーティ)に取られたら、嫌だしー」


「まあ、そんな心配する必要ないんじゃねえのか? 実入りがたいして良いクエストでもないしな? D級冒険者の2人組でもなければ、受けやしないぞ? そんなの」


 と俺が言ったその瞬間である。俺は背中に強烈な視線を感じることとなる。


「ん……。トシイエ。困った。あのクエストを、このツキトさん徒党(パーティ)にとられそう」


「困ったッスね。ナリマサ、どうするッスか? 他ので俺らでもやれそうなのを探すッスか?」


 俺は後ろを振り向き、声のする方向を視ると、よくよく顔を知っている2人の冒険者が立っていたのである。


「あれ? ナリマサとトシイエじゃん。2人ともどうしたんだ? もしかして、この火の犬(ファー・ドッグ)水の猫(オータ・キャット)の捕獲クエストを狙っていたのか?」


 この2人は俺たちと同じ【欲望の団(デザイア・グループ)】に所属するのD級冒険者たちである。


「うふふっ。こんにちわ。トシイエさんとナアリマサさん。おふたりだけのように見えますけど、他の徒党(パーティ)メンバーはどうしたのですか?」


「ん……。アマノさん、こんにちわ。実はうちの徒党(パーティ)の女性陣が、この前のお盆進行で怪我をした。だから、トシイエと2人で出稼ぎに行こうかと思って」


「うッス。マツとウメちゃんが足の骨を折って、動けないから、2人の分も稼がなきゃって思って、2人でも出来そうなクエストを探していたッス。それで、その火の犬(ファー・ドッグ)水の猫(オータ・キャット)のクエストを受けようと思って、一度、宿のほうで相談してきていたというわけッス」


 ありゃりゃ。足の骨を折っちまってか。いくら、治療魔法で骨折は治せると言っても、キレイに治るまで2週間近くはかかっちまうな? マツさんとウメさんは。俺はお盆進行の時にろっ骨にヒビが入ったが、アマノの治療魔法で2、3日で治してもらえたから良かったが……。


「そうか。わかった。おい、ユーリ。そのクエスト、この2人に譲ってやってくれ」


「えーーー!? あたしの使い魔の件はどうなるのーーー!?」


「まあまあ。同じ一門(クラン)のやつらが困っているんだ。それに使い魔だったらペットショップでも買えるだろ? 一門(クラン)メンバーを助けるつもりでさあ?」


 俺の言葉を聞いて、ユーリが自分の胸の前で腕を組み、約1分ほど悩んだあとに


「うーーーん。わかったよー。トシイエさん、ナリマサさんには彼女がいるんだもんねー。将来を誓い合った彼女たちのためにも稼がなきゃダメだもんねー? わかったー! これは2人に譲りますーーー!」


「ん……。ありがとう、ユーリちゃん。この御恩は一生忘れない」


「ありがとうッス! 俺、ユーリちゃんが困ったことになった時は、いつでも助けるッス!」


「そんな大げさだよー、2人ともー。それよりも、そのクエストの報酬で彼女さんたちに美味しいモノでも食べさせてねー?」


 偉いぞ。ユーリ。他の冒険者の都合なんか知ったこっちゃない世の中だが、同じ釜のメシを喰う一門(クラン)のメンバーには親切にしておくことは大事だからな?

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