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ー初体験の章52- 神帝暦645年 8月24日 深夜

「ねえ、アマノさん。まだ起きてるー?」


「うふふっ。どうしたのですわ? 初めてのクエストで舞い上がって眠れないのですか?」


 あたしは、夜、寝室の床に布団を敷いて、その上で寝ているお父さんがいびきをかき始めた頃を見計らって、アマノさんに質問したのー。今、たぶん、夜23時半を回ったころだと思うんだけど、うちは炎の照らし(ファー・ライト)に使う魔力が勿体ないって、お父さんが日ごろ口うるさく言うから、消灯時間は23時ちょうどなわけー。


「んっとねー。それはもちろんあるよー? 戦闘に関してはお盆進行の時にたっぷりやったけどー。それでも、初クエストは、これはこれで緊張の連続かなー?」


「それは仕方がないことですわ。お盆進行時のモンスター討伐は、間接的に国が依頼主となっていますが、今回は眼に視える範囲での依頼主相手のクエストですもの。私も初クエストの時は、すっごく緊張したものですわ?」


 ふーーーん。アマノさんもヒトの子なんだなーって、あたしは思っちゃったわけー。でも、アマノさんって、初クエストを受けたのは、あたしと同じ16歳の時なのかなー?


「ねー。アマノさんー。アマノさんは、E級冒険者の時には、もう初クエストを済ませちゃったわけー?」


「うふふっ。そうですわ。ユーリと同じく、16歳の秋ごろだったのですわ? 私は冒険者になってから1年目は、まだ、両親に持たされた手持ちのお金が残っていましたので、じっくりと師範の元で、弓と魔法の基礎を学んでから、初クエストに挑んだのですわ?」


 そっかー。アマノさんの実家って、大坂(オオ・サッカー)にあるんだもんねー。あっちは、草津(クサッツ)と違って、ヒノモトノ国の首都・平安京(ペイアンキョウ)に次ぐほどの大都市だし、いくら、アマノさんのおばあちゃんのお店が【黒い月曜日(ブラック・マンデー)】で潰れたからと言って、アマノさんの実家はなんとか食いつないでいけるだけの余裕はあったんだろうなー。


「アマノさんは今、30歳だから、もう14年も前になるんだねー。アマノさんは、ひとりで草津(クサッツ)にやってきたことに恐れとか後悔はなかったのー?」


「それはもちろん、ありましたわ? ですが、あのまま大坂(オオ・サッカー)に居ても、工場(こうば)の従業員か、大型商店の販売員、もしくは保険会社の事務員くらいしかありませんもの。それなら、いっそ、自分の可能性にかけて、冒険者ギルドで登録を行ったのですわ?」


 なかなか、アマノさんは豪胆だなー? あたしは真紅の双眸だから、お父さんに魔力の桁が高いことは教えてもらっていたからこそ、この世界に飛び込む勇気が持てたって言うのに、アマノさんは、そう言うのはまったくないんだからー。


 ちなみに、アマノさんの瞳は、黒色に少し青みがっかった程度なんだよー。だから、産まれもっての魔力の桁はアマノさんは低かったことがわかるのー。でも、アマノさんが相当に努力して、水、風ともに魔力B級まで跳ね上げたことが、モノをあまり知らないあたしでもわかるんだよねー。


「アマノさんはすごいなー。あたしは、もし、真紅の双眸じゃなかったら、この世界に飛び込むのは躊躇してたかもー」


「うふふっ。躊躇はするかも知れませんが、ユーリなら、きっと、そういうことは関係なく、冒険者ギルドの扉を叩いていたと思いますわ? だって、私が愛するツキトの可愛い愛娘ですもの。子供は親の背中を視て育ちますわ? ですから、私がツキトと一緒に過ごすようになってから、ユーリがどれほどに冒険者になりたがっていたかは、薄々と気づいていましたわ?」


「さすがアマノさんだねー。あたしは、お父さんから魔力の桁の高さは期待されていたけど、冒険者になることは望まれてなかったと思うのー。だから、お父さんにはそのことは言えなかったなー」


 あたしは、お父さんとアマノさんが結婚してから、2人がべったりくっついているのを、ちょっと、羨ましいなあーと思いながら、日々を過ごしてきたのー。お父さんとアマノさんが2人揃って、家の玄関を出て、クエストに旅立って行くのには、思わず、嫉妬しちゃったなー。


