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ー薫風の章25- 神帝暦645年 8月15日 その18

 団長とバンパイア・ロードの一騎打ちが始まって早1時間が経過しようとしていた。団長の4連撃・雨四光(あめよんこう)によるダメージから、バンパイア・ロードは既に回復しきっている。


 さらには、団長の両手で握られたカタナが、団長の繰り出す剣技の数々に耐えきれず、俺から視ても、そのカタナの刃はボロボロになっていくのであった。


「なあ、アマノ。これ、団長を手伝ったほうが良い気がしてきたぜ? のんびり観戦しながら焼肉パーティとか言ってたけど、まじで団長が負けそうなんだけど?」


「うふふっ。今更、団長に手を貸そうものなら、ツキトが団長に殺されますわよ? ほら、団長のあの嬉しそうな顔を視てみるのですわ? あんなに嬉しそうに笑いながら闘っている団長を視たことが、最近、ありましたかしら?」


 団長は、バンパイア・ロードの猛攻をカタナでさばきつつ、額から大量の汗を噴き出していた。しかし、団長は笑っている。いつものどこか歪んだ笑い顔ではなかったのだ。


「ああ、そうだな。なんか、憑き物が取れたって感じで闘っているよな。あれ? いつからだっけか。団長が闘いの最中に笑わなくなったのって?」


「あれはツキトが私を庇ったために、大怪我をしたクエストの時以来ですわ。団長が闘いの最中に笑わなくなったのは。ですが、久しぶりに徒党(パーティ)の誰にも危険が及ぶことがないと確信しているために、その咎から解放されたのですわ?」


 そうか、あの時以来なのか。俺は自分の身を犠牲にしてアマノを救ったが、その時に、徒党(パーティ)メンバーのひとりが死んでいるんだもんな。あれは徒党(パーティ)の中の誰かが悪かったわけじゃない。そして、徒党(パーティ)のリーダーである団長自身も選択肢を間違えたわけじゃなかった。ただ、運が悪かった。そうとしか言いようがなかった出来事なんだぜ?


 しかし、それでも団長はあのときの徒党(パーティ)の司令塔としての責任を感じていたのだろう。その責任の重さゆえに団長は戦闘中に笑えなくなったのだと。


「お父さんー。どうしたのー? 難しい顔なんかしてー?」


「いや、なんでもねえよ。ちょっと、昔のことを思い出してだけだ」


「アマノさんが言ってる、お父さんが大怪我した時のクエストって、不運な事故が重なったって聞いてるよー?」


「ああ、そうだな。確かにアレは不運と言えば不運だったな。だが、団長はそれでも徒党(パーティ)の司令塔だったんだ。悔やんでも悔やみきれない思いってもんがあったんだろうな」


「ふひっ。アレばかりはどうしようもなかったのでございます。あの宝箱の罠を解除しようとしていたのは、ここ五畿(ファイブ・キャピタル)では一番の腕利きと名高い【開けゴマ(オープン・ザ・ドア)】の二つ名持ちの男だったのでございます」


「あの伝説の中の伝説の男ですねウキキッ。あの男の前ならば、股を開かぬ女と宝箱は居ないとまで言われた、ゴエモン殿ですウキキッ。彼が宝箱の罠の解除に失敗したのは運命のいたずらとしか言いようがないのですよウキキッ」


「なんだか、女性としては腹ただしい二つ名だねー。何、その股を開かぬ女が居ないとかー。死んでくれたほうが済々するんだけどー?」


「うふふっ。確かにゴエモンさんは自分が色男であることを自慢にしていたのですわ? ですが、宝箱の罠を解除させたら、ここら一帯ではあの男の右に出る男は居ないと言われていた男ですわ? 女の身から言わせてもらえば、死んでもらっても、別に悲しいうとも何とも思わないのですわ?」


「まあまあ。死んだ奴をそんなに悪く言うなって。確かに女たらしで5股をかけているような最悪な野郎だったけど、罠の解除だけは天才だったんだ。あの天才が解除に失敗するような罠なんて、逆にあの時くらいだろうって思えるぜ」


「ふひっ。5股ではないのでございます。8股なのでございます。あいつは本当に女性の敵なのでございます。あいつが罠の解除に失敗したあと、呼び出されたモンスターに、アタマからぱっくり喰われたのは、ちょっと、不謹慎ながらも、ぶふっとなってしまったのでございます」


「笑い事じゃねえぞ。俺もあいつに喰われかけたんだぞ? ミツヒデ。右腕から右の脇腹あたりまでをズタボロにされて、俺はこれで冒険者稼業引退かもって諦めかけたんだぜ?」


 いや、その前に、自分の命の心配をしろよってツッコミをもらいそうなんだがな?


