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ー薫風の章18- 神帝暦645年 8月15日 その11

 な、なんだ!? 太陽が隠れた同時に感じる、この異常な魔力はいったい何なんだ!? って、ユーリ! なんで素っ裸になってんだよ!


「エヘヘー。エヘヘー。身体が熱いヨー。心がふわふわスルルルー」


「おい。ユーリ。なんで、裸になってんだ! とにかく服を着ろっ! 俺の眼のやり場に困るだろうがっ」


「うるさいナー。さっきから、不快な音を出さないでヨー。この這いつくばるだけの何かのくせニニニー」


 どうしたんだ、一体? なんか、ユーリが正気を失っているように視えるんだが? しかも、俺が感じる異常な魔力はユーリのほうから感じるぞ?


 俺は思わず、ごくりと喉を鳴らしてしまう。決して、ユーリの裸体を視たからじゃないぞ? 断じて違うぞ?


 ユーリの身体を包み込むように、ユーリの周りを何か黒いモヤのようなモノが視えるからだ。しかも、視ていて悪寒しか感じないのである。だから、俺はごくりと喉を鳴らしたのだ! 勘違いするんじゃねえぞ!?


「おーほほっ。精の解放(ドレイン・リターン)のせいで、性格までもが変わってしまったようね。おかしいわね。普通ならエッチが大好きな娘に変わるだけなのに。旦那の精力を与えたのが悪影響を与えたのかしら?」


「だから、うるさいって言ってるのニー。あたしはひとりエッチの時は静かに集中してしたいノー。それ以上、何か不快な音を出すなら消しちゃうヨヨヨー?」


「あら、いやだわ。バンパイア・ロード・マダムを消すなど、傲慢な言いだわ? これはあたくしが直々にしつけを与えたほうが良いのかしら?」


 やべえ! ユーリとマダムが一触即発状態だ! ユーリ、本当にどうしたんだ!


【チギレ】


「ん? 何がチギレなのかしら? やはり、あたくしの旦那の精力を受けて、頭がおかしくなったのかしら?」


【チギレ】


「ううむ。ニンゲンのではなく、【根の国(ルート・ランド)】の住民の精力が悪影響を与えているのかも知れないのである。もしや、この娘、心が壊れてしまった可能性があるかもしれないのである」


【チギレ】


「まったく、さっきから、チギレ、チギレとうるさい小娘なのですわ? あなた。この小娘を黙らせても良いかしら?」


【千切れ!!】


 ユーリがそう口から言葉を発したその瞬間であった。天から幾筋もの稲光が堕ちてくる。いや、幾筋どころではない。数百、数千の轟く音を伴った閃光の束が天から堕ちてくるのだ! その閃光の束がマダムの頭上に降り注ぎやがった!


「ひぎいいいいいいいい! いだい、いだい、いだいいいいい!」


「な、なんだ。今のはいったい何なんだ!? 辺りが光に包まれたと思った次の瞬間にはバンパイア・ロード・マダムの半身が閃光の束に引き裂かれているぞ!?」


 マダムの左半身がズタボロにされて、そこかしこから、血を噴水のように吹き出している。さらに左腕、左足が完全に炭化しており、音も無く、サラサラと崩れ落ちていくのである。


「な、なんたることなのである! 今のは【神鳴り】なのである! そんな、馬鹿な! 【神鳴り】を何故、この小娘が使えるのであるか!?」


 バンパイア・ロードが眼を白黒させている。それに今、何て言いやがった? 【神鳴り】だと? そんな、まさか。ニンゲンであるユーリが【神鳴り】を具現化させたって言うのか?


「いだい。いだい。許ぜないわ。ニンゲンの小娘の分際で、わたくしの身体に傷をつけるなんて許ぜないのですわ!」


 左半身を失ったことにより、地面に突っ伏しているバンパイア・ロード・マダムが、まるで視線のみで相手を殺すかの如くに残った右眼でユーリを凝視してやがる。


火の魔犬(ファー・ベロス)召喚よ! 地獄の魔犬に食いちぎられてしまいなさい? おーほほっ!」


 マダムのやつめ! 火の犬(ファー・ドッグ)の上位種、火の魔犬(ファー・ベロス)を呼び出しやがった! しかも10匹もだと? ふざけんじゃねえ!


【千切れ!!】


 ピシャ! ドンガラッガッガーーーン!


 う、嘘だろ? またもや、辺りが幾千もの稲光で包まれたと思ったら、あれだけいた火の魔犬(ファー・ベロス)の群れがほぼ全滅だと!? 生き残った1匹がキャンキャン言いながら森に逃げ込んでいきやがった! 火の魔犬(ファー・ベロス)が逃げ出すなんて聞いたことなんかないぞ!?


