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ー初体験の章43- 神帝暦645年 8月24日 その32

 さて、アマノが再び、応接間Bの扉の前に罠用に魔法陣と呪符を仕掛けた後、俺たち4人と1匹はもうひと部屋くらい調べておこうと言うことで、応接間Cの扉の前に来たわけである。タマさんの話では、ここでは主に大津(オオッツ)の領主が商談に使っていた部屋だと言っていたな。


「むっ。この部屋は鍵がかかっているなあ。ぶっ壊しても良いのかなあ?」


「うふふっ。この非常事態なのですわ。大津(オオッツ)の領主さまも見逃してくれますわ。ヒデヨシさん、さあ、今こそ【ヒノキの棒マイスター】の腕の見せ所なのですわ?」


「ウキキッ。扉のドアノブを壊すために、わたくしの実力を見せなければならないのは、少し納得がいかないのですが、ここはしょうがありませんね。皆さん、わたくしより離れていてくださいなのですよウキキッ!」


 鍵がかかって開かない扉や宝箱の鍵穴を壊してみるってのは、冒険者としては正しい選択肢のひとつである。一般人が同じことをすれば、まず間違いなく街の警護のモノがすっ飛んできて、そいつに手錠をかけるだろう。


 だがな? 冒険者にとっては仕事なのである。許可なく他人さまの家に押し入り、タンスや、書棚を調べない限りは、冒険者は見逃してもらえる可能性が高いのだ!


 ゴッキイイインッ!


 扉のドアノブがヒデヨシによる痛恨の一撃を喰らうことにより、扉からはじけ飛んだあと、廊下の床にコロンコロンと音を立てて転がり堕ちる。うーーーん、ヒデヨシは良い仕事をするなあ。あとで、タマさんには商談に使われていた応接間Cのドアノブをぶっ壊したのはヒデヨシだと報告しておくか。俺がやったと思われたら、嫌だしな。


「ウキキッ。根性が入ってないドアノブだったのですよ。この程度で【ヒノキの棒マイスター】である、わたくしの歩みを止められると思ったら、大間違いなのですよウキキッ!」


「よっし。ヒデヨシが館の器物破損を行ったが、これは合法だからな? 間違っても、ヒデヨシに罪を擦り付けるなよ? ユーリ」


「冒険者って因果な商売なんだねー。あたし、ヒデヨシさんが夜盗か何かに視えちゃったよー」


「うふふっ。もし、徒党(パーティ)に鍵開けのスキルを持っているヒトがいましたら、スマートに行くのですが、そんなヒトが徒党(パーティ)に入ってくれる機会は、なかなか無いのですわ」


 そうなんだよなあ。鍵開けのスキルを持っていると言うことは、ダンジョンに潜る際は重宝される。そのため、徒党(パーティ)に誘うだけでも、そいつに高い雇い料を支払うことになる。


 前人未踏なダンジョンや、紅き竜(レッド・ドラゴン)などの大型モンスターの巣、もしくはバンパイア族が住む城に忍び込むのであれば、そこにある宝箱からは、高値で取引してもらえるモノも手に入れられる。そこで手に入れた宝物で、鍵開けスキルを持つ奴に雇い料を払うことは容易だ。


 しかしである。そんな紅き竜(レッド・ドラゴン)の住処兼ダンジョンや、バンパイア族が支配する城に行くこと自体、ただのC級冒険者でしかない俺には稀なのだ。A級冒険者の団長が受けるクエストに荷物持ちとして同行でもしない限りは、チャレンジできないのである。したがって、俺は長年、冒険者稼業に携わっているとは言え、鍵開けスキルを持つヒトと組んだことは両手の指で数えれる程度だったりする。


「ヒデヨシさんは手先が器用そうだから、鍵開けスキルを身につけたら良いんじゃないかなー?」


「ウキキッ。ユーリ殿。お言葉ですが、鍵開けスキルを身につけるには、結構、時間がかかるのですよ。それに【義賊ギルド】にも加入しないといけませんウキキッ!」


「んんー? 【義賊ギルド】って何ー? 初めて聞くよー?」


「ああ、ユーリは知らないのも当然だよな。鍵開けスキルってのは、悪用されたら、国も行政も困ることになるわけよ。そういうわけで、鍵開けスキルや、宝箱などに仕掛けられている罠解除スキルとかを修得するには、そもそもとして【義賊ギルド】ってのに加入して、そこで腕を磨いて、免許をもらわないとダメなんだよ」


