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ー初体験の章51- 神帝暦645年 8月24日 その40

 俺たちが3回目のアタックを終えて、休憩時間に入り、かれこれ30分が過ぎようとしていた。現在時間は16時05分。やっと、館内の戦闘で、失った体力と魔力が少しづつであるが、回復してきたのが実感できるようになってきたわけだ。


「なあ、ヒデヨシのところの息子は、そんなに魔力が低いのか? 3歳児にも成れば、確かにニンゲン族の瞳は、そいつの魔力に見合った瞳の色に変わるけどさ?」


「ウキキッ。うちの息子は、右目がほんのりと褐色に変わった程度なのですよ。わたくしとネネは、はっきりとした、褐色の双眸ですが、どうやら、息子には魔力が上手く遺伝しなかったようですねウキキッ!」


 ふーーーん。親の魔力の桁と、その子供の魔力の桁が似通るって事例は多々あるモノの、ヒデヨシの息子は、そうでは無かったと言うわけか。だからこそ、ヒデヨシは、自分の息子に高等教育を受けさせようと考えているのかあ。やっと、ヒデヨシがそこにこだわる理由が半分ほどわかった気がするわ。


「あたし、よくわかってないんだけど、親と子供の魔力の桁って、そんなに似通うモノなのー? 親のアタマが良ければ、子もアタマが良いってのは、なんとなくはわかる気がするんだけどー?」


「ちょっと待て。まるで、ユーリのアタマのネジが緩いのを、俺のせいにするのは、やめてくれませんかね? ユーリのそれは、どう考えても、ユーリ自身の問題だからな!?」


「あたしの記憶の中では、産みのお父さん、お母さんがすっごく優秀で、どこかの会社の重役だったってことはなかったから、あたしも元々の地頭は優秀だとは思ったことは無いよー? でも、産みのお父さん、お母さんは、どちらも、あたしみたいに、紅い双眸じゃなかったんだよねー?」


「ん? それ、俺は初耳だぞ? てっきり、俺はユーリの実母が紅い双眸だと思っていたんだけど?」


 魔術師サロンの研究では、男の子なら、父親の魔力の桁に相応しい瞳の色となり、女の子の場合だと、母親の影響を受けやすいという、調査結果が発表されていたりする。


 だらか、俺はてっきり、ユーリの実母もユーリと同じく真紅の双眸をしているモノだとばかり、今の今まで思っていたのであった。


「うー、うーん? 6歳までの記憶だから、はっきりしたことは言えないけれど、あたしの実の両親はどっちも、あたしみたいにくっきりはっきりとした紅い瞳じゃなかったと思うー。でも、お姉ちゃんは、あたしと同じ真っ赤な双眸だったんだよねー」


 ユーリの姉。それはマツリと言う名であった。ユーリはまだ心の中のどこかで、その姉が生きていると考えている。俺としては、かなり、いや、ほとんど、そんな望みは無いだろうなと思いつつも、それはユーリには俺の気持ちは伝えてはいない。


「うふふっ。ユーリの言う通り、もし、マツリさんが真っ赤な双眸でしたら、どこかで冒険者として活躍しているかもしれませんわね?」


 アマノに言われて、俺は、はっ! となってしまう。


「そ、そうか……。言われてみりゃ、アマノの言う通りだわ。今度、冒険者ギルドのヨンさんに、びわ湖(ビワッコ)地方で真っ赤な双眸をしている年頃の女性冒険者が居るかどうか問い合わせてみればよかったんだわ。そしたら、ユーリとマツリさんが再会できる可能性が、グッと高まるじゃねえか。なんで、俺はそんな簡単なことに気づかなかったんだ!?」


「ウキキッ。それは難しいんじゃないですかね? 魔力がそこそこ高いだけの冒険者なら、割りとゴロゴロと居るのですよ。しかも、もし、ユーリ殿の姉が冒険者になっていたとしても、E級とD級冒険者が、冒険者全体の何割を占めるか、忘れたのですか? ウキキッ」


 ぐっ! ヒデヨシは痛いところを突いてくるぜ。D級以下の無名と言って良い冒険者なんて、冒険者全体の6割以上も占めているんだ。その中には魔力の桁が高いモノだって、当然居ることは居る。だが、E級、D級冒険者が、全員、魔力回路の開放を行っているわけでもない。


