ー薫風の章14- 神帝暦645年 8月15日 その7
12個の魔法陣から発生する風の柱に乗って、炎の柱の魔法から発生した炎が大きく渦を巻きながら、バンパイア・ロードの身を焦がしていく。そして、さらに炎の演劇によって生まれた炎の人形6体が次々とバンパイア・ロードに体当たりをしていく。
「ぐぬぬぬっ! やるのである! まさか、こんな合成魔法を編み出していたとは、想定外だったのである! 風よ、我を守るのである! 風の断崖! 風の断崖! 風の断崖なのである!」
バンパイア・ロードが必死に俺とアマノの合成魔法を防ぐために防御魔法を連打しているぜ! だが、てめえを俺は許さねえ!
「アマノ! 風の柱の威力を上げてくれ!」
「はい! 風よ、嵐となりて吹き荒れなさい! 風の柱発動ですわ! いつもの2割増しで行かせてもらいますわあ!」
アマノが呪符を肩下げカバンから取り出し、風の柱を発動する。それにより、さらに風の奔流の勢いを増していく。いいぞ、もっとだ、もっとだ!
「よっし、良い風だ! 俺もさらに炎の柱発動だぜ! 燃えちまえ! この歪んだ性癖持ちさんよおおお!」
「ぐおおお! 熱い! 熱いのであるっ! これほどまでの業火、なかなかに味わえないのである!」
風の奔流に乗り、炎が逆巻きながら天を衝くように上昇していく。それと共にバンパイア・ロードは片膝を地面につき、力尽きてぐったりしているご様子だぜ。
炎の嵐は今や、高さ15メートル近くの火柱となり、近くに居る俺たちの髪の毛や鎧下の服に引火してしまいかねないほどの高温を伴っていた。それから、さらに約5分が経過する。
へっ。火葬場に奴の死体を持っていく必要なんて無くなったな。さあ、灰も残さず、さっさと燃え尽きちまいな!
「ふひっ! ダメなのでございます! あいつはまだまだ健在なのでございます!」
へっ? ミツヒデ、お前は何を言ってんの? あの合成魔法の中心部は400度に達するほどの高熱と化してんだぞ? それで死なない生物なんて、この世に居るわけがないだろ?
「僕にはわかるのでございます! バンパイア・ロードはあの炎の嵐の中心部に居ながらにして、魔法を発動し続けているのでございます! いったい、身体に何枚もの呪符を巻き付けているのでございますか!?」
「いや、待てよ!? かれこれ5分近く、燃やし続けてんだぞ!? これを耐えきれるなんて、生物的にどう考えてもおかしいだろうが?」
「いえ、ミツヒデさんの言っている通りなのですわ。私の風の柱の流れを阻害している感じなのですわ。多分ですが、バンパイア・ロードはあの炎の嵐の中心で、同じく風の柱を発動させているのですわ」
「な、なんだって? じゃあ、直接には、あいつ自身は炎を喰らってないってことになるのか? だけど、熱はどうするんだ? あいつは熱を遮断できる何か特別な魔法を使えるって言うのか?」
「ふひっ。わからないのでございます。元々、熱に対しては強いのかもしれないのでございます。だけど、生きているとは思うのでございます。地面に膝をついてはいるのでございますが、奴の魔力を感じるのでございます」
なるほど、ミツヒデはこと魔力探査に関しては優れているもんな。俺はその点の才能はからっきしだから、この炎の嵐が吹き荒れている中では奴の魔力がどうとかはわからねえんだよな。ミツヒデの魔力探査能力は【欲望の団】でもトップクラスだ。俺とアマノの魔力が充満するこのフィールドでも、的確にバンパイア・ロードの魔力を感じ取っているのだろう。
「じゃあ。どうすんだ? このままだと、俺の魔力が先に尽きて、炎の嵐がただのいたずらな春一番な風になっちまうぜ?」
「ここは一か八かですけど、この炎の嵐に、さらに水の魔法を合成するのですわ。そうすれば、火の魔法と反発し、大爆発を起こせますわ」
「ばかやろう! そんなことをしたら、俺らまで吹き飛んじまうだろうが!」
俺は思わずアマノを叱責してしまう。だが、それでもアマノは引かず、俺に意見をしてくるのであった。
「私が全魔力を使って、皆さんに風の断崖をかけますわ。そうすれば、なんとかななるはずですわ」
「しかしだぞ? それでも、下手をすれば腕の一本は吹き飛ばされかねないんだぞ? 俺はお前が大怪我する姿なんて見たくないぞ!」
