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ー薫風の章26- 神帝暦645年 8月15日 その19

殿(との)! お待たせしたのでもうす! 殿(との)のカタナを取ってきたのでもうす!」


 あっ、カツイエ殿だ。火の魔犬(ファー・ベロス)10匹に囲まれて、どうなったのかと思ったら、そいつら全部、追っ払って、さらに一門クランの館に一旦戻って、団長のカタナを取ってきたのかよ。すげえな。B級冒険者なら、とっくに火の魔犬(ファー・ベロス)の群れに焼肉にされてんだどけなあ?


「おおっ! 待ってましたよ! いやあ、これで形勢逆転ですね! 今まで使っていた金貨3枚のモノとはわけがちがいますよ? 職人を泣かせに泣かせて作らせた、金貨100枚(※日本円で1000万円)のシロモノですからね!」


 すげえよなあ。俺の使ってる槍は銀貨50枚(※日本円で5万円)の量産品なんだけど? いったい、たかだか消耗品にすぎない武器のひとつにB級冒険者の1年分の収入をつぎ込むって、頭がおかしいんじゃねえの? うちの団長って。


「うふふっ。金貨3枚でも充分、高性能のカタナなはずなのですけどね? でも、団長の魔力を乗せて闘うには不十分なのはいなめないのですわ?」


「すっごいよねー。あたしの錫杖(しゃくじょう)だって、せいぜい金貨5枚くらいだと思うんだよねー。それの20倍だよー? 団長の今度のカタナはー」


 いや。ユーリ。お前の予想は間違っているぞ? 多分、その錫杖(しゃくじょう)は、材料にした白樺の樹1本だけで、金貨10枚はくだらないシロモノだと思うぞ? 団長はそれをユーリに言ってないだけだぞ?


「ふひっ。ちなみに僕の使っている鉄砲(タネガシマ)は1丁で金貨5枚ほどなのでございます」


「えっ!? 鉄砲(タネガシマ)って、そんな値段で買えるの? 嘘だろ? もっと高いと思ってたぜ?」


「ふひっ。ツキト殿は昔から、自分の使う武器以外には無頓着なのでございます。解説させてもらうとですね、銃の口径が大きいモノになると倍々で高くなっていくのでございますが、僕の使っているものは量産品なのでございます。なので、それほど高くなかったりするのでございます」


「うふふっ。ちなみに私の弓も金貨5枚なのですわ? 基本の素材は竹とヒノキなのですが、弓自体に魔力が乗せられるように紋様を施しているのですわ?」


「ああ、あの紋様って何なのかなあ? って思ってたら、そういうわけがあったのかあ。俺、お洒落とかそんなんだと思ってたわ」


「普通の弓でしたら、ツキトの槍と同じく銀貨50枚で買えますわ。ただ、私の場合、連射をするので弓自体の耐久力も必要となってくるのですわ」


 なるほどなあ。俺なんて、槍でぶっ叩くから、いつ折れても良いように、遠出のクエストに行くときは3本くらい余分に持っていくもんなあ。アマノの場合は、念のためにと弓をもう1本持って行ってるし。


 ちなみにクエストには荷物持ちを担当するモノがいるわけだ。【欲望の団(デザイア・グループ)】ではくじ引きでその辺を決めているんだがな? ただし、団長の意向で、女性は荷物持ちから除外されてたりもする。


「おお。なかなかの武器なのである。(われ)の右手を簡単に切断してくれるとは、思わなかったのである」


 団長が三光(さんこう)を繰り出したことにより、バンパイア・ロードの右腕が二の腕部分で切断されていた。さすが、金貨100枚もするカタナだぜ。って、あれ? 団長の様子がおかしいぞ?