「本当にツキトが私を庇ってくれたのは嬉しいのでしたが、あの時は、頭の中が真っ白になったのですわ? アレに見つめられて、失禁して、腰が抜けてしまったのですわ?」


「えっ? アマノさんが失禁して、腰が抜けるって、いったい、どんなモンスターだったのー? そんなに恐ろしい相手だったのー?」


「あれは思い出したくもないのですわ。ツキトが噛みつかれ、その状態からも、ツキトはアレに反撃を行いましたわ。ツキトの奮戦により出来た隙を狙って、団長とカツイエさんのコンビネーション業で討ち果たしたのですわ。でも、アレが何かなのかは、未だにわかっていないのですわ?」


「ああ。あの後、記録型魔法首輪(メモリ・ペンダント)を冒険者ギルドの検査機にかけても、なんだか読めない言葉で名前らしきモノが書かれてて、結局、正体不明だったしな。ありゃあいったい、なんだったんだ?」


「ふひっ。わからないのでございます。大きな口が三つ、眼が六つ。腕は6本。なのに足は2本。体臭は形容しがたいような吐き気のもよおすモノ」


「やめてほしいのですわ! 思い出したくないのですわ!」


 アマノが焼肉を食べる箸を止めて、自分の両手で両腕を押さえつけ、身体を少しだけ震えさせている。しまったなあ。アマノがここまで拒否感を示すってことは、未だに、心の中の傷として残っているってことか。


「うわあー。嫌だなあー。あたし、そんなモンスターに出くわしたくないよー」


「まあ、安心しろ、ユーリ。アレがあの時以来、目撃されたって情報は冒険者ギルドには入って来てないぜ?」


「本当ー? あたし、嫌だよー? そんなモンスターが再び現れて、お父さんをまた食べようとするなんてー」


「だから、大丈夫だって。そもそも、あのモンスターは団長とカツイエ殿が討伐してくれたんだしさあ。ちゃんと検査機でも討伐完了って結果も出てるんだしさ?」


「うううー。それでも心配だよー。お父さんー。今夜は一緒のベッドで寝ても良いー?」


「ま、まあ、俺は構わないけど、アマノと3人だと、さすがにダブルベッドでも手狭だなあ?」


「ふひっ。もげてしまえば良いのでございます」


「ウキキッ。本当にもげてしまえば良いのですウキキッ」


「ん? ミツヒデ、ヒデヨシ。なにか言ったか?」


「いえ、何でもないのでございます。ねえ? ヒデヨシ殿」


「ウキキッ。そうですね、何でもないですよ? ミツヒデ殿」


 おっかしいなあ? 確かに、今、この2人から殺気を感じたような気がするんだけどなあ?


 おっと、それより、団長とバンパイア・ロードとの闘いを見守らないとな。ちっ、団長、何やってんだよ。押されっぱなしじゃねえか!


「おい、団長! 隕石落とし(メテオ・バール)でも喰らわせて、さっさと片をつけてやれよ!」


「何を言っているんですか? ここに半径1.5キロメートルのクレーターでも作れって言うんですか? さすがに、アマノさんの風の断崖(ウインド・クリフ)でも防ぎきれるものじゃありませんよ?」


「うわっ。こわっ! 2年前は半径1キロメートルって言ってたじゃんかよ!」


「2年前はまだ土の魔力がB級でしたからね。去年の春先にめでたくA級に上がりました。そういうわけで、隕石落とし(メテオ・バール)の威力も跳ね上がったというわけですよ」


「つくづく団長ってニンゲンをやめているよな。おい、ユーリ。間違ってもA級冒険者なんか、目指すなよ? 婿の貰い手がなくなるからな?」


「あたしは別に好きになる男性は自分よりも強くなくちゃダメだとか思ってないよー? むしろ、あたしが守ってあげたいって思える男性のほうが良いよー?」


「ダメだ。それだと、ユーリと付き合う男がヒモになるのが確定だ。せめて、団長くらい強い男を選べ。良いな?」


「うふふっ。それだと、ユーリの選ぶ男性がニンゲンじゃなくなりますわよ? それでも良いんですか?」


 あっ。よくよく考えたら、そうだな。やはり婿に来てもらうなら、ニンゲンのほうがよっぽど良いな!


「団長ー! 闘ってるところ悪いんだけど、団長くらい強くて、団長みたいにニンゲンをやめてない年頃の男っていないかなー!?」


「ツキトくん? 先生、今、必死に闘っているので、そういうことは、聞かないでもらいますかね!? くぅぅぅ! ついにカタナの刀身が残り三分の一になってしまいましたよ。これじゃあ、もう、魔力を乗せることなんて出来ません!」


 なんで、あんなボロボロのカタナでまだ闘えてんだ? 団長は。やっぱりA級冒険者ともなると、闘い方自体がニンゲンをやめているんだろうなあ?

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