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ー薫風の章22- 神帝暦645年 8月15日 その15

「でだ。バンパイア・ロード・マダムをユーリが討伐したのは事実なんだ。だから、報奨金として、金貨1500枚が出たってわけだ。これ、どうするよ?」


「まあ、庶民なら30年は確実に働かなくても生きていけるほどの収入ですわ。いっそのこと、冒険者稼業を引退してしまいます?」


「いやいや。これはユーリの報酬だから、俺たちが使っちゃだめだろ。あいつの魔術師サロンの登録とか、あと結婚式とかに使うべきじゃね?」


「うふふっ。ツキトを試しただけですわ? もし、私の案に乗ろうものなら、ツキトに離縁状を叩きつけるところでしたわよ?」


 ふううう。とんでもないこと言い出すな、アマノは。


「あんまり男を試すようなことは言ってくれるなよ? で、これをこのまま、ユーリの口座に振り込んでもらうわけにも行かないから、一旦、俺の口座に振り込んでもらうようにヨンさんには頼んだんだけどさあ?」


「そうですわねえ。別口で口座を作ってもらったほうが良さそうな気がするのですわ? ツキトを信用してないわけではないのですが、ごっちゃにしては、金銭感覚が狂いそうですし」


「なんか、専用の新しい口座を作るのは良いけど、こんな量の金を移動させたりしたら、税務署が怪しまないかなあ?」


「うふふっ。モンスター撃退や討伐の報酬は基本、源泉徴収されているので、さらに課税されることはないのですわ?」


 【欲望の団(デザイア・グループ)】では25歳未満かつD級冒険者以下だと、モンスターの撃退・討伐の報酬に関して、一門(クラン)にその1~2割を納める必要性は無い。クエストも、もちろん、そうである。団長が以前、言ってたように、一門(クラン)と言うモノは下のモノを喰わせていくと言う一面があるからだ。


 まあ、このシステムのおかげで、今回、ユーリのバンパイア・ロード・マダムを討伐したと言うことは、団長に知られずに済むわけなのだが……。


「ただ、このお金を元手に事業を開始するとなると、色々と問題が出てきそうですが」


「うーーーん。塩漬け確定の貯金ってことになるのかあ。まあ、俺の金じゃないし、ユーリが20歳を超えた辺りに本人に事情を説明して、譲渡すれば良いか」


「それが良いと思うのですわ。それと、もうひとつ。ユーリにはマダムを倒したことを伝えなくて良いのかしら?」


「いや。実はだな。マダムに精の解放(ドレイン・リターン)を喰らったあとにユーリにとってはちょっと精神的にきついことが起こってだな。それを思い出させるきっかけになると、本人としてはつらいことになりそうだからさあ?」


「ああ、なるほど。察したのですわ? ツキトがユーリに襲われたわけですわね? あらあら、私は寝取られの趣味ではないのですわ?」


 アマノの言いに思わず俺は口に含んでいた紅茶をブフーーー! と吹き出す。


「げほっげほっ! そうじゃねえよ! ユーリが自分で自分を慰めたんだよ! 俺は全くもって、ユーリには指1本、触れてないからな!?」


「うふふっ。冗談ですわ? しかし、そんなことをしていたのを思い出すのは16歳の年頃の女性としてはショックは大きいですわ。わかったのですわ。それを受け入れられるであろう、20歳を過ぎた辺りにユーリにマダムを倒したことを教えたほうが良さそうですわ?」


「そうだな……。じゃあ、そうしようか。はあああ。気が重いぜ。団長には口が裂けても言えないし、ユーリにも、もちろん、本当のことも言えないし」


「色々と大変ですわね。でも、ひとりで考え込まないほうが良いのですわ? ツキトには私が居るのですわ? 困った時にはいつでも相談に乗りますわ?」


「ああ。そこんところは頼りにしているぜ? アマノ」


 俺はそこまで言って、再び、紅茶の入ったカップを手に取り、その中身をずずずうと飲む。アマノも俺につられて、紅茶を飲むのであった。


「あっ。ところでよ。バンパイア・ロードとそのマダムが気になることを色々と言ってたんだけどさ。そのひとつに日蝕がいつ起きるかってのを調べている機関があるって言ってたんだよ?」


