ー薫風の章 8- 神帝暦645年 8月15日 その1
「我が名はバンパイア・ロードである。貴様ら、頭が高いのである!」
ぐあっ! なんて威圧感なんだっ! あいつがしゃべる台詞を聞くだけで、身が縮こまる想いだぜ!
「ウキキッ! なんでこんな真昼間からバンパイア・ロードが出てきているんですか!? ウキキッ!」
「ヒデヨシ殿。これはまずことになったのでございます。B級冒険者2人だけではどうにかなる問題ではないのでございます!」
「うふふっ。買いかぶらないでほしいのですわ? 私は元B級冒険者なだけですわ?」
アマノ。今はそんなことを言っている場合じゃねえぜ! くっそ。バンパイア・ソンチョウ、バンパイア・チョウチョウならまだしも、こんなのC級冒険者の俺や、ヒデヨシ。さらにD級冒険者のユーリじゃ、バンパイア・ロードの邪視に対抗するのも難しいぜっ!
神帝暦645年 8月15日 午後3時。この日、俺が今までの冒険者人生において、まともに戦ってきたモンスターの中で1,2番を争うほどの強敵と相対することとなる。
そのモンスターの名はバンパイア・ロード。B級冒険者が主力の徒党でも無ければ、とてもではないが対抗することすら難しい相手である。俺はC級冒険者であり、A級冒険者の団長の荷物持ちとして、難易度B以上のクエストについて行ったりはしていたが、あくまでも荷物持ちだったので、バンパイア・ロードとの直接的な闘いは、人生で初めての体験であった。
今、【欲望の団】の昼組の徒党は、B級冒険者のミツヒデとアマノ。そして、C級冒険者の俺とヒデヨシ。そして、D級冒険者のユーリだ。討伐は難しいモノの撃退くらいは出来るだろうと、思っていたのだ。こいつが数々のふざけたことをしでかす前まではな?
「風よ、我らを守りなさい! 風の断崖発動ですわ! 嫌ですわ。いきなり【邪視】を繰り出してくるのは反則なのですわ?」
バキーーーンッ! と言うガラスが割れるような音と共に、緑の光の破片が俺たち5人の周りを飛び散らかるのである。これは、アマノがバンパイア・ロードの邪視を防ぐために風の魔法により防御結界を貼ってくれた成果でもある。
「お師匠さまー。【邪視】って何ー? そんなに危険なものなのー?」
「ああ。モンスターってのは上位のモノになると、敵対する相手の精神を支配するために特殊能力を使う奴がいるんだ。その特殊能力のひとつに【邪視】ってのがあるんだが、そいつは、バンパイア族が得意とする特技のひとつで、特に女性を自分の好きなように支配するって言う、欲望に忠実な力ってわけだ」
「なるほどー。バンパイア・ロードって、女好きなんだねー。これは気をつけないといけないよー」
「そうだ。うちの団長がモンスター化したら、あんな感じになると想っておけば良いわけだ。だが、なんでバンパイア族がこの太陽がさんさんと輝く昼間に現れてんだ? そっちのほうが大問題だろ?」
「ふむっ。ニンゲンよ。そなたたち、何故、我輩が昼間にこんな木陰もないようなところをうろついているかが謎なのであるか?」
「ウキキッ。出来れば、その疑問の応えを教えてほしいところですねウキキッ!」
「ならば応えるのである。我にもわからないのである!」
バンパイア・ロードが腰に手を当て、胸を張り、そう応えるのである。俺たち5人は思わず、ずっこけるのであった。
「おいっ! どういこったよ! なんで、怪奇現象たる本人がその理由をわかってないんだよっ!」
「うるさいのである。お前は本当に頭が高いのである。お前から殺しても良いのであるぞ?」
ぐっ! しまった。つい、威勢の良いことを言ってしまったぜ。俺だけに威圧を集中させてやがる、この野郎! ぐおおお。身体が地面に押し付けられる感じだぜ。睨みつけられているだけで呼吸困難に陥るぜっ。
「ふんっ。雑魚相手に怒り心頭では、同族から笑いものにされてしまうのである。すまないのである。少々、バンパイアげなかったのである。許せなのである」
うおっ。急に威圧が収まったぜ。いやあ、なんなんだ? こいつ。
「うふふっ。ツキトを雑魚呼ばわりとは、いささか口が過ぎるおっさん、いえ、おじいさんなのですわ? 少々、痛い眼を見せてあげましょうか?」
「ほうっ。貴様、我に喧嘩を売ろうと言うのであるか? 面白い。貴様の生き血を吸わせてもらおうなのである」
ちょっと、待てっ! アマノ! なんで、挑発なんかしてんだよ! せっかく、和みかけた空気が一瞬にして張り詰めただろうがっ!