 そこは、そいつ個人の収入や、一門(クラン)からの融資からも関わってくる問題でもある。魔力回路の開放のための金貨30枚(※日本円で約300万円)など、そうそう、駆け出しの冒険者が稼げるモノじゃ無い。だからこそ、マツリさんが、その魔力の桁の高さにより、名の知れた冒険者である可能性が必然的に低くなる。


 だから、草津(くさっつ)の冒険者ギルドに所属しながらも、いくら情報通で知られるヨンさんと言えども、草津(くさっつ)今浜(イマッハマ)大津(オオッツ)以外となれば、ユーリの姉に該当する18歳の女性を探し出すなど、不可能であろう。そもそもとして、冒険者となっているかもすら、わからないのだ。あああ、せっかく名案を思いついたってのに、ヤキモキしちまうなあああ!


「お父さん、そんなに気に病むことなんて、無いんだよー? もし、お姉ちゃんが冒険者になってなかったとしても、代わりにあたしが冒険者として、超有名人になれば良いんだからー。あたしがA級冒険者にでもなれば、否応にでも、ヒノモトノ国中に、あたしの名が広まることになるじゃないー?」


「そ、そりゃ、ヒノモトノ国には、現在、A級冒険者は団長、カツイエ殿を含めて、12人しか存在しないからな。な、なんだ? ユーリはマツリちゃんを探し出すためにも、A級冒険者に成りたいって思っているのか?」


「んーん? あたしが冒険者として一角(ひとかど)のニンゲンに成りたいのは、お父さんとアマノさんを将来、養って行きたいからだよー? ユーリちゃんを探し出したい気持ちとはまた別だよー?」


 なるほど。ユーリがA級冒険者を目指そうとしている目的が少しわかった気がする。でもな? それじゃ、ダメなんだよ。


「ユーリ。これから言うことは大事なことだから、ちゃんと聞いてほしい」


 俺は、寝そべった状態から、上半身を起こし、胡坐をかいた状態に座り直す。俺の動作を見て、ユーリも思うところがあるのか、大の字状態から、身を起こし、正座をするのである。俺とユーリで向かい合って、草の上で座った後、俺はゴホンッ! と一度、咳払いをした後


「確かに、ユーリが俺とアマノを養ってくれると言う申し出はありがたいんだ。でもな? それじゃあ、冒険者としてやっていくには、目標が低すぎるんだ」


「えええーーー? あたしは、その点について、譲る気持ちは、これっぽちも無いよー? あたしをここまで立派に育ててくれた、お父さんに恩返ししたい気持ちでいっぱいなんだよーーー!?」


「違うんだ。それはそれで立派な目的なことには代わりないんだ。でも、大事なのは【目的】じゃない。【目標】なんだよ。ユーリは【目的】と【目標】がごっちゃになっているんだ。もっとわかりやすく言うと、ユーリの言っていることは【目標】かも知れんが、それは【夢】じゃないんだ。若いうちは【夢】を持ってして、それを糧として、冒険者稼業に就くべきなんだ」


「目的ー? 目標ー? それに夢ー? お父さんの言いたいことがいまいちよくわからないよー?」


 そりゃ、そうだよな。それらの違いは、実際に、30歳でも超えない限りは、ニンゲン、わからないモノなのだ。だが、ニンゲン族の寿命はエルフ族とは違って、長く生きて100歳。平均寿命は70歳なんだ。30歳ってのは、人生70年の約半分をも消費しちまってんだ。


「俺が【目的】と【目標】の違いに気づいたのは、30歳を迎えたその年だったんだ。その時まで、俺は、B級冒険者まで成り上がれれば、それで満足だと思ってきたんだ。だからこそ、それを【目標】だと思って勘違いして、日々の訓練やクエストをこなしてきたんだ。でも、ユーリ。俺は10年前に、お前をあの【お盆進行】の時、井ノ口(イノックチ)で、救った時に、それが間違いだと気づいたんだ。俺の本当の【目標】は自分の家族を作って、養って、【幸せ】になりたかったんだ。俺がB級冒険者になろうとしたのは【目的】であり、【手段】に過ぎなかったんだ」

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