「ふふっふふっ。今宵のオニマルクニツナは血を吸いたがっているようですね。切れ味抜群ですよ、はーははっ!」


「あっ。やべえ。団長がヒト斬り、いや、モンスター斬りモードに変わったぞ? ちょっと、焼肉台を後方に下げようぜ。ミツヒデ、ヒデヨシ、悪いが手を貸してくれ」


「ウキキッ。そうですね。あのカタナを振るい出すと、剣風だけで団長の周囲3メートルは切り刻まれることになるのですよねウキキッ」


「ふひっ。まさに鬼神が如くの剣の太刀筋なのでございます。僕もできれば長剣(ロング・ソード)の適正がほしかったのでございます。よいしょっと」


 俺たちは焼肉パーティの場所を移動させることにする。焼肉台と椅子をセットし直し、再び着席するのであった。


「ガハハッ! 我輩も腹が減ったでもうす。我輩にも食べさせてほしいのでもうす!」


「嫌だよ。カツイエ殿は通常の3倍、喰うじゃねえか。今回は子豚を3匹しか持って来てないんだぞ? カツイエ殿ひとりで全部、平らげてしまうじゃんかよ」


「ううむ。それは困ったのでもうす。ちょっと、(イノッ・シシ)がいないか探してくるのでもうす」


「お父さんー。そんないじわるを言わなくてもいいじゃないー。カツイエさんー。あたしの分をあげるよー?」


「おお。本当でもうすか? いやあ、ユーリ殿は優しい女子(おなご)でもうすな。もし16歳でなければ、我輩の嫁にしているところでもうす」


「うふふっ。カツイエさんは、相変わらず、年齢差は5歳以内でないといけない狭い守備範囲なのですわ。おかげで、うちの娘を取られる心配がなくて助かるのですわ?」


「ガハハッ! こればかりは譲れないのでもうす。しかし、もし、ユーリ殿がどうしてもというのであれば、我輩、構わないでもうすよ? チラチラッ!」


「ごめんなさいー。あたし、筋肉だるまはちょっと趣味に合わないかもー」


 あっ。カツイエ殿がショックで、地面に四つん這いになってやがる。


「な、なんの! いつかきっと、我輩の筋肉に惚れこむ女性が現れるのでもうす!」


 あっ。カツイエ殿が無理やり自分を叱咤して、筋肉披露のポーズを取り始めたぞ?


「うふふっ。なかなかにそんな特殊性癖の女性は現れないと思うのですわ?」


 あっ。カツイエ殿がショックで、再度、地面に四つん這いになってやがる。しかも、今度は悔し涙を流しているぞ!?


「くううう。なぜ、我輩の筋肉の良さがわかってくれる女性が現れないのでもうすか! 世の中、間違っているのでもうす!」


「まあまあ。カツイエ殿。ニンゲン族で探すから悪いんだって。エルフ族の娘辺りをかっさらってくりゃあ良いんだよ」


「ふひっ。エルフ族は多種族と交わるのを良しとしない風習があるのでございます。いくらニンゲン族に相手されないからと言って、エルフ族を選ぶのはどうかと思うのでございますよ? それに、結婚をするなら、子を作ることも考慮しなければならなくなるのでございますよ?」


「ウキキッ。さらに言わせてもらえば、エルフ族は長命ですよ? 見た目20歳の妙齢と思ってみたら、実は90歳とかというオチが待っていそうな気がするのですよウキキッ」


「我輩、さすがに歳の差50歳以上はきついのでもうす。ううむ。困った話なのでもうす」


 カツイエ殿も良い歳なんだから、結婚したほうが良さそうなんだけど、相手が見つからないって大変だなあ。


 おっと、それより、団長はどうなったんだ?


「はーははっ! さっきまでの勢いはどこに消えたんでしょうかねえ? さあ、バンパイア・ロードくん。あなたもそろそろ本当の力を見せてくれて良いんですよ? あればですけどね!?」


「くっ。武器が変わっただけでここまでの強さを発揮するとは思わなかったのである。(われ)石の鎧(ストン・アーマ)で底上げした防御力を容易く引き裂いてくれるのである!」


 なんか、団長のほうが悪役に視えてきてるな。あーあ、もうちょっと、団長がピンチに陥るのを期待してたんだけどなあ? バンパイア・ロードは両腕を団長の秘蔵のカタナ:オニマルクニツナによって切断させられて、満身創痍の状態だ。あーあ、こりゃ、勝負は決まったかなあ?


「まあ、仕方ないのでございます。あの金貨100枚で職人に作らせたカタナで斬れぬものがあるのなら、逆に視てみたいモノなのでございます。あのオニマルクニツナを手にした団長は、まさに鬼に金棒なのでございます」


「でも、あのバンパイア・ロードだったら、その辺、どうにかしそうな雰囲気はあったんだけどなあ? 俺のあの隠し業:【風と共に踊りぬ(シャル・ウイ・ダンス)】は打撃力だけで言ったら、カツイエ殿の両手斧の連撃の威力に匹敵するんだぜ? それを、あいつはさばききったんだからよお?」


「ふむっ。ツキト殿が勘違いしているようであるが、我輩、斧系に適正があるわけではないでもうすよ?」


「えっ!? どういうこと? それ、初耳なんだけど!」


「我輩、長剣(ロング・ソード)が1番適正値が高いのでもうすが、我輩の筋力に耐えきれるモノがないから、両手斧を使っているだけでもうす。それと、ぶっちゃけ、殴ったほうが打撃力が高かったりするのでもうすよ?」


「おいおいおい。A級冒険者ってのは、どんだけふざけた存在なんだ? 武器を使わない方が敵にダメージを与えれるって、おかしすぎだろ? もしかして、団長とカツイエ殿が居たら、都市のひとつやふたつくらいなら占領できたりしちまえるのか?」


「うふふっ。団長は街ひとつ破壊できるほどの魔法を放てますし、カツイエさんもふざけた隠し業を持っているんでもの。カツイエさんがもし壊れない長剣を手に入れたのならば、それも可能となるかもしれませんわね?」

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