ー薫風の章28- 神帝暦645年 8月15日 その21
「ついでに面白きことをひとつ教えてやるのである。岩の塊や石の悪魔がどうやって産まれるかを知っているのか?」
「あの悪魔の姿を模したと言われる石で出来たモンスターですよね? 石の悪魔は。それと、芋虫みたいにもぞもぞうごく、あの石や岩が集まった岩の塊。あれがどうしたのですか?」
団長がそうバンパイア・ロードに尋ねてるな。俺もアレらがどうやって産まれるのかは知らないんだよな。魔術師サロンでは石の彫像や岩などに魔力が宿って、それが核を形成して動き出しているのでは? って言う推測は立てているんだけどなあ?
「あれは、石の虚像と炎の演劇の合成魔法により作り出されているのである」
「えええ!? それって本当なんですか? さすがにそれは嘘ですよね!?」
「ならば、石の悪魔を造り出すところを見せてやるのである。ふんっ!」
バンパイア・ロードがそう言うと同時に、あいつが具現化した石や土で出来た人形6体と炎で出来た人形6体が絡み合い、溶け合い、姿を変えていくのである。
うおおお! まじかよ! みるみるうちに、炎によって溶けた石人形が羽の生えた悪魔の姿に変わっていくぞ!?
それから10分後にはまさに石の悪魔1体と2匹? の岩の塊の出来上がりとなったのだ!
「なるほどですね。石の悪魔はそうやって造りあげるのですか。そして、余った分は岩の塊となるわけですね?」
「そういうことである。これは火と土の魔力が共にC級もあれば充分に造り出すことが可能となるのである。だが、ここまで石の悪魔の造形を整えるには、長年の経験と勘が必要となってくるのである」
「なあ、ミツヒデ。お前、土の魔力がC級で、火の魔力がB級じゃんか。ミツヒデでも作れるんじゃねえの? 石の悪魔をよ!」
「ふひっ。僕が造り出せるのは今のところ、鉄砲の模造品といったところまででございます。しかし、これは非常に勉強になるのでございます。僕も石の悪魔が造り出せると思うとわくわくするのでございます!」
ミツヒデが顔に笑みを浮かべている。こいつ、茶の湯だけが趣味だしなあ。新たな趣味が出来ることに喜びを隠せないのだろう、うんうん。
「ふむっ。そこの嫁に搾り取られて精の薄いニンゲン。興味があるなら、我に弟子入りしてみるか? である。筋が良ければ10年ほどでバンパイア・チョウチョウの造るモノ程度のは出来るようになるのである」
「ふ、ふひっ!? 10年でございますか……。悩みどころなのでございます。冒険者稼業を引退したあとに学ばせてもらうのでございます」
「ミツヒデ。それだと、ただの老後の趣味になりさがるじゃねえか。そんなんで良いのか? もっと高望みしたって良いんだぞ? 今すぐ、冒険者稼業引退になるけどさ?」
「ちょっと、バンパイア・ロードくん。うちの一門メンバーを引き抜こうとするのはやめてくれませんかね? 少なくとも、あと30年はミツヒデくんには働いてもらうつもりなんですからね?」
「うふふっ。普通、冒険者なんて長くても50歳までだと思うのですわ? ミツヒデさんは60歳近くまで冒険者をやめれませんわね?」
「それと団長って、何歳まで冒険者稼業を続ける気なのー? あと30年もミツヒデさんをこき使うとしたら、団長も60歳を超えるよねー?」
「アマノ、ユーリ。良いツッコミだ。俺も心配なんだよな、その辺りが。団長が俺をいったい何歳まで働かせるつもりなのか心配なんだよな」
「そんなの武器を振り回せなくなり、魔法が発動できなくなるまで、こき使うに決まっているじゃないですか? いったい、先生がきみたちにいくらつぎ込んでいると思っているんですか?」
あれ? 俺って、団長に資金提供してもらってたっけ?
