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ー薫風の章 5- 神帝暦645年 8月12日

「ああ。しんどいぜっ! なんで岩がモンスター化してんだ? おかしくねえか?」


 俺は自分の槍に呪符を貼りつけ風の神舞(ウインド・ダンス)を唱え、槍に風を巻き付けて、目の前の小さい石やらこぶし大の大石が集まって出来た通称・岩の塊(ロック・マス)をぶん殴る。


 ガッキョオオオン!


 いてえええ! 硬すぎて、こっちの手のほうがしびれやがるぜ!


 神帝暦645年 8月12日。現在時間は午前11時だ。今日は大量の岩の塊(ロック・マス)が出現し、俺たちは、こいつら相手に四苦八苦することになる。


「先生、このために棍棒を用意しておいたんですよね。さらに石の鎧(ストン・アーマ)発動ですよ!」


 さすが団長。普通は自分の防御力を上げるために使う石の魔法を、手に持った棍棒にかけてやがる。って、待てよ?


「おい。団長。それなら、最初から石の神舞(ストン・ダンス)を棍棒にかけたほうが良くねえか?」


「ああ、それはですね。石の神舞(ストン・ダンス)だとカッチンカッチンのビッキビキになるからですよ。そんなので、岩の塊(ロック・マス)をぶん殴ったら、先生の手が血だらけになってしまいますしね。だから、硬さ調整がしやすい石の鎧(ストン・アーマ)を使ったほうが良いと言うわけですよ。そおれ!」


 団長が意気揚々と長さ1メートル余りの棍棒を両手で抱えて、それを振り回しながら、岩の塊(ロック・マス)の群れに突っ込んでいくのであった。


 なるほどなあ。さすがA級冒険者だわ。破壊力だけを考えたら石の神舞(ストン・ダンス)のほうがはるかに上だが、同時に自分の手へのダメージもでかいもんなあ。


 石の神舞(ストン・ダンス)は武器に石や鉄などの鉱石を纏わせることにより、武器の打撃力を大幅に増加させる魔法なのである。しかし、団長曰く、武器が柄の部分ごと、カッチンカッチンのビッキビキになるので、自分の手にもダメージが入ってしまう、まさに両刃の剣なんだそうだ。


「ねえねえー。アマノさんー。なんで魔法陣を描いているのー? しかも、それ水の魔法陣だよねー?」


「うふふっ。こういった動きがとろくさい岩の塊(ロック・マス)には、実は水の魔法を上手く使うと、面白い攻撃ができるんですよ。その前に風の断崖(ウインド・クリフ)を使いますわね? 石が飛び散ったりして当たったら大変なことになりますわ?」


 アマノがそう言うと呪符を4枚ポケットから取り出して、宙に放り投げる。そして、その整った唇を動かし、力ある言葉を放つ。


「風よ、私たちを守りなさい! 風の断崖(ウインド・クリフ)ですわ! 続けて、水よ、逆巻き、天に昇るのですわ! 水の洗浄(オータ・オッシュ)ですわ!」


「うわあーーー! 魔法陣の中に入り込んだ岩の塊(ロック・マス)が内側から水を吹き出しているよー? って、うわあーーー! はじけ飛んだーーー!」


 ユーリが驚いている通り、アマノは魔法陣に入り込んだ岩の塊(ロック・マス)を内側から砕けさせるために水の魔法で逆巻く水流を具現化させたのだ。相変わらず、えぐい倒し方をしやがるぜ、アマノは。水の魔法でも攻撃に使えることをユーリに実戦で視せているんだろうけど、これが魔法生物であるモンスターでなければ、視るに堪えないモノになっちまうわ!


「って、あぶなっ! ちょっと、アマノ! 水流が速すぎないか? 岩の塊(ロック・マス)の破片が、そこら中に飛び散ってんだけどよ!」


「うふふっ。だから、破片で怪我をしないようにと風の断崖(ウインド・クリフ)を先にかけておいたのですわ?」


「あれれー? でも、風の断崖(ウインド・クリフ)って、魔法防御力を上げるためのものだよねー? なんで、石とか岩とかその破片を防げるわけなのー?」


 ユーリが飛び散る岩の塊(ロック・マス)の破片が、風の断崖(ウインド・クリフ)によって出来た風の防御壁にガツンガツン当たりながらも弾かれていく姿を不思議な顔つきで視ているのである。


風の断崖(ウインド・クリフ)は元々は魔法をはじくための風の魔法なのですが、その風の風量を大幅に増やすことによって、物理的な攻撃を防ぐこともできるのですわ? まあ、その分、魔力を多く消費してしまうため、多用するには向かないのですわ?」


「へえええーーー。さすが元B級冒険者だよーーー。お師匠さまだと絶対にこんなこと思いつかないよーーー!」


 うるせえ! ユーリ。俺は思いつかないんじゃない! 思いついても、こんなの俺じゃ使いこなせないよ!? ってなっちまったから、やらないだけだ!


