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ー初体験の章45- 神帝暦645年 8月24日 その34

 栄えあるネヅ族ってなんだろうな? しかしだ。ネズミ目ネズミ科にも、尊き血筋ってもんがあるのかもしれない。遥か神代(かみよ)の時代より、延々とその血筋を守り続けたネヅ族の生き残りである、こっしろーか。うん。こんなの題材で物語を書いても、紙と墨の無駄だな。


「ユーリちゃん。偵察任務を終えてきたでッチュウ! 応接間Cの中には、怪し気なヤカンがひとりでに転がっているでッチュウ」


 俺がつまらん妄想を頭の中で思い描いている間に、こっしろーが戻ってくるわけである。


「すまん、こっしろー。こっしろーを主人公に何か書けないかと思っていたけど、書店に並ぶことなく、埋没しそうだから、やめることにした」


「ん? ツキトさんは何を言っているのでッチュウ? ついに頭がおかしくなってしまったでッチュウ?」


「こっしろーくん。うちのお父さんは時々、妄想界って言う所に転生しちゃうんだよー。ん? なんか違うなあー? お父さんの症状って転移って言うんだっけー?」


「うふふっ。転生はシャカ=サンソン教で言う所の生まれ変わりというところですわ? ツキトはまだ今生を終えていませんので、転移で正しいのですわ」


「ウキキッ。転生と転移って紛らわしいのですよね。でも、意識だけが妄想界に行ってしまう場合は、果たして、転移と位置付けて良いモノなのでしょうか? ウキキッ」


「おい。そこ。おまえらだよ、おまえら。何を真面目に語り出してんだよ。仕事中だぞ。そっちに集中しろってんだ」


 まったく。こいつら、なんで、仕事中に無駄話をしてんだ? 俺のように真面目にだな? って、なんだ? その抗議の色あいが強い視線は?


「うふふっ。まさか、ツキトに現実世界に戻ってこいと言われるとは思っていなかったのですわ? さて、お仕事、お仕事ですわ。こっしろーちゃん。中でうごめいていたヤカンは何色かは判別つきました?」


「アマノさん。ヤカンの色がそんなに大事なのでッチュウ? えっとでッチュウね。ニンゲンたちの眼で感じるところの銀色で間違いないはずでッチュウ」


 ん? こっしろーがニンゲンたちの眼で感じる色で? 何か、興味深いことを言い出したぞ? こっしろーが。


「こっしろー。ニンゲンたちの眼で感じるところの銀色って、どういうことだ? もしかして、こっしろーには、俺たちと同じモノを視ても違う色に視えるってことか?」


「そうでッチュウ。ニンゲン族やエルフ族でも、視える色に違いがあるとハイ・エルフのセナ姫が言っていたでッチュウ。逆に聞きたいんでッチュウけど、ツキトさんたちは、ネズミである、ぼくと同じ景色を視ていると思っていたのでッチュウ?」


 うお。すごく哲学的な質問をされちまったわ。こりゃ、返答次第では、こっしろーに俺の感性を疑われかねんな。


「その質問への返答は保留させてくれ、こっしろー。応接間Cのヤカンは銀色で間違いないんだ?」


「ぼくの眼では銀色に視えたでッチュウ。もし、違う色でも文句を言わないでほしいでッチュウよ?」


「わかった、わかった。こっしろーの眼を信じるぜ。よっし、じゃあ、応接間Cの中に居るのはヤカン・ナイトで決まりだな。アマノ。ヤカン・ナイトの弱点って、確か、【殴打用の武器で殴る】で合ってたよな?」


「うふふっ。ツキトの言う通りのはずですわ。ヤカン・キングでなかったことが幸いでしたわ。ちょうど、私たちはヒノキの棒と水の魔法が主力武器ですし」


 よっし。これはラッキーだったぜ。小遣い稼ぎにちょうど良いモンスターが現れてくれたもんだぜ。


「お父さんー、アマノさんー。そもそも、ヤカン・ナイトって何ー?」


「ああ。ユーリは知らなくて当然だよな。世の中のモンスターには動物系、アンデッド系はもちろんとして、魔法生物と呼ばれるモンスターが居るのは訓練中に説明したよな?」


「うん。そうだねー。ヤカン・ナイトは空飛ぶ金貨(フライング・コイン)と同じく、魔法生物として考えて良いわけー?」


「そうそう。その通りだ。世の中には色々と魔法生物はいるわけだけど、レア度の高い魔法生物の中に、ヤカン・シリーズってのが居るんだよ。こいつらは体内に金が詰まっている場合があるんだ。んで、ヤカン・ナイトになると、あいつの身体が銀色のこともあり、銀貨が詰まっている可能性が高いんだ」