「なあ、アマノ。俺って、団長と5年ほどしか冒険者歴が変わらないんだけど、俺は何か団長に資金提供されたことってあったっけ?」
「うふふっ。私の代わりに大怪我をした時がありましたわ? あのとき、半年ほどクエストにいけなかったじゃないの? その時に、団長が色々と便宜を図ってくれたのですわ?」
「ああ、傷病手当だって言われて、見舞い金を一門から出してもらっていたな。あれって、冒険者ギルドでかけてる保険から出ているのかと思ってたぜ」
「あの冒険者ギルドの保険で出るお金はスズメの涙程度なのですわ? とてもではないですが、あれほどの大怪我の治療費や、怪我が治るまでの生活費は賄えるわけがないのですわ?」
なるほど。俺も知らず知らずに【欲望の団】では世話になっているわけかあ。それにユーリも、冒険者ギルドに登録したときについでに魔力検査と魔力回路の開放をした時の金を出してもらったし、さらには訓練用の錫杖を団長に頼んで作ってもらったりとかあるしなあ。
「団長。俺、団長のこと、誤解してたわ。よくよく考えると、お世話になりっぱなしだったわ!」
「気付いてもらえただけ、ありがたい話ですね。で、この石の悪魔、どうやって対処したものでしょうか? カタナで斬り倒そうものなら、いくら金貨100枚のこれでも、確実に刃こぼれしますよねえ?」
「ふむっ。普通なら棍棒や斧でぶっ壊すものである。貴様のカタナが刃こぼれしては、闘いの楽しみが減ってしまうのである。これは屋敷にでも飾っておくのである」
バンパイア・ロードが右手の親指と中指でパチンッ! と音を立てると石の悪魔はのっしのっしと歩いて、森の中へ消えていくのである。いったい、何のためにわざわざ造ったんだろうな? 魔力の無駄遣いだろ……。
「さて、余興は終わりである。そろそろ、本当の力を見せる時なのである」
「えっ? 四元魔法を使いこなせるだけでも充分、脅威なんですけど、まだ何かあるんですか? 先生、そろそろ、帰っていいです?」
「まあ、待て。0時までにはあと1時間はあるのである。我と楽しもうなのである。炎よ、天を突くのである! 炎の柱発動である!」
バンパイア・ロードがそう叫ぶと共に、地面から高さ5メートルにも及ぶ火柱が吹きあがる。それも1本ではない。同時に5本だ。その火柱たちが団長の周りを囲むのである。
「さあ、ここからなのである。水よ、逆巻けなのである! 水の洗浄である!」
なんだ!? もしかして、火柱に水の螺旋をぶつけて、大爆発を起こし、団長を吹き飛ばすつもりか!?
「くっ! これは不味いですね! 石の鎧発動です!」
団長は風の魔法を使えない以上、防御魔法である風の断崖を発動できねえ。だから、物理的な衝撃を防ぐためにも石の鎧で身を守るつもりか!
「ハハハッ! それは読んでいたのである。だが、その石の鎧が貴様を自滅へと追い込むのである!」
あれ? そう言えば、水の螺旋が火柱と混ざり合っているのに、なんで反発しあっている感じにならないんだ?
「お、おい。団長。俺の眼の錯覚かな? 火の魔法と水の魔法が混ざり合っているように視えるぞ? あ、あれ? 火と水の魔法なんだぞ!? なんで反発しあわないんだ!?」
「くっ! やられました! バンパイア・ロードくんの真の力とは四元魔法全てが使えることだけではなかったんですね!」
ど、どういうことだ!? 団長、説明を求む!
「そんなことを解説している暇なんてありませんよ! 土よ、えぐれなさい! 石の龍発動です!」
団長が土の魔法を発動したと同時に大量の土砂が地面から舞い上がる。しかし、そのさらに上空から炎の柱で熱しられた大量の水が滝のように降り注いでいくのである。
「ハハハッ! さあ、水温90度にまで上がった熱湯を頭からかぶるが良いのである!」