「こうなれば仕方ないのですウキキッ。ミツヒデ殿。土の魔法で皆さんの物理防御力を上げてくださいウキキッ!」
「わかったのでございます。路傍の石よ、我らを守るのでございます! 石の鎧発動でございます!」
ミツヒデがそう口から力ある言葉を発し、俺たち徒党全員の防具の表面に砂や石で出来た防御膜を具現化させる。よっし、これで、バンパイア族のメイン攻撃である爪攻撃に対しては、ある程度の対策は出来たってことだぜ!
バンパイア族は、何故かはわからないが、ヒト型モンスターであるのに、武器の類は使わない。だが、その必要がないと言って良いのかどうかは判別しにくいのだが、バンパイア族は自分の二の腕から爪先までを鋼鉄かのように硬くすることができる。
その硬さは、やつらの爪と歯にも適用されるようで、革製の防具なら、軽々と引き裂くほどの威力を発揮するのだ。
「ふんっ。生意気なことをしてくれるのである。だが、その程度の石の鎧で、我の爪攻撃を防ぎ切れるとは思わないことである」
バンパイア・ロードがさも面白くないと言った顔つきで俺たちにそう宣言してくるのである。
「アマノ殿、ツキト殿、そしてユーリ殿。ミツヒデ殿の石の鎧なら、2,3発はバンパイア・ロードの爪攻撃は防げるはずなのですウキキッ! でも、奴には精の吸収と精の解放があるのですよウキキッ。常に距離を取ることを忘れないでほしいですウキキッ!」
「精の吸収と精の解放ー? どんな魔法なのー?」
ユーリがまたもやよくわからないと言った感じで、俺とヒデヨシに応えを求めてくる。
「うーん、魔法と言うよりは、モンスターのみが持つ特殊能力と表現するほうが正しいかもしれないな。ちなみに男が喰らうと腰砕けになって、女が喰らうとスケベになる」
「えええー? なんか、それっておかしくないー? なんで女性が喰らうとその、ええっと、エッチになるのー?」
「うふふっ。それは女は精を搾り取る存在だからなのですわ? ちなみに男は精を出す存在なのですわ? だから、そういったバッドステータスになるわけなのですわ?」
本当、こればっかりは謎だよなあ。精の吸収で男の精を吸い込むくせに、男のバンパイア族ってのはニンゲンの女をスケベにするのが好きなんだ? 普通、逆じゃねえのか?
「ふむっ。そこのお前、疑問に思っているようだな? 何故、我が精を男から吸い込むのに男好きではないのかと?」
ちょっと、ひとの心を読むのはやめていただきたいのですがねえ? これも、上位モンスターのなせる特殊能力と言ったところなのか?
「心を読まずとも、お前の胡散臭いモノを視る顔付きでわかるのである。これでも、齢300を数えるのである。でだ。齢300以上ともなると、自分で出せる精などほとんど枯れ果ててしまうのである。だから、ニンゲンの男から精をいただいて、女に分け与える分を補充するわけなのである」
うわあ。なんか聞きたくない情報を手に入れた気分だわあ。今、こいつから得た情報を、魔術師サロンに売ったら、高い値で買い取ってくれるんじゃね?
「ウキキッ。裏の取れてない情報と言うことで、受けつけてはくれないでしょうウキキッ。それこそ、生きたバンパイア・ロードでも捕まえてこいと言われるのがオチになりますよ? ウキキッ」
そりゃそうだろうなあ。そんな確証もない情報をあのドケチな魔術師サロンが受けつけて、さらに報酬をくれるとも想えないもんなあ?
「危ないのですわ! ツキト!」
ん? なんだ、アマノ? って、うわっ! なんで俺の目の前にバンパイア・ロードがいやがんだ! しかも、俺の股間に手を当ててくるんじゃねえよ!
「精の吸収なのである!」
うおおお! やめろ。俺の精が吸い取られるううう。イヒイイイイイ!
「ふう。見た目40歳のニンゲン族と思うのであるが、なかなかに濃い精を受け取ったのである。これは、どうやら、ここ数年の内に、若い女性と結婚したものと思われるのである。やはりニンゲン族は面白き存在なのである」
い、いかん。人生40年。精の吸収ってのは喰らうのはこれで3度目だが、まさか、バンパイア・ロード直々に俺の相手をしてくれるとは思わなかったぜ……。腰砕けになっちまって、これじゃあ、まともに動けやしねえ!
「さて、次はもらった精を誰に精の解放で、渡してやろうかである。こいつの女よりも、関係ない女に渡したほうがより面白いことになるのであるな。フハハハッ!」
くそっ。なんて悪趣味な野郎なんだ、こいつは!
「よし、決めたのである。おい、そこの娘。お前に精の解放をしてやるのである!」
「えっ。えっ? えええ!? ちょっと、待ってよー! あたし、エッチな娘になるのはまだ早いよーーー! 助けて、お師匠さまーーー!」
「精の解放である!」