「ほっほおおおー! それは、是が非にも逃さず倒したいところだねー。そのヤカン・ナイト相手に気をつけなきゃダメってことはあるー?」


 ユーリが暗がりの中でもわかるくらいに燦々と真紅の双眸を光らせて、俺の話に喰いついてくるのである。くっ。いくら我が家が貧乏だからと言って、金と言う単語を聞いただけで、そんなに眼の色を変えてしまうのは親としては困りものである……。


「えっとだな。ヤカン・シリーズはその名の通り、ヤカンの姿をしているから、表面は金属のように硬いんだ。だから、攻撃や魔法が効きにくい。それと、ヤカン・ナイトだと、魔法がまったく利かずに、殴打武器で殴るしか、ダメージを与える方法がないと言わているんだ」


「うふふっ。本当にラッキーだったのですわ。ヤカン・ナイトは魔法が利かない代わりに向こうも魔法を使ってこないのですわ。逃がさないように包囲して、延々、殴り続けるだけで、時間はかかりますが倒すことは可能なのですわ」


「というわけで、ヤカン・シリーズの解説については、応接間Cの中に居るあいつをぼっこぼこに殴ったあとに続きをしてやるからな? アマノ。魔力がもったいないと言っていられる場合じゃなくなったぜ。全員に風の恵み(ウインド・ブレス)を頼む。ユーリ、ヒデヨシと俺は、アマノが風の恵み(ウインド・ブレス)を発動したと同時に、一気に部屋の中に突入して、ヤカン・ナイトを囲むぞ!」


 アマノが肩下げカバンから呪符を4枚取り出し、俺、ユーリ、ヒデヨシ、そして自分自身の右腕に貼りつける。


風の恵み(ウインド・ブレス)発動なのですわ! お小遣い稼ぎにいざ出発なのですわ!」


 アマノの風の恵み(ウインド・ブレス)により、俺たちの身体の動きの速さは通常の1.5倍へと跳ね上がる。この魔法は身体の筋力を上げるわけではないのだが、一挙手一投足の速度を確実に増幅してくれる。


 ヒデヨシが先行し、応接間Cの扉を蹴り飛ばし、その勢いのまま、部屋の奥に一気に走り抜けていく。ユーリは回り込むように左方向へと走って行く。俺は当然ながら、部屋の右側へと素早く向かう。最後にアマノがヒデヨシが大きく開け放った扉をもう一度、バタンッ! と閉めるわけである。


 これで、俺たち4人によるヤカン・ナイトの包囲網は完全なモノとなったわけだ。


「ピピー? ピピピー!? ピーピーピーーー!」


 ヤカン・ナイトが何事だ!? と言わんばかりにピーピー鳴き叫ぶ。へっ。こんな閉所に居たのがおまえの敗北を決定づけた! その鳴き声がそのまま断末魔に変わっちまえってんだよ!


「皆! じっくり、包囲網を縮めていくぞ! 決して逃がすんじゃねえぞ!?」


「ウキキッ。さて、こいつの中にはいったい、何枚の銀貨が詰まっているのでしょうね!? 楽しみで仕方がありませんよウキキッ!」


「うふふっ。依頼主の建物内で行うクエストで、依頼主の金品に手を出すのはご法度ですが、ヤカン・シリーズが持っているお金は、なんら法には触れませんわ? これは合法、合法なのですわ!」


「うわあああー。アマノさんまで眼の色が変わっているよー。あたし、もしかして、とんでもない悪事に手を染めようとしているのかなー?」


「おいっ! ユーリ! 闘いに集中しろ! 疑問はあとにするんだ! こいつが体内に貯めこんだ金は、もしかしたら、領主さまが元の持主かも知れんが、俺たちは合法的にそれを手に入れることが出来るんだ!」


「お父さんー、アマノさんー。もし、2人が何らかの法に触れて、お縄をちょうだいしても、あたしが頑張ってお金を稼いで、保釈金を払うからねー? それがあたしなりの2人への恩返しだと思うからー」


 その後、俺たちはヤカン・ナイトを包囲したまま、ガッゴンガッゴン! とヒノキの棒で5分以上もの時間、殴打し続けることになる。ふううう。やっぱり、ヤカン・シリーズは硬いなあ。いい加減、俺の手が痺れちまったぜ。

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