「ウキキッ。では、私も風の断崖を重ねがけしますウキキッ。そうすれば、魔法防御力は1.5倍には跳ね上がるはずなのですウキキッ!」
「ヒデヨシ。お前、生きてたのかよ! 精の吸収で身体の全ての精力を吸い取られたと思っていたぞ!?」
「ウキキッ。私の精力を舐めないのでほしいのです。ウキキッ。私の精力は通常の男性の3倍ですが、回復力も3倍なのですウキキッ!」
すげえ……。さすが、猿と言われる男だ、ヒデヨシは。あっちのほうも猿ってことかよ! しかし、これで火と水の魔法を合成しても、こちらの被害はかなり抑えられることになるぜ。だが、ひとつ問題がある。
「だけど、アマノとヒデヨシが風の断崖に全魔力を集中させるって言うなら、誰が水の魔法を使うってんだ? ま、まさか、アマノ。ユーリに水の魔法を使わせるつもりなのか!?」
「うふふっ。当たり前なのですわ? ユーリ以外、誰がそれをすると思っていたのですか?」
「しかしだな? 合成魔法ってのは経験とたゆまぬ実験が必要なんだぞ? それも反発しあう火と水の魔法を合成させるんだぞ? ユーリには荷が重すぎるぜ! 無茶にもほどがあるぞ!?」
俺がアマノに対して、珍しくも抗議を続けるのである。そりゃそうだ。ユーリの今の魔法の操作能力じゃ、水の魔法を発動させた時点で、ユーリだけが衝撃を受けて、吹き飛ばされる可能性のほうが断然に高くなるんだぞ!?
「お師匠さまー。あたし、やるよー! だって、そうしないと、皆、あのバンパイア・ロードに殺されちゃうんでしょー? じゃあ、やるだけやってみないと損だよー?」
「しかしだ。下手をすれば、火と水の合成魔法による反発の影響を一番喰らうのがユーリ、お前自身ってことになっちまうんだぞ。そんな危険なことをユーリに頼めるわけがないだろ!」
「うふふっ。気持ちはわかるのですわ、ツキト。ユーリの身は私が守ってみせるのですわ? だから、ツキトは私のことを信じてほしいのですわ?」
くっ。これしか方法がねえのかよっ! 何か別の方法がないのかよ!?
「ふひっ。ツキト殿、そろそろ覚悟を決めるべきなのでございます。バンパイア・ロードの魔力が高まってきているのでございます。奴はこの炎の嵐をどうにかするべく、動こうとしているのでございます」
「くそっ! おい、アマノ、ヒデヨシ。お前らの風の断崖を信じているからな。俺たち男性陣はともかくとして、アマノとユーリだけは大怪我するんじゃねえぞ?」
「うふふっ。そこはユーリだけでもではないのですか? ツキトが私に優しいのは良いのですが、娘の身の安全を第一にすべきですわ?」
「何を言ってやがる。俺が一番大事なのはアマノだ。その次がユーリだ。そこを勘違いしてもらっちゃ、困るぜ? よっし、ユーリ。合成魔法は座学でしか教えてないが、お前なら、多分、ぶっつけ本番でも出来るはずだ。大切なのはイメージだ。この炎の嵐に水の魔法が溶け込んで、大空へ舞い上がっていくのをイメージするんだ!」
「うん。よくわからないけど、とにかく、イメージが大事ってことはわかったよー! 水の魔法なら、なんでもいいのー?」
「うふふっ。水の洗浄あたりが良いんじゃないかしら? あの水の魔法は逆巻く水流を具現化するものですから、この炎の嵐と共に水が天に昇って行くイメージを湧かせやすいはずですわ? この炎の嵐は一見、規則性が無いように吹き荒れているように視えますが、じっくり魔力を探査してみれば、その魔力の流れがわかるはずなのですわ?」
「なるほどー。魔力探査でこの炎の嵐の流れを感じ取るんだねー。よっし、うむむむーーー。うむむむーーーー? うむむむーーー!? うーーーん、なんとなくだけど、こう、大きくて小さくて、膨らむようで、しぼんでいくようで、大空に昇って行く感じなのかー」
おいおい。この乱気流とも言えるような魔力の流れを微細に感じ取れるって言うのか? ユーリは。こいつはとんでもない魔法の才能を秘めてるんじゃないのか?
「あたしにも視える、視えるよーーー! アマノさん、ヒデヨシさん。風の断崖をお願いだよーーー!」
「風よ、私たちを守りなさい! 風の断崖発動ですわ!」
「うききっ! 風よ、我らを守る盾に! 風の断崖発動ですウキキッ!」
「水よ、あたしの想い描く通りに動いてー! 水の洗浄発動だよーーー! バンパイア・ロードめー! 吹き飛んじゃえええーーー!!」