「うん? それはバンパイア社会の中でのことを指しているのかしら?」


「いや、そうじゃないんだ。ニンゲン社会の中で、それを調べている機関があるんだってよ。なんだったかなあ? オンミョウ座? だったかなあ?」


「オンミョウ座? さあ、私にはわからないのですわ? 団長に聞いてみたら良いのでは?」


「団長かあ。団長でも知っているのかなあ? 俺としては、アマノが魔術師サロンに登録しているから、もしかして、そこに関係する機関なのかな? って思ったわけよ」


「魔術師サロンは確かに古今東西の魔法に関しての研究をするところではありますが、日蝕がいつ起きるかの研究を(おこな)っているとは聞いたことが無いのですわ?」


「そうか。じゃあ、魔術師サロンじゃなくて、宮廷魔術師会のほうに当たったほうが良いのかなあ? でも、あちらは、貴族の出じゃないと、出入りすら許されてないようなところだしなあ?」


「そうですわね。魔術師サロンは庶民でもお金と魔力さえ備わっていれば、所属は可能なのですわ。お金が必要なのが腹立たしいところなのですわ?」


 あっ、アマノがちょっと怒っているぞ? そりゃそうか。B級冒険者が1年かけて稼ぐ収入をつぎ込まないと、入会登録させてもらえないところだもんな。


「なんで登録料だけで金貨100枚も請求してくるんだろうな? まあ、別に年会費を払えとか言われないだけマシと言えばマシだけどさあ?」


「さあ? なんでなのかは、魔術師サロンに所属している私でもわからないのですわ? しかもその登録料がどこに消えていくのかも、会員には知らされていないのですわ?」


「マジかよ。一応、マツダイラ幕府御用達の研究機関だろ? 魔術師サロンって。そんなところで、使途不明金なんてもんだして、よくもまあ、幕府からの査察が無いもんだなあ?」


「逆説的に、幕府の(おこな)う事業にそのお金の一部が回っているとも言えるのですわ。だから、幕府からの査察が無いということですわ?」


「うっわ。闇が深いな。魔術師サロン。ユーリが将来、所属することになると思うとゾッとするぜ」


「まあ、研究にお金がかかるのは事実なのですわ。そこに登録料が回っていくのであれば、私としては別に異論はありませんわ。でも、それだけではなさそうなところにイラッとくるのですわ」


「ちなみに研究費って、幕府から出ているんだったよな? 魔術師サロンって。そんなに火の車なわけなの?」


「研究室によって、回される予算は違ってくるのですわ。除湿器を発明した研究室には多額の予算が回されているようですが、他のところは逆に予算が減ったみたいで、嘆いていますわ? 私の研究室の魔導士もさぞかし嘆いていたのですわ? ざまあ見ろと言った感じですが」


「自分とこの研究室の(おさ)をざまあ見ろって言うのはどうかと思うのですが? アマノさん」


「知りませんわ。もし、同じ研究をしていないのであれば、御免こうむる性格の悪さをしているのですわ」


「性格はアレでも、一応、魔力はA級なんだろ? その魔導士さまはよ」


「魔力のランクだけで魔導士になれるかどうかが決まること自体に納得がいかないのですわ。研究者として有能な魔力B級の魔術師なら、結構な数が居るのですわ。だけど、魔力A級ともなれば、数は限られるのですわ。比較的に言えば魔力B級の魔術師が100人に対して、魔力A級のニンゲンは1人の割合なのですわ。しかし、産まれもっての才能が左右するので、なりたくてもなれないヒトが多いのですわ。しかし、冒険者の場合はB級冒険者がA級冒険者になるためにはニンゲンをやめればいいだけですわ」


「うーーーん。ニンゲンをやめればA級冒険者になれるかあ。なんか嫌な表現だなあ!?」


 A級冒険者はヒノモトノ国に現在12名が存在する。魔力A級の魔導士に比べれば、その数は圧倒的に少ない。だが、A級冒険者が少ないのは、ニンゲンをやめるレベルまでに肉体と精神を酷使したがるニンゲンが少ないだけだとも言えるだろう。


「団長とカツイエさんのニンゲンのやめっぷりを視ればわかるのですわ。団長は火、土ともに魔力A級なのですわ? カツイエさんに至っては、ニンゲンでは不可能と言われた火、土、水、風の四元全ての魔法を使えることですわ? ただし、魔力はE級ですが」


「うん。あいつら2人、確かにニンゲンをやめているな。団長の隠し業である、火と土の合成魔法【隕石落とし(メテオ・バール)】なんて、国から許可が下りなきゃ使っちゃいけないって言われてるもんなあ?」


「めちゃくちゃですわよ。なんなのですわ? 町や地方の都市程度なら一撃で壊滅できるほどの威力を出せると言われているのですわ? 団長はニンゲン族の最終兵器か何かなのかと思ってしまうのですわ?」

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