「ツキトのように思いつくことはあっても、実際にやることができるひとはなかなか居ないのですわ? そもそも、これを思いついたのはツキトなのですわ。でも、ツキトがこれをやろうとすると、ツキトの全魔力の4分の1を持っていかれてしまいますもの」


「そうなのかー。お師匠さまは風の魔力はC級だもんねー。アマノさんはB級だし、そもそもの魔力貯蔵量が違うもんねー」


 そうなんだよなあ。発案自体は俺なんだよな。風の断崖(ウインド・クリフ)で、物理防御を上げれないかと考えたのは。だけど、この魔法1回で自分の全魔力の4分の1も持っていかれたら、戦闘継続力が駄々下がりになっちまうってことで諦めたんだよなあ……。


「先生、良いこと思いつきましたよ? 石の鎧(ストン・アーマ)風の断崖(ウインド・クリフ)と掛け合わせるんですよ。そしたら、自分の身体から周囲2メートルを飛び回る石の群れで囲うことができそうですよ?」


「団長、それ、前に俺とやってみたじゃねえか。あの時、どうなったか、覚えてないのかよ?」


「確か、風と土の魔法が反発しあって、先生とツキトくんの脳天にこぶし大の石がぶちあたったんでしたっけ?」


「覚えてるんなら、二度もおんなじことをさせようとするんじゃねえよ!」


「いやいや。今度は、反発させる方向を調整するんですよ。先に石の鎧(ストン・アーマ)を唱えるじゃないですか? そして、その内側から風の柱(ウインド・ピラー)を発動させるわけです。そしたら、外側に向かって、石が飛んでいき、敵にぶち当たるわけですよ」


 四元魔法にはそれぞれ相性と言うものがある。例えば、水と風の魔法は相性が良く、そのふたつで合成魔法を作り出しても、互いが相合わさり、魔法を使う者に多大なる恩恵を与えてくれる。


 しかしだ。土と風の魔法同士だと、相性は最悪であり、各々は反発しあうことになる。だが、その反発しあう力を上手いこと利用すれば良いのだが、そうそう簡単にいかないものだ。それなのに、団長は懲りずに土と風の魔法の合成魔法が作れないか? と思索していたりする。


「ああ、なるほどなあ。それなら、自分は大丈夫だな。って、団長は無事だけど、周りの味方にその石がぶち当たることにならないか?」


「あっ、それもそうでした。うーーーん。合成魔法って難しいですよねえ。でも、それだからこそ、面白い発見が色々あるわけなんですが。ちょっと、試しにやってみませんか?」


 まあ、俺としてもどうなるか見てみたい気持ちはあるよな。


「アマノ。すまないが、もう一度、風の断崖(ウインド・クリフ)を発動させて、俺に重点的に魔力をそそいでみてくれないか? もしもの場合に俺が団長にノックダウンされないようにさ?」


「うふふっ。面白そうなので、その研究にはぜひ参加させてもらうのですわ? ユーリ? ちょっと、岩の塊(ロック・マス)を誘導して、団長とツキトの方に向かわせてほしいのですわ?」


「うーーーん。とっても嫌な予感がするのは、あたしだけなのかなー? まあ、いいかー。じゃあ、ちょっと、5匹ほど、岩の塊(ロック・マス)を誘導してくるねー?」


 ユーリがとおおお! と掛け声を上げながら、岩の塊(ロック・マス)の群れに突っ込んでいくわけである。まあ、相手はうすのろいから、囲まれでもしない限りはユーリでも大丈夫だろう。


「では、ごほんっ。石よ、先生の身を包みなさい! 石の鎧(ストン・アーマ)発動です! そして魔力をふんだんに注いで、厚みを増してっと」


「団長ー、お師匠さまー! 岩の塊(ロック・マス)を5匹ほど連れてきたよーーー! あとはお願いねーーー!」


 ユーリはそう言いながら、俺たちの前方2メートルを走りながら横切っていく。うお。ぞろぞろと岩の塊(ロック・マス)がやってきやがったな。よっし、団長、いくぞ!


「風よ、集まりて、大空へ昇れ! 風の柱(ウインド・ピラー)発動だぜ! 団長がはじけ飛ぶのと同時に、てめえらも弾き飛びやがれ!」


 石の鎧(ストン・アーマ)に魔力を注ぎまくった団長がまるで石像となっていやがる。その内側に俺は風が螺旋を描きながら地面から大空へと上昇していく風の柱(ウインド・ピラー)を発動した。


 それが間違いだったということに、アマノの防御魔法すら貫通して、俺の身体にこぶし大の石が次々とぶち当たることにより、俺は気付くのであった。


 しかもだ。アマノの防御魔法は風の魔法であり、貫通しなかった小石はさらに反発を繰り返し、恐るべき破壊力へと生まれ変わり、俺と団長、アマノ、そしてユーリ、さらに岩の塊(ロック・マス)を巻き込んでいくのであった……。

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