 あたしも家族の一員として、この2人の輪に入っていきたいなーって、少し前までは、よく悶々としたものだよー。


「アマノさんには、感謝しているんだよー? お父さんは、あたしに冒険者だけにはなるんじゃない。こんな、【きつい・汚い・危険】な職業には出来るだけ就いてほしくないって、いっつも言っていたからー。だから、アマノさんにしか相談できなかったんだよねー」


「うふふっ。ユーリが私に相談を持ち掛けてきたときは、本当に驚きましたわ? ツキトには黙っていてほしいとのことで、私とユーリの2人での隠しごとになってしまいましたが」


「だって、お父さんって、あたしに対して、少し過保護だったんだもんー。あたしが中等教育を受けていた時に、お前の父ちゃんは本当の父ちゃんじゃないって言われた時なんか、その男の子の家まで押しかけて、炎の演劇(ファー・シアタ)を6体も出して、その男の子を丸焼きにしそうになったんだよー?」


「うふふっ? それって、少しを通りすぎて、超絶過保護の気がするのですわ? ユーリはツキトに愛されているのね?」


「うーーーん。あたしとしては、頼れるお父さんだけど、あの時ばかりは、やりすぎかなー? って思っちゃったなー。だから、お父さんには逆に相談しづらくなったって言うかー?」


 本当、あの時、あたしが止めに入らなかったら、お父さんは、あの男の子を丸焼きにしていたんだろうなーって思っちゃうよー。幸い、その男の子は右腕の大やけどで済んだから良かったモノの、もし、殺してたら、お父さんはしばらく、臭い飯を食べることになっていたなー?


 でも、お父さんが、あたしのためにあそこまで怒ってくれたのは、素直に嬉しいかなー? えへへー。あたし、お父さんに愛されているんだなーって実感しちゃうよー。


「うふふっ? なんだか、嬉しそうな顔をしていますわね? ちなみに、ユーリは何かしら悩めることがあって、それを相談したくて、私に話しかけてきたわけではありませんわよね?」


 あっ。そうだったー。肝心なことを聞き忘れるところだったよー。ダメだなー。話が横道に逸れちゃうのは、お父さんからの遺伝なんだろうなー?


「んっとねー。お父さんが昼間、あたしに言っていた、【目標】と【目的】は違うって話がどうしても、あたしの中で消化しきれないのー。あたしは、お父さんとアマノさんに素敵な老後を過ごしてもらいたいと思っているのー。これは、あたしにとっては十分、【目標】だと思うわけー?」


 なんで、お父さんは、あたしの思いを否定するのかなー? そこがまったくもって納得できないんだよねー?


「うふふっ。ユーリ? それは、己の【夢】とは、また別モノだからですわ? ユーリにはあるのかしら? 誰かを傷つけてでも叶えたい【夢」が」


 えっ? アマノさん、何を言っているのー? ニンゲンが傷つけて良いのは、悪いモンスターと悪いニンゲンだけだよー? アマノさん、0時近くになって、かなり眠くなってきているのかなー?


「アマノさんー。ヒトがヒトを傷つけるのは立派な犯罪だよー? いくら、あたしのお父さんと結婚して、お父さんに感化されたからと言って、ヒトを傷つけて良いって結論には至らないよー?」


「うふふっ。身体の話ではありませんわ? 主にそのヒトの心に対して、傷をつけるのですわ? 他者を貶めて、他者を退けて、他者を心底から傷つけて。それでもなお、叶えたい【夢】がユーリにあるのかと。それが、ツキトの言わんとしている【目標】なのですわ?」


「わ、わからないよー。アマノさんはいったい、何が言いたいわけー? あたしは、誰にも傷ついてほしいとは思っていないよー?」


「うふふっ。それは、まだ、ユーリが本当に叶えたいという【夢】を見つけられていない証拠なのですわ? ツキトは約10年前と約1年半前にそれを見つけたのですわ? この世の全てを貶めて、退けて、心底から傷つけてでも、叶えたい【夢】を。守りたいモノを。そんなツキトのように、ユーリにも、ユーリ自身のための【夢】が見つけられることを願っているのですわ?」

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