「ウキキッ。義賊ギルドは、一般には公開されていませんからね。ユーリ殿はこの春に冒険者となったばかりなので仕方がないのですよ。冒険者ギルドの館の横に細い道があるでしょ? あそこを通って、路地裏に行くと、義賊ギルドの館があるのですよウキキッ!」


「へーーー! あたし、知らなかったよー。あの細道の先は、そんなことになっていたんだねー。今度、あたしも行ってみようかなー?」


「やめとけ、やめとけ。あの細道の先の路地裏には水と風の合成魔法による幻術が仕掛けられてて、さらには罠もたくさん設置さられてんだよ。その幻術と罠を見破られないユーリには、義賊ギルドには到達できないぞ? 怪我をするだけ損ってもんだ」


「ええーーー!? 街中の路地裏に罠を仕掛けているってどういうことー? しかも、あたしが怪我をするレベルって危険じゃないのー!?」


 ユーリが声を荒げて抗議したくなる気持ちもわからないではない。だがな?


「それだけ、鍵開けスキルと、罠解除のスキルってのは、国や行政にとっては、あまり修得してほしくないスキルってことさ。だからこそ、一般人であろうが、冒険者であろうが、下手に義賊ギルドには接触してほしくないってことだ。わかったな?」


 これだけ釘を刺しておけば、普通の奴なら、諦めるのであろうが、ユーリのことだろうし、1度は義賊ギルドに行ってみようと試みるんだろうなあ。


「お父さんは、義賊ギルドに詳しいっぽいけど、何故なのー? お父さんはそこに辿りついたのー?」


「んー? 俺か? 俺は団長が一度、義賊ギルドに行ってみましょうか! って言って、大昔に無理やりつき合わされたんだよ。いやあ、あの時は参ったわあ。団長が路地裏に描かれていた魔法陣のほぼ全てを土の魔法・石の龍(ストン・ドラゴン)で破壊しやがってよ……。そのせいで、義賊ギルドだけじゃなくて、冒険者ギルドからも大目玉を喰らっちまってさあ?」


「うふふっ。草津(くさっつ)で語り草になっている、【路地裏陥没事件】ですわね。アレは、下水道の不備のせいだと言われていたのですが、まさか、【欲望の団(デザイア・グループ)】が関わっていたとは知らなかったのですわ?」


 そりゃそうだよな。義賊ギルドの存在自体を国や行政が隠している以上、その事件を起こした人物も公表できないだろうし。そのおかげで、俺と団長がそんな事件を起こしたと言うのに、義賊ギルドの所在については口をつぐむようにとの注意勧告を受けただけで済んだもんなあ。


「って、俺、何で義賊ギルドのことだけじゃなくて、【路地裏陥没事件】の裏事情までしゃべってんだよ! 皆、俺と団長がその事件に関わったってことを絶対に誰にも言うなよ!?」


「うふふっ。わかっているのですわ。でも、不思議ですわよね。義賊ギルドの存在自体を隠している割りには、存在は認めているのですから、国と行政は」


「そう言われれば不思議だよねー。お父さんはその事件に関わっていることは秘密だけど、義賊ギルドのこと自体を話していても、平気なんだねー?」


「ああ、それは大丈夫だぜ? 一般人に義賊ギルドのことを言いふらすのはダメだけど、冒険者になら言っても良いんだよ。だからこそ、ユーリには今更ながらに、義賊ギルドのことを話しているんだよ」


「ウキキッ。補足説明になりますが、鍵開けスキルや罠解除スキルは、冒険者稼業に従事しているヒトたちには、【義賊スキル】と呼ばれているのですよ。そこは盗賊だろ? って言うツッコミを喰らいそうですが、あくまでも【義賊スキル】なのですよウキキッ!」


「なんだか、大人の事情を感じるんだよー。聞こえの悪い言葉を、さも、キレイな言葉に言い換えている感じがするー」


 ユーリの指摘はあながち間違っていない。でも、ひとさまのモノを盗むために、そのスキルを身につけようとしているわけじゃないしな、そいつらも。ん? ドラゴンや、バンパイア族の宝物を盗むのは盗賊行為じゃないのかって? 何、言ってやがる。モンスターとニンゲンを一緒にされちゃあ、困るぜ。

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