「うるさい犬っころだヨー。ああー、一匹逃げちゃっター。まあ、いいヤヤヤー」


「ひ、ひぎいいいい! 火の魔犬(ファー・ベロス)の群れが一瞬で全滅なんておかしいわよ! あなた、一体、何モノなのよ!」


 マダムが地面に突っ伏しながらガクガク震え上がっている。妖艶な顔付きなど、どこかに吹き飛び、今や、顔面は蒼白と化している。そりゃそうだ。こんな出鱈目と言って良い力を見せつけられて、顔から生気を失わないモノがいるわけがない。


「さあ、次はきみの番だヨー。そろそろ、その不快な音を出せなくさせてあげるヨー? エヘヘー?」


「やめて。お願いだからやめて! あなたにひどいことをしたのはあやまるから! だから、許じ……」


【千切れ!!】


「ぴいいいいぎゃああああああ!」


 それがマダムの最後の言葉、いや、悲鳴であった。マダムは真っ黒な空から降り注ぐ閃光の束に晒されて、幾千にも千切れ飛ぶ。肉塊、いや、肉片になり果て、さらにその肉片すら千切れ飛ぶ。


 やべえ。これは本当にやべえ。ユーリ。一体、お前、どうしたんだ? なあ?


「アア。これで不快な音が消えたヨー。ゆっくり、ひとりエッチができるヨー。まったく、あたしの邪魔をしてほしくないヨー? エヘヘー?」


 ユーリはそう言うと、その場に寝転がり、ハアハアと荒い吐息をあげはじめ、行為に及びだす。


 俺とバンパイア・ロードはマダムが千切れ飛んでしまったことに恐怖しか感じず、身動きができない。



 ――ユーリは邪魔をするモノが居なくなった後、身体の火照りを収めるために、草むらの上に寝そべり、自らの手で自分の身体を慰める。時折、少女には似つかわしくない熱い吐息をハアハアと吐くのであった。行為に及んで10分も経つ頃には満足したのか、ぐったりと草むらの上でスヤスヤと眠りにつく。バンパイア・ロードとツキトはユーリの自慰行為を見て興奮するわけがなかった。ただただ、ユーリの怒りの矛先が自分たちに向かないことを祈っているだけであった――



 それから10数分後、ユーリは尽き果てたのか、荒い呼吸も収まり、ただグッタリと草むらの上で眠り込んでしまうのであった。


「おい。バンパイア・ロードさんよ。さっきのはいったい、何だったんだ?」


(われ)にも理解が出来ないのである。だが、ひとつ言えることはこの娘が【神鳴り】を具現化させたことなのである……」


「そんなの具現化できるニンゲンなんて視たことも聞いたこともないぞ。ユーリはいったい、何モノなんだ」


 俺とバンパイア・ロードは声を潜めて、相談しあう。バンパイア・ロード・マダムが千切れ飛んだ原因は、彼女がユーリに対して敵愾心を持っていたのと、もうひとつ、がなりちらしていたことだ。だからこそ、俺とバンパイア・ロードは、ユーリの機嫌を損ねぬよう、小声で会話をしていたのである。


(われ)から視れば、そこの娘はニンゲンそのものである。それ以上でも、それ以下でもないのである。だが、ああなった原因の一因として、(われ)の、いや、【根の国(ルート・ランド)】の住民の精力を受けたことだと思うのである」


「何か? ユーリは特異体質とかそういった類を持ったニンゲンなのか? そう言いたいのか?」


「【根の国(ルート・ランド)】にある禁忌書庫(タブー・アーカイブ)で調べぬ限りは、この娘に起きたことはわからぬのである」


「そこに行けば、ユーリに起こったことがわかるっていうのか?」


「何を言うのである。お前たちニンゲンも(われ)らと同じように禁忌書庫(タブー・アーカイブ)を持っているはずである。イニシエの歴史を綴っているのは(われ)らだけではないのである」


 同じような書庫? イニシエの歴史を綴っている? 一体、何を言ってるんだ? こいつは。


「ふむっ。やはりお前たちニンゲンは情報を隠蔽されているのであるな。あの小娘のことを調べたければ、(われ)が言うところの禁忌書庫(タブー・アーカイブ)を探すのである。そうすれば、きっと、何かわかることがあるはずなのである」


 書庫。書庫? 禁忌書庫(タブー・アーカイブ)?? うーーーん? ダメだ。何かあったような気がするが思いだせねえ!


「ふあああ。よく寝たー。あれー? お師匠さまー。あたし、何でこんなとこで寝てたんだろー? 今、何時ー?」


 俺とバンパイア・ロードがユーリの身に起きたことについて、ああでもないこうでもないと言いあっていると、ユーリが目覚めたのである。


「ユーリ! 正気を取り戻したのか! 良かった。ユーリがおかしくなっちまったのかと心配したぜ!」


 ユーリを包み込むように発生していた黒いモヤはどこかに吹き飛んでおり、同時に、さきほどまで感じていた異常な魔力もユーリからは感じなくなっていたのである。


「お師匠さまは何を言っているのー? って、なんで、あたし、素っ裸なのー!? お師匠さま、説明してーーー!」


 ユーリが両手で胸と股を隠している。ほっ。どうやら、精の解放(ドレイン・リターン)の影響も抜けおちて、羞恥心が戻ってきたってわけか。ったく、一時はどうなるかと思ったぜ。


「何、ほっとした顔してるのよー! それよりもあっち向いててよー!」


 ユーリが羞恥心に晒されてか、顔を真っ赤に染めながら、半泣きで俺に向かって、わめき散らしてくる。


「わかった、わかった。ほら、あっち向いてるから。皆が起きだす前にとっとと服を着てくれよ? いくら自分の娘の裸だからって、俺も男だからな?」


「うっさいーーー! 娘に欲情するんだったら、お師匠さまのいちもつを風の柱(ウインド・ピラー)でズタズタにするんだからねーーー!」

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